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第39話 懲りない二人に依頼人

 気づけば季節は夏本番。

 八月のど真ん中に到達した首都東京は、例年通り災害レベルの熱波に覆われていた。日中外に出ようものなら即座に強烈な日射に肌を焼かれ、なにも対策しなければ病院送りは免れないだろう。

 そんな地獄のヒートアイランドと化した、世界屈指の大都市のオフィス街にて、充達は……


「いやぁー、近代文明最高!!」

「極楽ですねぇ……」


 クーラーをガンガンに効かせて、優雅に事務作業に従事していた。オフィスの電気代云々は会社が負担してくれるので、二人や課のダメージにはなり得ない。


「ホント、千葉所長がその辺寛容で助かったぁ」


 作業に一段落付けた充は、家から持ってきた自分用のマグカップに氷と麦茶を注ぎながらそう呟く。

 配属初日からとんでもない長話で二人を疲弊させた所長だが、こう言う福利厚生や社内環境を整えることに関しては右に出るものがいない。

 今にして思えば、彼がトップで本当に良かったと言うのが、充と優輝の共通の意見だ。


「お盆休みも、一週間分有りますしね。課長は何処かお出かけなさるんですか?」

「いやぁ、俺はいつものメンツと飲み会する以外は特に考えてねぇかな。外暑いし。伊藤は?」

「私はカンボジアの祖父の家に家族みんなで帰省ですね。お土産、何が良いですか?」

「まってお爺さんカンボジアに住んでるの?」


 そんな他愛もない話をしていたそのとき、


『ボイスメッセージを一件、受信しました』


 優輝のパソコンから、そんな音声が聞こえてきた。


「ボイスメッセージとは、また珍しいですね」

「仕事関連のは基本的に文章だもんな」


 充はマグカップを持ったまま席を立ち、優輝の横に並んで画面を見る。

 優輝はキーボードを器用に叩き、送信されてきた音声を再生した。


『ハロー、暇人茶々丸君。九龍だ。面白い話があるから、とっととログインして店に来な』


「「……は?」」



 *



「やーやー、来てくれたかね茶々丸君……と、呼んでもないのに相変わらず付いてきたミツル君」

「相変わらずとはなんだ相変わらずとは」


 ログイン早々、カウンターテーブルを挟んでバチバチ火花を散らす二人の間に割っては入り、茶々丸は話を切り出した。


「九龍さん、それで話ってなんでしょう?」

「あぁ、そうそう。その話なんだけどね――」

「ワタクシの方から、ご説明しましょう」


 不意に、カウンター端からそんな言葉が飛び込んできた。三人はそちらに視線を移す。


「ミツルさん、茶々丸さん、お久しぶりです。ライターのライトです」


 そこにはかつて二人が助けた、バックパッカー風の装いをしたプレイヤー・ライトが、優雅にコーヒーを嗜んでいた。




「で、結局俺達を呼んだ理由って?」

「君は呼んでないけどな」

「おぉ?」

「まぁまぁ二人とも……で、話ってなんでしょう?」


 一触即発の二人を抑え込み、茶々丸がライトに聞く。ミツルと九龍の死闘に苦笑していたライトも、「はい、実はですね」と本題を語り始めた。


「ここ、王都からずいぶん北に行ったところに、ブリューナクと言う寒冷山脈エリアがあるんです。その隅の方に、ワタクシの友人が領土を持っていまして」


 ヨルムンガンドオンラインでは、特定の爵位を持っていると、それに見合った規模の領土を『領主』として統治できる。もっとも、一番下の男爵でもかなり手に入れるのが困難な代物の為、プレイヤー領と言うのはそれだけでちやほやされる。

 余談だが、先日充が会いに行った小町は、そんな数少ない爵位の持ち主だ。


「サービス開始当初からの古参プレイヤーなのですが、最近彼の隣に新興のプレイヤー領が誕生したんです」

「領地が隣接とは、また珍しい話だな」


 ライトの話に、ミツルがそう合いの手を打つ。

 爵位持ちプレイヤーは、広大なヨルムンガンドのマップ内にランダムで領地を与えられる。それだけに、隣と言うほどの距離に新しい領地が発生するのは、確率的にも珍しい事だ。

 ミツルの言葉に、ライトは「ええ」と大きく頷く。


「珍しいことに変わりはないんですが、一つ問題が発生しまして」

「問題?」

「はい。その領地が発生した場所に、元々彼が領土の外で個人的にナワバリとしていた鉱山があるんです。その為新興領主のプレイヤーとの領土問題に発展してしまい……」


 ゲームの中だと言うのに、なんともまぁ現実みのある話だ。


「最初は共同で鉱山を管理することで合意していたんですが、その鉱山でレアアイテムの大鉱脈が発見されてからはその合意も一方的に破棄されて、一触即発の状況にあるんです」

「つまり、私達にそのご友人の手助けをして欲しい。と言うことですか?」

「はい、その通りです!」


 茶々丸の言葉に、ライトは両手でサムズアップして笑顔で応える。


「勝利の暁には、この鉱山でのレアアイテムの採掘権を協力者に一部無償で譲渡するとのことです。お二方、どうか協力して彼を助けてやってくれませんか?」


 祈るような目で、ライトは二人をじっと見つめる。

 レアアイテム。つまりそれは金になる。金があれば、またミニゲームにつぎ込める。


「……茶々、盆休みまで特に予定無かったよな?」

「ええ。ガッツリ暇ですね、先輩」


 顔を見合わせた二人は悪い笑顔を心中に抑え、同時にハッキリこう言った。


「「その依頼、是非ともお請けしましょう!!」」


 この二人、弱きものを助ける正義のヒーロー面しているが、その実ただのギャンブル中毒者なのである。


「ちょうど、金も無くなってきてた頃だしな」

「ええ。渡りに船です!」

「君ら、ホント懲りないよねぇ……」


 二人の思惑を見透かした九龍は、一人頭を抱えて嘆息した。

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