第42話 面談は伯爵直々に
「どうぞお掛け下さい」
場所を広場から、フォックストロットの館へ移した一行は、彼にそう促されるままに応接室のソファーに座る。
部屋はまるでテニスコートのように広く、かつ豪華絢爛。大理石で作られた床にはペルシャ絨毯さながらの敷物が敷かれ、シックな黒光りするふかふかのソファーの間にはクリスタルガラスで出来たテーブル。
純白の壁を見てみれば、そこには大量の写真や絵画が豪勢な額縁に入れられ、本棚や壁際の彫刻を縫うように所狭しとかけられており、そのどれも素人目で見ても一級品の雰囲気を呈している。
「あのシャンデリア俺よりでかいぞ」
「先輩見てください、あそこに高そうな彫刻が! ミニゲーム何回分するんでしょう……」
「社会見学に来た子どもか! フォックストロット氏、申し訳ない」
目をキラキラさせながら部屋をキョロキョロ見回す二人に代わって、九龍が恥ずかしそうに謝罪した。
「いえいえ大丈夫ですよ。そもそも、見て貰うための部屋ですので!」
フォックストロットは相変わらずの天使のごとき笑顔を輝かせて九龍に返す。教師だから、こう言うのには慣れているのかもしれない。
「この部屋にあるものは基本的に全部、ワタクシが買い付けてきたものですね。領地から中々離れられない彼と違って、ワタクシは写真を撮りに各地を回りますから」
「その代わりに、僕がライト殿のパトロンとして資金や拠点の提供、写真の買い付けを行っているんです。壁にかけられた写真は、全てライト殿の作ですね」
二人は目配せしながらにっこり笑顔でそう言う。信頼関係で結ばれた、良いパートナーと言うわけらしい。
「それでは、そろそろ本題に入りましょうか」
ライトはそう言うや否や表情を引き締め一行を見渡す。ミツル達も真面目な顔をして、「よろしくお願いします」と、フォックストロットに視線を向けた。
「分かりました。……ある程度の状況は、ライト殿から聞いていると思いますが、一応」
そう言って彼はこくりと頷くと、現状の説明を始めた。
「我が領地ホワイトステートは、隣接する伯爵領・ヴァイスブルグと鉱山の領有権を巡って対立しています。元々この領地は係争中の鉱山へ向かうプレイヤー達によって発展していましたが、それも今となっては先程見た通りの有り様です」
元来誰の持ち物でもなかった鉱山を正式に領有する者が現れたのなら、人がそちらに集まるのは自然な流れ。だが、それによって衰退する方はたまったものでは無い。
「それでも、ふた月前の共同経営の合意後はまだマシでした。問題は、その直後の一・五年アニバーサリーで追加された鉱物『ハードオリハルコン』の鉱脈が発見された半月前。稀少ではあってもこれを素材として作る武器や防具が軒並み強いと言うことで、市場価格が一気に高騰。それが大量に産出すると言うことで……」
「合意を破られた、と」
「ええ。鉱脈発見の報告が上がったその日のうちに彼らは鉱山と、我々の領地からそこへ向かうミスリル回廊と、ヘルヘイム第八坑道を、他プレイヤーを雇って武力封鎖。以来、鉱山へはヴァイスブルグを通らなければならなくなりました」
フォックストロットは悔しそうな顔で言う。当然だろう。約束を突然破られた挙げ句、自らの領地を衰退させられたのだ。
ここに再び、大量のプレイヤーを引き戻したい。活気を取り戻したい。それが、彼のたっての願いなのだろう。
「少なくとも僕は、現状を合意の時点まで巻き戻したい。その為にライト殿を中継して皆さんをお呼びしました。回廊と坑道、鉱山から彼らの勢力を叩き出して欲しいのです。報酬は先述の通り鉱山での無償採掘権を譲渡します。その上で、更なる活躍があったときには追加の報酬も考えています」
そう言い終えたフォックストロットは一度大きく深呼吸をすると、深々と頭を下げてこう締めた。
「お三方の話はライト殿から聞いています。どうか、僕に力を貸して下さい」
「ワタクシからも、お願いします」
彼につられて、ライトも頭を垂れる。そんな彼らを見て、二人は何故か頭数に入れられている九龍と共に目を見合わせた。
ここに来ると決めたとき、既にどうするかも決めてある。
「こちらこそ、是非お手伝いさせてください!」
「先輩だけに良い顔はさせられません。私も微力ながら頑張ります! ね、九龍さん?」
「え、私もやるの?」
かくして一行は、鉱山を巡る戦いに足を踏み入れた。
「ホントに私もやるの?」