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第45話 ルーキーとて侮るな

「くそっ、生きてやがったのか!」


 ハンチョーの男はそう吐き捨て、腰のホルスターから拳銃を引き抜く。ミツル達からは死角になっていて見えなかったが、しっかり持っていたらしい。


「ハドガルデ!」


 九龍がそう唱えると同時に、ミツルは低姿勢でジグザグに肉薄する。距離はざっと十五メートル強。一、二発は被弾するのもやむを得ない。

 ふと、視界の右上に『防御力up↑↑』の文字が浮かぶ。不安な耐久面も、これで何とか補える。被弾のリスクがグッと下がる。


「おい! 援護援護!!」


 ハンチョーなる男はミツルを狙って乱射する。だが、銃弾はミツルを避けるかのごとく壁や地面に火花を散らす。『早足』スキルの恩恵だ。

 左右に蛇行する彼らを、男はまともに捉えることも、足止めすることも出来ないでいる。


「いや、ハンチョーに当たっちゃいますよ!!」


 最初に出てきた男はそう、あたふたしながらハンチョーに返す。未だP(プレイヤー)V(バーサス)P(プレイヤー)に慣れていないのだろう。拳銃を持っているとはいえ、ほとんど棒立ちの状態だ。

 あと五メートルもない。至近距離故に、グレポン(グレネードランチャー)は使えない。被弾は百も承知の上。あと三歩進めば、体術の得意なミツルに軍配が上がる。

 一歩。地面を踏み込む。相手の白目も見える距離。二歩。地面を蹴って腕を伸ばす。狙うは拳銃を持つ右手。そして三歩――


「突き飛ばせ!!」


 耳元で九龍が叫ぶ。ミツルはとっさに腕を男に押し込んだ。勢いで後ろによろめく男。

 そのとき、彼の背後で()()()がさく裂した。

 硬いものが木っ端微塵に弾けるような、空気が大きく脈動するような轟音が響き渡る。つい先ほど、数分もしない前に聞いた音。

 ミツル達は大きく吹き飛ばされる。一瞬何が起きたか理解できなかった。ただ気づいた頃には地面に仰向けに転がっていて、ライフバーが四分の一ほど減っている。


「だから言ったじゃないっすか。ハンチョーに当たって仕留めきれないって」


 声が聞こえる。先ほど棒立ちをしていた、最初に撃ってきた男だ。ミツルはすぐに切り替え飛び上がる。


「九龍大丈夫か?」

「何とかなぁ……こわ」


 背後から、そんなか細い声の返事が聞こえる。何とかまだゲームオーバーにはなっていないらしい。盾になってくれたハンチョーに感謝しなくては。


「流石はジュードーマン。一筋縄ではいかないみたいっすね」


 撃ち終わったランチャーを投げ捨て男が言う。銀髪の長い髪に、猫かキツネを彷彿とさせる細い糸目。色白で尖った耳。どうもエルフらしい。真っ黒なバンダナのようなもので首もとを覆っている。

 えらく余裕な足取りだ。とは言え構えは油断も隙もない。左手にナイフを逆手に持ち、右手に構える拳銃に添えるその形は、某有名潜入アクションゲームを彷彿とさせる。

 PVPに不慣れだなんてとんでもない。もしかするとこの男、()()の人間なのではないか? そう思わされるほどに、彼の動きには慣れがある。


「お仲間の後ろからグレポンぶっぱなすなんて容赦ねぇな。それに、俺のことも知ってるみたいだし」


 脇に落ちていた短剣を急いで拾って逆手に持ったミツルは、鞘に収まったままの長剣を順手に引き抜きながらそう問いかける。


「ハンチョーとはこっち(ヴァイスブルグ)に呼ばれてからなんで、お仲間ってほどじゃないっす。一々口出してきて、正直鬱陶(うっとう)しかったし」


 男はやれやれと言った様子で首を横に振る。頭上には、六分の一程度削れたライフバーに、「ハーメルン(Hameln)」と書かれた名前。そして、フランスの国旗と「モゼル県」の地名が浮かんでいる。


「ずいぶんぶっちゃけるな。大丈夫か? 後で居心地悪くなっても知らんぞ?」

「仕事柄窮屈な思いはしてるんで、ここでぐらいぶっちゃけさせて下さいよ、ジュードーマン」


 ハーメルンなる男が発砲する。空気の裂ける音が真っ直ぐ耳元を掠める。


「わっ!?」


 甲高い金属音と共に、九龍の声が響く。


「九龍!!」

「だっ、大丈夫だ! 前向け前!」


 咄嗟に振り返ったミツルを、九龍が諌めるようにそう叫ぶ。


「あぁ、やっぱりこっちでの感覚はまだ慣れないっすね。どうしても射線がブレる」


 弱ったな、とでも言いたげな声で、ハーメルンは首をかしげる。


「まぁでも、ジュードーマンと戦えて光栄っす。本当はサムライガールの方ともやりたかったっすけど、贅沢は言うもんじゃないっすね」


 なるほど。なぜ彼がミツルのことを知っているのか、これで全て合点がいった。


「あんた、あの時一緒に居たな?」

「おおー、ご名答。気づいてくれて嬉しいっすよ。俺、あの時からファンなんです。さっきはまさか侵入者があなただって思わなくって外しちゃいました」

「俺も、まさかこんなところでファンと会うとはな。ちょっと、サービスしなくっちゃだな」


 ミツルは腰を低く落として構え直す。それに釣られて、ハーメルンも構えを取る。


「お手柔らかに、お願いします!」


 カチャリ。硬いものが地面に落ちる。

 気付いたときには、ハーメルンが懐に飛び込んできていた。

 得物は、ナイフたった一本のみだ。

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