表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/126

第20話 レイド戦は場所取りで決まる

 九龍亭の掃除や整理整頓を手伝わされた後、二人は大急ぎで王都前の平原を貫く街道を走っていた。


「課ちょ……先輩! あと十分です! これ間に合いますか!?」


 並走する茶々丸が、焦った顔で聞いてくる。そんなこと言われたって、


「分からん! 分からんが、走るしかねぇー!!」


 くそったれ。こんなことなら九龍の手伝いなんてそこそこにして、さっさと出発しとくんだった。ミツルはそう、腹の中で毒を吐く。……もっとも、勝手に店で寛いでいたのは彼らだが。


 二人がこれから向かう獅子退治の難題クエストは、一会場に総勢四十人が集う大規模討伐クエスト。いわゆるレイド戦と言う奴だ。

 朝、昼、夜の三度に分かれて、同時に十八の洞窟で開始。そのイベントの盛況ぶりを事前に予測していた運営によって、クエストの参加資格は希望者の中から抽選で選ばれる。

 毎度毎度凄まじい倍率で抽選が行われ、参加資格を金で取引しようとする輩も現れるとのことだ。


「あっ、見えました!! あそこじゃないですか!?」


 しばらく走っていると、ふと茶々丸がそう叫ぶ。ミツルにも確かに見えた。街道の終点にそびえ立つ小高い岩山。そのふもとに集る大勢のプレイヤー。


「おっ! ほんとだ!!」


 なんとか間に合ったようだ。自衛官時代につちかった持久力がまさか、こんなところで役に立つとは。


「みなさーん! クエスト参加はこちらからですよー!」


 近づいて行くにつれてプレイヤー達の喧騒と共に、案内役とおぼしき女性の声が聞こえてくる。お立ち台にでも立っているのか、他プレイヤーより頭一つ飛び抜けているように見えた。


「なんとか間に合いましたね!」

「おう……危なかった」


 ギリギリでその集団に合流した二人は、お互い顔を見合わせながらそう言い合う。

 痛覚制限のお陰で疲労感なんてものは無いのだが、気疲れが酷い。夢の中で走っているときの感覚に近い……はず。覚えていないが。


「忘れ物とかしていませんか?」

「大丈夫、向こう出る前にちゃんと確認した」


 心配する茶々丸に向けて、ミツルは自信満々にサムズアップ。そんなやり取りをしていたとき、


「定刻になりました!! それでは皆さん、ご武運を!!」


 案内役の高らかな宣言と共に、集団が突如として喚声(かんせい)を上げて一挙に移動を開始した。向かう先は、洞窟の中。レイド戦の、幕開けだ。


「よし、俺らも行くか!」

「はい!」


 二人は勢いよく抜刀し、集団と共に洞窟へ駆ける。

 第二の難題、獅子狩りの始まりだ。



 *



 洞窟の中は入り口こそ狭いものの、少し奥へ進めばすぐに大きく開けた空間が現れた。

 まるでこのクエストの為に作られたような洞窟だが、普段はどうやら様々なプレイヤー達の溜まり場になっているらしい。そんなプレイヤー達を称して、「洞窟族」なんて呼ぶこともあるとか。

 もっとも、今回のイベントによってそんな彼らは出禁を食らった訳なのだが。


「ここからあと三分で、第一フェーズ開始ですね」

「今のうちに場所取り急がなくちゃな」


 今回のクエストは、洞窟上部三階層で行われる合計九回の通常フェーズと、最終第四階層での決戦フェーズに分けられている。

 それぞれの階層で三フェーズクリアするごとに下層へ降下し、その度に三分間の準備フェーズが設けられ、プレイヤー達は各々準備に取り掛かる。

 準備フェーズ中、プレイヤーが進出出来るのは洞窟中程までに張られた三日月状の赤いバリアの所まで。プレイヤー達はこぞって、その前線ギリギリのところを奪い合う。

 クエストクリアに貢献すればそれだけ報酬が豪華になるから、本当の戦いはこの三分間なのだとまで言われるほどだ。


「先輩ー! この辺りはどうでしょう?」


 先行して場所取り合戦に躍り出ていった茶々丸が呼ぶ。人混みで埋もれないよう、頭上に太刀を掲げている。物騒な場所取りもあったものだ。


「おー! 今行くー!」


 ミツルもそう言って頭上で剣を振って答え、人混みの中を掻き分けて進む。

 東京の朝の地下鉄ラッシュよりは幾らかマシと思うのは、ずいぶん自分もこちらに毒されて来た証拠だな、と、ミツルは腹の中で苦笑した。


「ここです!」

「はいはいよっ……と。お、良いんじゃないか?」


 茶々丸と合流したミツルは、彼女が確保したところを見渡して、うんうんと頷いた。

 最前線からは三列程度後ろに位置する、三日月陣の右翼部分。

 レイド戦に不慣れな二人は、前線やモンスターの圧力がかかる中央よりも、ある程度落ち着いて状況を見られるこの辺りが望ましいだろう。


「それでは、ここで決定ですね」

「おう。それに、時間ももう無いしな」


 ミツルはそう、顔を洞窟中央少し上を見上げて言った。

 そこには何に吊るされるでもなく浮かび上がる半透明の白い玉と、赤い字でじわじわ時を刻む算用数字。


 5……4……


「いよいよですね」

「おう」


 3……2……


 二人は得物を前に構え、神妙な面持ちでその時を待った。


 1……0……!!


 刹那、けたたましい角笛の音が洞窟内に響き渡る。

 瞬間、洞窟の奥から無数の白いライオン達が飛び出した。

 赤いバリアが取り払われる。プレイヤー達は、引き込まれるように前へ前へと押し出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ