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第4話 カフェテリアで一息ついて

 バスと電車、地下鉄を相次いで乗り継ぎ小一時間。まず最初に二人が訪れたのは、自分達の会社である公益社団法人全日本フルダイブ技術統合会議所。

 様々な部所や、社団幹部、社長などへの挨拶回りと業務の再確認。それから備品や資材の確認等。事がうまく進めば一、二時間で済む予定だったのだが……


「まさか十一時半までかかるとは……」


 ようやく最後の部所を出た充はもう、疲労困憊(ひろうこんぱい)という様子だ。


「最初の社長室でのお話が長かったですね。課長、お疲れさまです」

「まさかあそこで一時間半以上時間取られるとは思ってなかったですよ……伊藤さんこそ、お疲れさまです」


 ユメミライ本社に行くまでに、どこかで一息つきましょうか。あそこの近所に確かカフェがありますので、と付け加え、充はエレベーターのボタンを押す。

 向こうの担当は信也だから、ある程度融通を利かせてくれるだろう。そもそも「早ければ午前中に」と言う話なのだから、怒られるいわれはない。

 彼はポケットからスマホを取り出し、『カフェ行くから遅れる。許せ。文句はうちの社長によろしく』とメッセージを送信した。


「向こうの担当者さんが大丈夫なのでしたら、そうしましょうか。……流石に私も疲れました」


 そうは言っているものの、優輝は至って涼しい顔をしている。最近体中にガタが来はじめている(おっさん)とは大違いだ。

 これでも彼なりに筋トレ等しているつもりなのらしいが、やはりデスクワークは肌に合わないらしい。


「……って、中央情報隊も似たようなもんか」

「と言うことは課長、一昨年までは朝霞(あさか)にいらしたんですね」

「あー、そうなりますね。あの頃が懐かしい――え?」


 自分にしか聴こえないような声でボソリと呟いただけなのに、もしやそんなに大きな独り言だったろうか? だとしたらこれは相当恥ずかしいぞ……。

 そう困惑と羞恥心が炸裂する充に、優輝は小さく得意気にはにかんだ。


「私、耳には自信ありますので」

「な、なるほど」

「あと、敬語も使わなくて大丈夫です。名前もどうぞ呼び捨てで」

「お、おう」



 *



 ユメミライの本社は、|霞ヶ関《フルダイブ技術統合会議所》から程近い虎ノ門に置かれてある。

 元々官公庁関連の施設が入っていたビルを丸々一棟、中身を押し退けてまで収まったと言うのだから、この会社の社長がいかに豪快で強引で、かつ根回し周到な性格だと言うのが良く分かる。

 ……もっとも、その豪快な社長の息子と言うのが、

 

「ビックサイズキャラメルバナナフラペチーノLLL(トリプルエル)サイズを一つ。伊藤、なに飲む?」


 この男(北条充)なのだが。

 二人は今、虎ノ門の一角に店を構える、某有名カフェチェーン紛いのカフェにいる。値段もそこそこリーズナブルで霞ヶ関にも程近い。官僚時代の充の、行きつけの店だ。

 本物に見つかって、店が潰されないことを祈るばかりだが。


「それでは、ストロベリーフラペチーノのMサイズを……って課長、昼前にそれは流石に重く無いですか?」


 賢明な部下から冷静なツッコミが入る。現在時刻はようやく十二時になった頃。昼にはまだ少し早い時間だ。

 そんな優秀な補佐役からの諫言に、充は一瞬動作を止めて考え直す。確かにそうだ。昼はガッツリ系で攻めたいのに、今ここでこれは流石に、


「まいっか。後であのクソ教授に払わせよう。あ、領収書貰えますか? 伊藤も、金のことなら気にしなくて良いからな」

「課長、お財布の心配では無いんですよ」


 伝わらない言葉の意味に、優輝は小さくため息をついた。

 そんなやり取りの後、二人は揃ってテーブル席に向かう。充が優輝をエスコートする形だ。


「課長、今日半日同行して頂いて思ったのですが、手慣れてますね」

「ん? あー、俺の姉貴もそうだったんだよ。歳も近かったし、働いてる兄貴心配させたくなかったしな。ほれ、席ついたぞ」


 イスを引き、スムーズに彼女を席に誘導する。口調や態度からは分かりづらいが、存外気配りの出来る男なのだ。父親に支払いは押し付けるが。


「課長、お兄さんとお姉さんがいらしたんですね」

「弟と妹もいるぞ。兄弟続柄コンプリートだ」


 まぁ半分血は繋がっていないがな、と言おうとして、まぁ良いかと充はフラペチーノに口をつける。

 本家本元には流石に劣るが、この店のも中々に旨い。味の再現度の高さを狙っていない点から、この店のマスターの裁判回避の思惑が見える。


「五人兄弟……ですか。仲、よろしいんですか?」

「姉貴とは今でも連絡とってるな。下二人ともまぁまぁたまに。兄貴は――」


 そう充が話をしようとしたそのとき、背後から中性的な声が響いた。


「おっ、やっぱりここにいたか」


 慌てて二人は振り返る。声の主はパッと左手を軽く上げ、右手で車椅子のレバーを操作する。


「金曜振りだな、みつるん。それと、伊藤警部補」


 ダボダボの白衣とニット生地の服、そして黒髪さらさらボブカットの中性的な男――三浦信也の姿が、そこにあった。

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