第48話 決断は司令塔自らで
ミツル達はしばらく坑道を奥に進んでいく。
ふと、突然二人は大きく開けた場所に出た。マップのピンが現在地と重なる。どうやらここが、目的の鉱山で間違いないらしい。
「やっとついたな、ミツル。記念撮影でもするか?」
「お、いいねいいね。ポーズは指ハートとかで良いか?」
「ちょっと古い気もするが、まぁ良いか。ほれ、こっち向けー」
ミツルの背中から肩に座った九龍にノリノリで賛同し、一緒に指ハートを作るミツル。敵陣ど真ん中だと言うのに、なんとも気楽なものだ。
「よし、撮れたぞ」
「サンキュ! 後で送っといてくれ」
「りょーかい。……にしても、ほんっと誰も居ないな。文字通り人っ子一人」
キョロキョロと辺りを見渡して、不思議そうに呟く九龍。最早隠す気の無くなった、しなやかな黄色い尻尾も、それに連動するようにゆっさゆっさと揺れている。
「だなぁ。まぁ、まだ入り口だからってのもあるんじゃねぇの?」
そう言いつつも、やはり人気の無さに不気味さを覚えて短剣の柄に手を添えるミツル。そんな二人の心中の危機感を嘲笑うかのように、洞窟は静寂を続けている。そんなとき、
「あっ、先輩」
洞窟の中に、そんな聞き慣れた声が響いた。
茶々丸達だ。
「お、茶々。お疲れさん。お二方もお疲れ様で……って、なんか多くないか?」
「先輩達も、お疲れさまでした」
背後にライトとフォックストロット、そしてロープで拘束された五名程度のプレイヤー達を引き連れて、彼女は太刀を納めて会釈した。
「この人たちは、先ほど降伏してきた相手方のプレイヤーです」
「武装と顔写真は既にワタクシが撮影してあります」
「茶々丸さん凄かったですよ! まさか一人でこれだけの人数を下してしまうなんて……」
自慢げに胸を張る二人の脇で、フォックストロットか目をキラキラさせながらそう語る。
それにしても、相手方プレイヤーも災難なものだ。茶々丸と相対したのが、運の尽きだったなと、ミツルはロープでぐるぐる巻きにされて項垂れる彼らを哀れみの目で見詰めた。
「無理だと思ったらログアウトすりゃ良かったのになぁ……」
「残念ながらミツル君、交戦中は外部から物理的に切断されない限り、ゲームをログアウトすることは出来ないんだよ」
「え、そうなの?」
ニヤニヤとしながらそう指摘する九龍。説明書を読まないタイプのミツルには衝撃的な事実だった。
余談だが、茶々丸は当然このことを知っている。
「先輩、もしかして今までずっとその事を知らずに……?」
「おい待て茶々、俺をそんな残念な奴みたいな目で見るんじゃない」
「事実だからしょうがないでしょう」
はぁ、と大きなため息をつく茶々丸。今までの色々で少しは見直したと思っていたが、結局根は最初の頃と変わっていない。それが当然残念ではあるのだが、少しホッとしている自分もいる。もっとも、彼女自身はその事に気付いてはいないのだが。
「拘束した彼らの話によると、この先鉱山の中には相手方のトラップや防衛線が大量に設置されているとのことです」
フォックストロットが、少し緊張した面持ちで一行を見る。今居るこの大広間を抜けた向こうは既にヴァイスブルグの領内。これまで以上に困難が予想されるだろう。
「最低限の目標である回廊と坑道は奪還できました。ここから先は別の日に体勢を整えて、という選択肢もあります。皆さん、どうしますか?」
確かに彼の言う通りだ。奪還すべき領土は既に取り返した。この先はもう少し人数や装備を充実させてからでも遅くはない。最早それほど急ぐ理由も、一見無くなったようにも思える。
だが……
「相手方は我々がここまでするする突破してきていることに気付いていないか、或いは動揺していると思います。やるなら相手の準備が整っていない今が一番では無いでしょうか、フォックストロットさん」
ミツルは彼に視線をあわせて、まっすぐ見詰めてそう言った。
兵は神速を尊ぶ、とは、一体誰の言葉だったか。圧倒的に人数が少なく、装備も劣っている今、そのいずれも優れている相手に勝つにはこう言った奇襲しかないと言うのが、ミツルの意見だ。
「それに今の段階でこの鉱山全体を制圧してしまえば、相手との交渉にも乗り出しやすいかと。……まぁそもそも、今の段階で運営に通報すれば間違いないんですがね」
何はともあれ、決めるのは貴方だ。ミツルはフォックストロットにそう託す。他の一行も、それに賛同するように頷く。
一行をゆっくり見渡した彼は、やがて覚悟を決めたようにこう言った。
「……分かりました。今、やりましょう」
フォックストロットは、凛とした表情で頷いた。




