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第40話 ドラゴンタクシーは夢心地

「では早速、これに乗って行きましょう!」

「なんで私まで……」


 九龍亭を後にしたミツル達は、ライトと(何故か一緒に来ることになった)九龍とともに、王都正面の平原に立っていた。

 ニコニコと微笑みながらそう言って背後を手で指すライト。先ほどから何やらぶつぶつ文句を垂れている九龍をよそに、二人は呆然とライトの指す()()を見上げている。


「おぉ」

「ずいぶん、おっきいですね」

「ええそうでしょう。この()()()()()()()()、最大で三十人まで運べるんです」


 さぁ乗って下さい。と、五メートル強程の高さの背中から垂らされた縄ばしごに手を掛けて、ライトは三人をそう急かす。

 頭から尻尾の先までは大体十メートル。陽光を反射して輝く鮮やかな赤い鱗はミツルの手のひらとほぼ同じ大きさで、頭の後ろ辺りから伸びる角に至っては彼の身長ほどもある。

 そんな、命の危機すら感じるような大きさのドラゴンが今、良くしつけされた大型犬のように地面に伏せて、刀のような長さの牙を見せつけながらくわぁと、のんきにあくびしている。


「ライト君、私高いところは苦手なんだが」


 ライトの言葉に背を押され、ミツル達が次々縄ばしごに足を掛けて登るさなか、最後尾として一人陸地に残った九龍がオドオドとそう弱々しく声をあげる。


「大丈夫ですよ。システム的に落ちない仕様になってますから」


 そんな九龍の必死の訴えを、既に背にまたがって下を見下ろすライトは優しくそう言って切り捨てた。しかし後には引けない九龍。「いやそう言う問題じゃ」と言って負けじと対抗しようとする。そのとき、


「うわっ!? なっ、なんだ!?」


 不意に、九龍の背中にドラゴンの大きな手が伸びる。

 大きな三角コーンと同程度の大きなツメによって首根っこをつまみ上げられた九龍は、泣き出しそうな顔のまま、残ったもう一つの手のひらの上にちょこんと座らされた。

 ここまで来ると、もう哀れだ。


「四人で登録してあるので、自動で乗せられてしまったみたいですね」

「九龍さん、しっかり指につかまっておいて下さいね」

「良かったじゃないか九龍。特等席だぞ」

「良いわけあるかぁー!!」


 そんな微笑ましいやりとりの後、最後に縄ばしごに登った茶々丸がドラゴンの背にまたがった。

 座席はトゲトゲとした三角の背びれと背びれの間で、上手いこと背もたれと持ち手の代わりとして機能している。座り心地も案外上々。快適な空の旅が期待出来そうだ。


 ぐらり。瞬間、視界が大きく揺らぐ。ドラゴンが立ち上がったらしい。


「うわっ! 行きなり立つなよぉ!!」


 相変わらずやかましい九龍は、既にドラゴンの指をがっちり両手でホールドして離さない。上体が斜めになっている上三人と違って、ずいぶん平坦なはずなのだが。


「先輩、ジェットコースターの最初みたいですね!」

「言われてみりゃ確かに。なんかワクワクしてきたな」


 ウキウキした様子で後ろから話しかける茶々丸に、ミツルも期待感を膨らませながらそう返す。昔からこう言う絶叫マシーンなんかには目がないのだ。


 ばさり。二本の足でしっかり地面から立ち上がったドラゴンは、自身の身の丈ほどもある翼を大きく広げる。


「さぁ皆さん、いよいよフライトですよ。準備は良いですか?」


 最前席のライトがにっこり笑って振り返り、期待感を更に高めるようにそう問い掛ける。


「「大丈夫でーす!!」」

「いや大丈夫じゃないが!?」

「それでは行きますよぉー」

「いやいやいやいや待て待て待て待て待てま――――」


 瞬間、風景が一気に背後に流れて消えた。強い風が髪を背後にかき上げる。

 耳元で聞こえるのは、ごうごうという風の音と、それに微かに混ざる誰かさんの絶叫。

 気づいた頃にはすぐ近くに見えた森の木々も城壁も、あまつさえ空に浮かんでいた雲すら視界に無い。

 姿勢が地面と平行に戻る。ミツルの目に入ったのは、


「すっげぇ……」


 どこまでも真っ青な晴天の空と、足元に広がる白い雲の絨毯。そして、その切れ間から覗く緑豊かな平原や、転々と存在する森の木々。

 あれほど存在感のあった王都の城壁や町並みはおもちゃのように小さくなり、プレイヤー達の姿などはもはや点にすら見えない。ただ、地平線の先まで広がる剣と魔法の幻想的な仮想世界が、延々と広がっているだけだ。


「先輩、凄いですね!」


 背後から、足元を見下ろして感動した茶々丸がそう叫ぶ。あまりのその雄大さに、ミツルはただ頷くことしか出来ない。

 現実世界では到底見ることの出来ない光景に、彼はただただ心を強く打たれ、圧倒されていた。


 幼い頃に憧れた、液晶画面の向こうの世界。現実のあらゆるしがらみから解放された無限の大地。それがそのまま、彼の足元に広がっている。

 俺は今、かつて見た夢の中にいるのだと、ミツル……充は、この光景を眺めて初めて実感した。


 ――兄ちゃん。俺、ここまで来たよ。


「ここから目的地まで二十分。それまで、快適な空の旅をお楽しみ下さい、ですね!」


 ライトはそう、ニカッと笑って親指を立てる。九龍は、気づいた頃には既に静かになっていた。

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