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第47話 一方その頃サムライは

 吹雪が止み、景色の晴れたミスリル回廊。

 ふぅ、と白いため息を吐いて太刀を鞘に納めた茶々丸に、ミツルからボイスチャットが掛かってきた。


「茶々、無事か!?」


 アイコンをタップした彼女の耳に、ミツルのドでかい声が突き刺さる。全く、元気な男だ。


「先輩、声でかいです。こっちは無事片付きました。そちらは?」


 眉間にシワを寄せながら、それでもやれやれと呆れたような笑みを浮かべて答える茶々。これだけ元気なら、彼らの方も問題無さそうだ。


「こっちも二人、ちゃんと無事だ。な、九龍?」

「うん、無問題(もーまんたい)だ!」

「……で、話的にそっちも一悶着あったみたいだな。報告頼む」


 先ほどまでの大きな声から一転、低い声でそう言うミツルに茶々丸は「はい」と頷き、説明を始めた。



 *



「今の音は!?」


 真っ白な狭い回廊。遠くで響いた低いさく裂音に、ライトが慌てて顔を上げる。

 音は、進行方向向かって右手側から聴こえてきた。丁度そちらには、ミツル達が担当している坑道がある。

 茶々丸の背筋を、冷たいものが走った。


「少し遠い。少なくとも私達へのものでは無いようです」


 しかし、そんなことはおくびにも出さずに、彼女はその方角にほんの少し目をやった後、太刀の柄にやった手を戻した。


「あの方角は、ミツルさんや九龍さんの……お二人が気掛かりです。茶々丸さん、ミツルさんに連絡を――」

「いえ、もし交戦中だとしたらかえって二人が危険です。今は、信じましょう」


 茶々丸はライトの申し出を断って、力強い目線で訴える。今は二人を信じるしかない。レイドボスを素手で投げ倒したあの男が、負ける訳が無いのだから。


「さっきのあの音、制圧された日にも聞いたことがあります」


 ふと、先ほどまで沈黙を貫いていたフォックストロットが、重々しく口を開く。


「ヨルムンガンドの魔法では、こんな弾けるような音は出ないので不思議だったんです。今思い返すと、もしかしたらこれは……」


 瞬間、吹雪く雪風の音に混ざる微かな異音が、茶々丸の耳をくすぐった。

 雪上で生き物がみじろぐような、足を踏み込むような、ザッともズッともとれるやや鈍い音。そして、


 カチャッ


「二人とも伏せて!!」


 茶々丸はとっさにそう叫び、頭上に閃光玉を放り投げた。いつぞやの鳥どもを討伐するとき、ミツルと一緒に買っていた。

 パチン。閃光玉が弾けた。目映い光が辺りに満ちる。彼女も一瞬目を伏せて、素早く太刀を引き抜いた。


「ぐわっ!!」


 岩壁の上から声がする。若い男のうめき声。二人は無事に目を守れただろうか。そんなことを考える間もなく、彼女は既に翔んでいた。


「神薙流・一閃……!」


 稲妻が太刀に、全身にほとばしる。飛び跳ねた体が岩壁を越える。風圧で晴れるホワイトアウト。気がつけば吹雪も止んでいる。

 男は、暗視ゴーグルをつけていた。


「クソッ、クソッ!!」


 ゴーグルを引き剥がし、投げ捨て、空いた左目で抑える男。傍らにはスナイパーライフルのような銃。

 事情は後で、しっかりと伺おう。茶々丸は向けた刃を峰に替え、自重と共に男の首に振り落とした。

 ガッ、と、鈍い音が響く。減っていく男のライフバーがギリギリのところで食い止まり、横の状態異常欄に『昏倒』のアイコンが浮かぶ。男は、動かなくなった。


「峰打ちに御座る」


 茶々丸は男を見下ろしながら、ドヤ顔でそう言った。

 決まった。念願の夢が、一つ叶った瞬間だった。



 *



「……それで、その後どうしたの?」

「はい! ライトさんの用意して下さったロープでぐるぐる撒きに拘束して見せしめにしたら、その先で待ち構えてた他のプレイヤーもふくめて、全員降伏してきました。ビデオに切り替えましょうか?」

「いや、いいや……」


 嬉々としてそう語る茶々丸の話に、ミツルは思わずため息と苦笑いを同時にこぼしてそう言った。サムライガール、恐るべしだ。


「それと、彼らの武装や名前も全部、ライトさんが撮影して下さいました。……後程、課長にお渡しします。以上」


 茶々丸はそう声をひそめて、ミツルに報告を終える。何はともあれ、無事で何よりだ。


「わかった、報告ありがとう。また、鉱山で」

「はい!」


 ミツルはそう言ってチャットを切断する。


「三人とも、元気そうでよかったな!」


 依然、ミツルの背中にしがみついている九龍が言う。


「だな! そいじゃ、俺達も生きますかぁー」


 ミツルはそう言って腰を上げ、坑道を更に進んでいった。


「ところで九龍。お前、尻尾あったんだな」

「あ、バレた?」

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