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第41話 雪国廃墟の少年領主

 ドラゴンに乗って離陸してからおよそ十五分。不意に、足元の風景が一変した。

 それまでうっすらと広がるだけだった雲は途端に分厚さを増し、雲の切れ間から覗く大地は一面の雪化粧。そんな下界から目線を正面に持ち上げると……


「先輩、あの山すごく大きいですね!」


 厚い雪雲のカーペットを切り裂くように大地から屹立(きつりつ)する、巨大な山脈が姿を現した。

 頑強そうな山肌を雪で包んだ白銀の(みね)

 高校時代に柔道の合宿で訪れた飛騨の名峰・穂高連峰(ほだかれんぽう)を彷彿とさせるその見た目に、ミツルはまたも心奪われる。


「いよいよブリューナクに入りましたね。あと数分もしないうちに着陸になります」


 どこからともなく取り出していた木製のカメラのようなアイテムで山の写真を撮影していたライトは、一通り撮り終えるとそう言って振り返る。どんな写真が撮れたのか、陸に降りたら見せてもらおう。


「九龍さん、あともう少しだそうで――あっ、気絶してる」


 ライトの言葉を告げるため、身を乗り出してドラゴンの腕を覗き込んだ茶々丸は、思わずそう呟いた。


 ドラゴンの鼻先に、雲の切れ間から複数の建物や石畳の姿が見える。


「見えました。あそこが目的地、伯爵領ホワイト・ステート(白い州)です」


 ライトは町を指差してそう言った。



 *



「……ぁあ、酷い目に遭った」


 一行は、町のはずれにある広大な無人の空き地に着陸した。

 陸地に降り立って早々、やっとこさ目を醒ました九龍が頭を抱えてそうぼやく。


「二十分間ほとんど寝てたじゃねぇかよ」

「おぉ、なんだと?」

「んだよやるか?」

「まぁまぁお二人とも」


 相変わらず火花を散らす二人の間に入ってなだめる茶々丸も、そろそろ手慣れてき始めた。まるで格闘技のレフェリーのごとき手際だ。


 伯爵領ホワイトステート。降り積もった雪に包まれた、石造りの建物が多く建ち並ぶ鉱山町。

 プレイヤーの領土でありながらその規模や発展具合はブリューナク随一とも言われている。

 外の都市や、稀少なアイテムの産出する鉱山へのアクセスが抜群に良いことが、その発展の要因とされている。が、


「それにしても、人がいないな」


 普段はバザーなどが行われているであろう、一行の降り立った空き地にはプレイヤーのいた痕跡すら残っておらず、また街全体も不気味な程に静まり返っている。


「ワタクシもまさかここまで酷いとは思ってもいませんでした。いつもならこの街は、石畳が見えないほどにプレイヤーで賑わっているんですが……」


 (一旦九龍との争いをやめ、)辺りを見渡し呟くミツルに、ライトはそう顎に手をやって深刻そうな顔をする。


「話し声すら聞こえないな。噂通り、まるでゴーストタウンだ」

「みんな、どこ行っちゃったんでしょうね」


 九龍と茶々丸もそう言って首をかしげる。九龍の方に至っては、どうやらある程度知っていたようだが。


「取り敢えず今、友人には連絡が取れました。もう近くにいるそうなのですぐ来ると思います」


 他三者がめいめいに街を眺めている間、その友人なるプレイヤーとチャットをしていたライトが言う。その直後、


「ライト殿ぉー!!」


 広場の出入り口。街の通りの方から、そんな大きな少年の声が聞こえてきた。ここの領主であるその友人とやらが来たらしい。


「来ました。彼です」


 顔をパッと明るくさせ、ライトがそう紹介する。そこには……


「皆さん、はじめまして! 僕が伯爵領ホワイトステート領主のフォックストロット(Foxtrot)です!」

「あれ、何処だ?」

「あ、もうちょっと下です下」

「下? ……おっ」


 一メートル有るかどうかと言う身長の、赤いマントを地面に引きずる、褐色肌の小さなドワーフの少年が居た。


「これは失敬。ミツルと言います。どうぞよろしく」

「わぁ、ちっちゃくて可愛い! 雪見茶々丸です。よろしくお願いします」


 急いで駆け寄ってきた茶々丸と共に、ミツルは屈んで差し出された手を取り自己紹介をする。

 エメラルドのようなキラキラとした純真な瞳を細めながら、フォックストロットは白い歯を見せ、弾けんばかりの笑みを浮かべた。


「はい! よろしくお願いします!」


 そんなやり取りを、九龍はドラゴンタクシーの影に隠れて見守っていた。


「九龍さん、どうしました?」

「わっ! って、なんだライト君か。いや、私子どもがちょっと苦手でね」

「あぁ、ご安心下さい。彼、中身はただの少年好きの女性教師ですから」

「安、心……?」

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