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第27話 道化師は北の地で踊る

 ――数日後、北海道・新千歳空港


 久々の飛行機旅を終えて地上に降り立った充は、荷物を受け取ってターミナルへと向かって歩く。全くあの野郎、突然呼びつけやがって……


「お、見っけ……って、ありゃ誰だ?」


 ターミナルで待ち合わせをしていた大誠の姿を見つけ、手を振ろうとした充は咄嗟に挙げかけた手を停止する。

 大誠の横に、若い女性の姿が見えた。歳は大学生ぐらいだろうか? ショートカットで少しつり目の、利発そうな美人さん。身長は、一六八センチの充よりわずかに高い。ショックだ。

 いや、そもそもこれ、どういう状況だ? 充の低い脳内スペックでは、この光景を処理できない。

 昔から何をするにも同じだった竹馬の友が、故郷から遠く離れた北海道で、若いおなごと二人きり。何事かと思うのも、無理からぬことじゃなかろうか。

 援助交際? いやいや、あの大誠に限ってそんなこと。ならば新しい彼女か? いや、それこそ大誠には考えづらい。或いは、いとこや親戚か? でもあの男、身内とは縁が薄いし……

 なら一体、彼女は何者だ?

 ともあれどう声をかけたら良いものか、と、彼が思案していると、


「あ」

「あっ……」


 大誠と、目があってしまった。


「みっちゃーん、こっちこっち!」


 充の心の戦慄などつゆ知らず、大誠は無邪気な顔でこちらに手を振る。となりの若い女性も、ペコリと彼に頭を下げた。

 気まずい。そんな言葉を考えた者がいたとしたら、それはきっと今の充のような状況を経験したことがあるに違いない。そう思って余りあるほどの気まずさの境地に、今彼は立っている。


「お、おう。ははっ……」


 ぎこちない笑みを浮かべながら、充は二人に応えるように右手を挙げて、重い足取りでそちらに歩く。

 距離はおおよそ五十メートル半程度。平日だからそれほど人も混んでおらず、すぐにたどり着いてしまう。向こうにたどり着いたら最初、なんと話せば良いだろう。

 まったく、ようやっと定例会議が終わったと思ったら、すぐまたこれだ。心臓が幾つあっても足りないじゃないか。このままでは、胃痛持ちが再燃してしまう。そんな怒りと危機感が、充の中を支配していた。

 それよりそもそも、その女は一体誰だ!?


「いやー、しんちゃん経由でいきなり呼び出して悪かったな。顔色悪いとこ見るに、さては久々の飛行機でやられたな?」


 黙れ小僧。この顔色はお前のせいだ。そう言いたくなるのをグッと堪えて、充はひきつった笑みで彼に応える。


「やっぱもう歳かもなぁー。気圧の変化がきちぃーぜ」


 冷静に、平常心を保ったままで。聞きたくなるのを必死に押さえろ。自分に何度もそう言い聞かせ、充は大誠の話に適当に相づちを打ってみせる。

 そう言う風に幾度かお茶を濁しつつ会話をしていると、不意に大誠が「あっ、そうそう」と話のシフトチェンジを図る。

 遂にいよいよそのときが。充は気を引き締めて、大誠の次の言葉を待った。


「こちら、本田小町(ほんだこまち)さん。この前電話で話してた、例の件の証人の方」

「……へ?」


 瞬間、充の脳裏に衝撃が走る。予想していた答えと違うことに、彼の頭は混乱している。

 いやしかし、その可能性を除外していた充が悪い。事実、大誠が今北海道にいるのはその一件についてのことだし、なんならその話を彼も聞いていた。

 つまるところ、充は勝手な思い込みで動揺し、戦慄し、体調を崩していた、哀れで愚かなピエロだったと言うわけだ。


「はい、本田小町と申します。北条充さん、ですよね? 大誠さんから話は聞いています。どうぞ、よろしくお願いします」


 充の心の中など知るよしもない女性――小町は、そう言って丁寧に彼にお辞儀した。

 一人相撲連戦連勝大横綱の充もまた、彼女にならって軽く自己紹介して(こうべ)を垂れる。


「それじゃ小町さん、ここで立ち話もなんですし、大学の方に行きましょうか。みっちゃん、飛行機酔い酷いとこ悪いけど、バス乗って行くぞ」


 そう言って先導する大誠達の背を見つめる横綱ピエロは、惨めな気持ちを胸にそんな彼らに追従した。

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