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第22話 獅子狩りには頭を使え

 ミツルはきちんと、茶々丸からの言いつけを守った。事実、第二回層での戦闘は全て剣のみで戦いを進めた。が、


「いや、先輩。そう言うことでは無いんですよ……」

「へ?」


 第六フェーズ終盤。立ち回りになれてきた茶々丸は、戦闘の合間にサッとミツルに目をやって、がっくり肩を落としてため息をついた。


「なんだよ、ちゃんと剣使ってんだろ?」


 ミツルはそう不服そうに茶々丸に返しながら、組付したライオンに逆手で持った剣でトドメを刺す。

 どれほど強いモンスターでも、プレイヤーでも、プログラムされた急所をつかれれば致命傷になりうる大ダメージ。そう言うリアルな部分も、このゲームの売りの一つだ。

 ライオンの急所は首と腹。四つん這いなので当然普通にやれば攻撃は当たらない。

 だからと言って、飛び掛かってきた個体の腕をつかんで組伏しトドメを刺すプレイヤーがどこにいる? それもこの男、異様に手慣れた動きなのだ。

 確かに、茶々丸が禁止したのは柔道技。自衛隊格闘までは制限をもうけていなかった。彼女は強く、彼が自衛隊であったことを忘れていた自分を恨んだ。

 注目の視線が、彼ら二人に突き刺さる。

 しばし頭の中で思考を巡らした茶々丸は、再び大きなため息をついてこう言った。


「まぁ、良いか……」


 細かいことは、この際もう気にしないこととしよう。注目されてしまったものは、もう仕方がない。そんな、諦めからの決断だった。


「先輩!」

「お?」

「どうせなら貢献ポイント一位、狙いますよ」


 稲光を纏った太刀が、群がる獅子を薙いでいく。振り返った茶々丸は、そう言って得意げな顔をした。



 *



 二人の猛攻はなおも続き、遂に最終階層まで到着した。


 最終階層・獅子王の間


 先ほどまでの階層より一回りほど大きな、鍾乳洞と化した空洞の中心に、()()は堂々たる風格で鎮座する。

 フェーズ毎に群がるライオン達とは、大きさも風貌もまるで違う。まさに、別格の姿だ。

 通常の個体より二回りも大きな体躯に、威厳を示すたてがみ。四つ目の紅い瞳の眉間にはもう一つの巨大な瞳が開いており、玉座の間に現れた闖入者(ちんにゅうしゃ)達を睨み見る。

 一方のプレイヤー側は、最初の人数から十名ほど少なくなってしまった。

 不利を悟ってリタイアした者も居れば、ある程度ポイントを稼いだ後は終了まで外で待機する()()()()じみた連中など、理由は多岐にわたる。


「……遂にここまで来ましたね」


 緊張感をはらんだ声で、茶々丸が王の獅子を見てそう言った。


「あともう一息、だな」


 あっけらかんと彼女にそう返すミツルは、既に扱いづらい剣を鞘に差し入れて、右手に短剣を持っている。

 瞬間、プレイヤー達が一斉に獅子を取り囲むよう左右に展開する。

 脊柱をガタガタ鳴らし、腹の底を震わせるような咆哮が、獅子の口から放たれた。

 頭上には【洞穴の獅子王】の名と、三本ものライフバー。

 決戦が、始まる。



「くそっ、範囲攻撃のせいで近づけねぇ!!」

「遠距離攻撃だって歯が立たねぇぞ!」

「魔法だって、マジックバリアのせいで通らない! ホントにクリア出来んのかよ!?」


 戦闘開始から五分後。既に事態はプレイヤー側劣勢へと追い込まれていた。

 この最終決戦。今までとは形式が大きく異なる。その最たるものが、リスポーン不可と制限時間。

 二十分の間に倒しきることが出来なければゲームオーバーとなる上、一度倒されると戦線に復帰できずに洞窟前で待ちぼうけ。

 他プレイヤー達が早々に戦線をリタイアしたのは、そう言った事情を知ってのこともあるらしい。つまりいまここにいるのは完全なルーキーか、真面目に戦う果敢な者。


「先輩、このままじゃゲームオーバー必至ですね」

「だな」


 一度前線から下がり、二人はそう言葉を交わす。茶々丸得意の斬撃も、ミツル得意の組伏せも、近づけなければ意味がない。

 だが、接近すればもれなく広範囲を射程圏内に収める「じならし」の餌食となる。


「どうします?」

「どうしますってもな……」


 二人は苦い顔で、何か策をひねり出そうと辺りを見渡す。そのとき、


「……あっ! あれワンチャンあるかな」


 ミツルが何かを閃いた。


「どうしたんです?」


 慌ててミツルにそう聞く茶々丸に、彼はしたり顔で天井を指さした。


「これ、使えるかもじゃないか?」

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