第43話 進軍ルートはくじ引きで
――ホワイトステート郊外・ヴァイスブルグ境界線付近
「このY字路を右に行けばヘルヘイム第八坑道、左に行けばミスリル回廊となります」
中心街から大通りを北へ歩いて数分。分かれ道で立ち止まったフォックストロットは緊張した面持ちで、そう左右を指差しながら言う。
天気は生憎の荒れ模様。三メートル先さえおぼつかない猛吹雪だ。それでも、マップに目的地までのナビゲート機能がついているので、道に迷うことはないが。
「坑道も回廊も横道があったり曲がりくねったりはしていますが、目的の鉱山までは一本道です」
「人数は五人。どう分ける?」
「あっ、やっぱり私も入ってるんだね」
ミツルも茶々丸も、お互い戦闘面で強いことは知っている。だが、他三人に関しては全くの未知数だ。一応頭数に入れた九龍に至っては、そもそも戦力になるのかどうか……。
「もう少し戦力が整うまで、もう少し後に伸ばすと言うのはどうでしょう?」
「いえ、実はもう後がないんです」
小さく右手を上げて提案した茶々丸に、フォックストロットは難しい顔をして首を横に振る。
「どうしてです?」
「マップ上では鉱山は確かにヴァイスブルグ領にあるんですが、回廊と坑道は境界線のこちら側。つまりホワイトステートの領地にあります」
「あっ、本当だ。ギリギリ境界線の内側に入ってる」
マップを確認したミツルは思わずそう声を漏らす。ホワイトステート領を青、ヴァイスブルグ領を赤で示したそのマップでは、ピンをつけた回廊と坑道がどちらも辛うじて青い領域に入っている。
「逆に鉱山はギリギリ境界線の外にありますね」
「だいぶビミョーだけどな」
横からマップを覗き見、ピンを刺して呟くライトに、その肩にしがみついている九龍が目をこらしながら呆れたようにそう言った。
「……ですが他の領主や、その領地に所属しているプレイヤーに二週間以上実効支配されると、その地点の支配権が相手方に移ってしまうんです」
「その期限がもう間近に迫ってる、と言う訳ですか」
「そうなります」
フォックストロットは相変わらずの渋い顔で頷いた。
「実効支配確定まであと十時間もありません。早急に、少なくとも二つの道は取り返さなくては」
彼の顔に、だんだん焦りが見えてきた。メンバー分けで時間を食っている暇はなさそうだ。
「こうなったら、くじ引きしか無いな」
一行を見渡して、ミツルはそう提案した。その結果、
「どうしてよりにもよって君なんだよ」
「しょーがねぇだろ、運だよ運」
くじ引きの結果、坑道攻略班としてミツルとタッグを組むことになった九龍は、さっきからずっと同じようなことをボヤいている。
「こんな脳筋ゴリラじゃなくて、どうせなら茶々丸君と組みたかった……」
「奇遇だな。俺もお前みたいな引きこもりチビじゃなくて、茶々と組みたかった」
「なんだとぉ?」
「おぉ? なんだやるか?」
二人が坑道に入って数分。早くもいがみ合う声がこだまする。そんなとき、
「おいお前ら、何者だ!!」
「「おっ??」」
坑道の奥から、そんな声が複数の足音と共に響いてきた。
ここは相手方の占領地。つまり当然、巡回のプレイヤーもいるわけだ。
「おい九龍! お前がうるせぇからばれちまったろ!!」
「はぁ!? やかましいのは君の方だろ!!」
敵の接近に際しても、なお二人は睨み合う。そして、
「おい! こいつらホワイトステートの連中だ!!」
「うるせぇ!! 今取り込み中――」
「ちょっと向こうに言っててもらっていいか――」
反射的に振り向いた二人の視界に、巡回プレイヤーの武装が目に入った。
「「あれ、バズーカじゃね?」」
瞬間、二人に向けられた大きな筒から、弾頭が飛び出した。