第23話 稲妻と鍾乳石
「これ、使えるかもじゃないか?」
そう言ってミツルが指さした天井に、茶々丸はゆっくり視線を移す。
「これって、どれです? 天井には鍾乳石しかありま――」
そこまで言ったところで、彼女はハッと視線をミツルに戻す。ミツルはしたり顔で大きく頷いた。まるで悪代官みたいだ。
「あんまりにもライオンのスケールがデカすぎて気付かなかったが、よく見てみれば中々わざとらしく生えてるだろ? アレを頭の上に落として、弱ったところをタコ殴りだ」
「言われてみればそうですけど……本当にアレ落とせるんですか? 少し高いところにあって、当たり判定が有るか分かりませんし」
そう慎重論を唱える茶々丸に、「ま、取り敢えずやってみなけりゃ分からんから。な?」と強引に取り成したミツルは、彼らと同じように洞窟の外縁で休憩中のプレイヤー達に大きく手を振る。
「おーい! あのでかいの倒す良い方法を思い付いたんだー! ちょっと来てくれー!!」
「……お、ジュードーマンがなんか言ってるぞ?」
「どうする? 話だけでも聞いてやるか?」
「どのみちこのままじゃクリア出来ねぇしな」
ミツルの呼び掛けに、十名ほどがぞろぞろと集まってくる。三分の一も集まれば、御の字だ。
「んでジュードーマン。あんたの話を聞こうじゃないか?」
集まった内の一人が歩み出て、ミツルにそう話を振る。
ミツルの方は得意になって「それじゃ、説明するぞ」と、茶々丸にしたのと同じ説明を繰り返す。そうして最初に皆の口から出た言葉が……
「「「で、どうやって??」」」
そう思うのも、無理からぬ事だ。天井は低いところでも十メートル弱ほどある。そこまでプレイヤーが飛び上がるのは難しい。
「弓とかはどうです?」
「すまんな、サムライ姉ちゃん。もう射ち尽くした」
「なら魔法は?」
「ジュードーマン。もうほとんどマナ切れだ」
「……まじか」
集まったメンバー達の返答を聞いて、ミツルは思わず頭を抱えた。このままでは、作戦を試すことすら出来ずにゲームオーバー。
折角ここまで来たのだから、白星を上げたかったのだが……あ、
「あ、いるじゃん飛べる奴」
「え? どこです?」
「ここ」
「……え?」
ミツルは茶々丸を指差しそう言った。
*
「サムライ姉ちゃん、こっちは準備OKだ!」
「ジュードーマン! これで無駄足だったらライオンの前にお前だからな!」
各々配置についたメンバー達が、口々にそう言って合図を出す。非参加のプレイヤー達も、なんだなんだと状況を見る。
今切れるのカードは全て切った。後は野となれ山となれ、だ。
ミツルは大きく息を吸い込み、声を張り上げ号令した。
「作戦、開始ッ!!!!」
瞬間、ライオンの前方で大きな破裂音が炸裂した。メンバー数名による、手投げ爆竹だ。
小賢しい人間の小手先だけの攻撃に、ライオンは怒り心頭といった様子で、前へ前へと進み出る。
「よし! ジュードーマン、上手いことはまったな」
「おう。後は、茶々達次第だ」
ミツルはそうボソリと呟いて、茶々丸達のいる方向を見る。
腰を深く地面スレスレまで落とし、鞘に収まる達に手を掛ける茶々丸。その前方には、片ひざをついて手を組み、足場を作ったプレイヤー二人。
誘い出された獅子王が、取り分けて巨大な鍾乳石のすぐ真下まで歩み出たその時、ミツルは再び声を張った。
「今だッ!!」
その刹那、茶々丸の体を稲光が覆う。
――神薙流・一閃
呪文のようにそう唱え、茶々丸は稲妻のごとき俊足で駆け、前の二人に足を掛ける。
「「せーのっ!!」」
ズンと沈み込んだ手を強引に持ち上げる。
気付けば茶々丸は、放物線を描いて空を飛んでいた。そして……
「てりゃぁぁぁぁぁ!!!!」
稲光纏う大太刀で、鍾乳石を叩き割った。