第51話 一寸先は刺激的
一行、もとい茶々丸は、順調に鉱山内部を制圧して行く。もはやナビゲーターのフォックストロットさえいれば、他には誰も要らないのではと思うほどに。
「先輩、人を斬るのって案外楽しいですね!」
「お前は幕末の辻斬りか」
スッキリした顔でそう軽口を叩く茶々丸に、ミツルは何度目かわからないため息をついて項垂れる。彼女はきっとアレなんだろう。刀を抜くと性格が変わるタイプなんだろう。
「まぁ茶々丸君のお陰で制圧も順調に進んでるし、良いんじゃないか? なぁ、ライト君、フォックストロット殿」
「そうですね。ワタクシとしては茶々丸さんの写真が撮れるので満足です」
「僕も、制圧が無事に完遂するなら何よりです!」
九龍のそんな言葉に、先行する二人はそう言って笑……おいちょっと待て、一人変な奴がいたぞ?
「ライトさん、あんた茶々の写真撮ってどうするつもりだ?」
いくらアバターとは言え、流石にちょっと色々問題があるんじゃないか? それにそもそも、このアバターは仕事道具だ。
「ライトさん、公表なさるのでしたらお金取りますよ?」
ミツルの追及に、茶々丸も便乗する。ただし、半分商談だが。いや、そう言うんじゃなくてだな、とミツルが訂正しようとしたとき、ライトが我慢できないとでも言うように「ふふっ」と吹き出した。
「いや、失敬……こほん。ご安心ください。撮影した写真はお三方にプレゼントします。今回の作戦に付き合って下さった、せめてものお礼です」
「……へ?」
「そうだったんですか?」
「って、三人?」
「はい。ミツルさんと九龍さんの分も撮ってあります」
驚いてそう聞き返す三人に、ライトは柔らかに微笑みながらそう頷く。
「この戦いが終ったら、アルバムにしてお渡ししますね」
「よーし、そうとなったら頑張らなくっちゃな! ミツル、茶々丸君」
「おめーは入山してからほぼなんにもしてねぇーだろ」
そう言って、ミツルは九龍の額を指で弾いて笑ってみせた。
間も無く、目前に大きな観音開きの扉が現れた。隙間からは漏れ出す帯状の光が、この向こうが外であることを示している。
「ここからは先は外を通って山頂に向かいます。そこを制圧、維持すれば、晴れて我々の勝ちです」
「それでは皆さん、開けますよ……!」
二人がそう言って扉に手を添える。その瞬間――
――視界が宙を舞った。
*
「そっ、総理。本当ですか?」
源の言葉に驚き、和田がソファーから腰を浮かす。
確かにクニヒラ国防長官との親交と言い、自衛隊内随一のフルダイブ通である点と言い、その存在は心強い。だが、あまりにもいきなりのことで気が動転している。
「元々大江君や武田さんとの話で出ていたことではあるんだよ。この件も、大江君経由でユメミライの装備庁担当者を介して土肥君に事前に通告していた」
「和田君には申し訳ないが、知らなかったのは君だけだと言うことだ。どうか、気を悪くしないで欲しい」
政界の重鎮二人がそう、形だけ取り繕った申し訳なさそうな顔で平に謝る。和田は思わず頭を抱えた。
「渡航の準備やら何やらの話は何処まで?」
「既に装備庁長官には今朝方通告済みです。準備もほぼ出来ていますので、その辺りはご安心を」
ため息混じりのその言葉に、土肥がすかさずフォローに入る。とは言え、一層胃が痛いのには変わり無い。それが、大江絡みなら尚更だ。
「……それで、具体的には彼をどのように?」
ようやく顔を上げた和田はそう源に投げ掛ける。源はニッと食えない笑みを浮かべてこう言った。
「米製フルダイブの技術やらノウハウ、運用法等を受け取ってきてもらう」
「そんなことが可能なのですか?」
「それを可能にするのが、元情報本部所属の君の仕事だよ」
疑問符を投げた和田にそう返したのは、官房長官の武田だった。
「米国で活動中の情報本部職員、陸幕別班職員を使って、土肥君のフォローをして欲しい。出来るね?」
NOとは言わせない。そんな、威圧感のある猛禽類のような目で、武田は和田をじっと見る。
彼は、自身の人脈をほとほと呪った。
「…………分かりました。何とかしましょう」
これから数日、トイレと親友になる未来の見えた和田はそう、先程より大きなため息をついて頷いた。