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第44話 チーターにはお仕置きを

 ――ミスリル回廊


 反り立つ岩壁に左右を挟まれた、石畳によって舗装された狭い道を、茶々丸、ライト、フォックストロットの三人は進む。

 先ほどから吹きすさぶ吹雪は更に力を増し、今では一メートル先の状況さえ目に見えない。こう言うのを、確かホワイトアウトと言うのだったなと、茶々丸は頭の中で呟いた。


「フォックストロットさん、この先は一本道ですよね?」

「はい。このまま道なりに進めば大丈夫です!」


 横に並んで歩く彼が、茶々丸の声に大きく頷く。よし、それなら……


「ライトさん。長いロープみたいなもの、持ってますか?」

「え? えぇ、ありますよ。それがどうか?」


 フォックストロットとは逆の方向にいるライトはそう、茶々丸の言葉に首をかしげる。彼女はしてやったり、と笑みを作ってこう言った。


「二本のロープを私の腰に結んで、それぞれライトさんとフォックストロットさんに連結。三角形の隊列で進みましょう」


 ここまで三人は、互いがはぐれないように横一列で進んでいた。それをロープで連結することではぐれること無く、戦闘隊形に移行しやすい並び方で進める。


「でも、それでは茶々丸さんが危険に……」


 そう心配するフォックストロットに、茶々丸は親指を立て、自信満々にとりなした。


「ご心配無く! 私、目がなくとも進めますので」


 遠く離れた場所から低い轟音が響いてきたのは、その直後の事だった。



 *



 凄まじい轟音が、坑道の中に響き渡る。

 硬いものが木っ端微塵に弾け、空気が大きく脈動する。そんな、火器がさく裂したとき特有の音だ。


「ひっ、ひぃ……」


 ミツルの腕の中で、九龍がそんな情けない声を漏らす。

 体を丸くして座り込み、九龍を抱えたミツルは顔を上げ、弾着地点から吹き上がる煙と砂ぼこりを見てホッと一息つくと、背中を岩壁に預けた。


「横道がなけりゃ、今頃俺達ミンチだな。あっぶね」


 二人は今、先ほど進んでいたメインのルートから脇にそれた、細い横道の中にいる。砲口が向けられ、相手が引き金を絞った瞬間にミツルがとっさに九龍を抱えて飛び込んで、今に至る。まったく、相手が下手くそで助かった。


「粉塵が目眩ましになってる。多分このまま通り過ぎるだろ」


 先ほどからプルプルとミツルの腕の中で震えている九龍の耳元で彼はそう囁くと、腰元から短剣を引き抜いてまた入り口の方に目をやった。

 それにしても、


「このゲーム、剣と魔法のファンタジーじゃねぇのかよ。グレポン(グレネードランチャー)なんて物騒なもん持ち出しやがって」


 ミツルは吐き捨てるようにそう呟く。明らかに、世界観に不釣り合いな現代兵器。こちらはFPSをやってる訳ではないのだ。

 そんなミツルの心から漏れだした声に、九龍が顔を上げて小さく答える。


「あいつら多分チーターだ。アメリカ製フルダイブゲームの『E・F・O』と、こっち(ヨムルンガント)が互いに行き来出来るのは知ってるだろ?」

「まぁそりゃな。提携も組んでるらしいし」


 そもそもE・F・Oを開発した『Dream Star社』のCEO、ジョージ・リーは大誠と旧知の仲だ。お互い今でも良く連絡を取っているらしい。


「そう。それで向こうのゲームにもアカウント持ってる奴らがチート使って、お互いにアイテムやら武器やらを輸出入しまくってる。あいつらの自前か、誰かから貰ったのかはわからないがな」


 ようやく落ち着いたらしい九龍は、声を潜めながらも饒舌(じょうぜつ)にそう話した。つまり、


「あいつらボコって運営に通報すりゃ良いってこったな」

「あいっかわらずの脳筋だな、君は……でも、悪くない。あいつらには恥かかされたお礼もしなくちゃだ」


 二人はそう見つめあって小さく笑う。これにて、目的は一致した。


「私は何をすれば良い?」

「俺の背中にくっついて証拠写真を撮ってくれ。あと出来ることなら、近接戦で戦う俺の支援も頼む」

「任された。私の専門はバッファーだからな。写真の方も、ライトほどは無理だがそこそこ出来る」


 ミツルの背に回りながら、九龍は自慢げに親指を立てる。ミツルも腰を浮かせて、飛び出す準備は万端だ。


「よし。それじゃお互い、頑張ろうぜ」

「おう」


 二人はサムズアップした拳を合わせ、小さく頷き合った。


「ハンチョー、やっぱやったっぽいよ」


 煙が段々晴れてくる。相手方も、確認のために出てきたようだ。


「お、マジかナイスぅ。にしても、あんなブレブレで良く当たったな」

「ホントそれ。まぁ奇襲だったからっしょ。まぐれまぐれ」

「えー、二人ともひっでぇ」


 そんな男達の声が響く。声は三つ。足音も同じ数。一人の方はどうも、既に横道を通過しているようだ。

 ミツルは姿勢を一層低くして地面に手をつく。もう少しで顎もつきそうだ。そんな彼にならって九龍も、ミツルの背中にぴったり添うようにくっついた。


「さぁて、戦利品でも漁りますかぁ」


 そんなことを言いながら、ハンチョーと呼ばれていた声が横道には目もくれずに通過する。

 薄くなった土ぼこりに透けて、緑色のベレー帽を被った軽薄そうな赤髪の男の顔が、肩にベルトでぶら下げた黒いランチャーの姿と共に見える。

 あの形状は……パンツァーファウストだろうか。使い捨て式の対戦車用グレネードランチャー。自衛隊でも、何度か見たことがある。


「おぉー、(けむ)た。こりゃ探すのも一苦労っすね」


 続くもう一人の方は赤いバンダナで顔全体を覆っていた。そして武装の方も、先ほどのハンチョーとやらとほぼ同様だ。精々、腰から拳銃をぶら下げているのが違いだろう。


「九龍、撮れたか?」

「バッチリだ」


 お互いにしか聞こえないような声でそう確認し、ミツルはまた前を見る。

 最後の男は、横道の入り口を半分ほど通過している段階。ミツルは爪先にグッと力を込めた。


「それじゃ、行くぞ」

「ああ!」


 瞬間、ミツルは前に倒れ込む様に地面を蹴った。最後尾のバンダナ男は、声もなく彼の体当たりを食らう。短剣が横腹深くに突き刺さる。

 致命傷だ。そのまま頭上のライフバーがゼロになり、男は青い粒子となって霧散した。

 三人とも、ユーザーネームも国籍もしっかり確認済み。あとは、


「なっ、なんだお前ら!?」

「はっ、ハンチョー! こいつら、さっきの奴らです!」


 倒すだけだ。


「お前ら、お仕置きの時間だゴルァ!」

「そうだそうだ!」

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