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第17話 九龍ですがなにか?

「「「記者(ライター)!?」」」


 ライトから放たれた衝撃の一言に、三人は思わず声を上げた。

 瞬間、九龍がキッと恨めしげにミツルと茶々丸を睨みつける。無理もない。既に名の知れた情報屋九龍の居場所が全世界に拡散されれば、その瞬間からここには大量のプレイヤーが殺到するだろう。

 隠者ロールプレイをしている九龍にとっては、迷惑甚だしい話だ。

 そんな視線からサッと目をそらした二人の心境など知るべくもないライトは、無邪気な笑みを浮かべて肯定する。


「ええ、そうです。もっともこちらでは、趣味で各地の景色や町並み、モンスターなんかを撮って、個人的にブログ等に載せてる程度ですが……良ければ見てください」


 そう言って彼は、バックから取り出し抱えていた大きなアルバムを広げて見せた。三人も内心戦慄を残しながら、「それじゃあお言葉に甘えて」とそれを覗き込む。そして、


「おぉ……こりゃ凄い」

「ライトさん、お上手ですね!」

「王都前の平原か。しかし良く撮れてる」


 先ほどのことなどすぐに忘れて、その写真に心を奪われた。

 淡い若草色の平原に暖かな陽光が雲間から射し込み、朝露を宝石のごとく煌めかせ、そこを数名のプレイヤー達がまだ見ぬ冒険への期待を膨らませながら歩いていく。

 命が宿っている。そう形容してなお余りあるような代物。思わず飛び出た感嘆の言葉も薄くなる。


「お褒めくださりありがとうございます。……被写体になっていただいた方達には後程、ちゃんと撮影の許可を得ました。許可なく撮影することはありませんので、九龍さんもご安心下さい」


 ライトはそう、にっこり笑みを浮かべて九龍に視線をやった。こちら側の懸念も、筒抜けだったらしい。


「見透かされてたみたいだな」

「ですね」

「ああ」


 三人はそう顔を見合わせ、恥ずかし紛れに苦笑する。


「……もう少し、写真を見せて頂いても?」


 そう提案するミツルに対し、ライトは大きく頭を縦に振った。



 *



 ――東京都・ユメミライ本社二階


 (ミツル)達がせっせと難題クエストを進めている頃、信也は自身に課せられたタスクの多さに悶絶していた。


「あぁぁ!! やってられっかぁぁ!」


 無人のオフィスに、両手で頭を掻きむしり、仰け反りながら叫ぶ彼の声がこだまする。

 この階を根城にする多くの社員、もとい信也の部下の研究員達は既にあちこちへ出払っている。そんな中なぜ彼だけが居残りなのかというと……


「身から出た錆じゃねぇの? しんちゃん。ちゃんと部長らしく事務仕事もこなしてもらわにゃ困りますぜ」


 そういう理由からだった。


「んぁ? ……おお、大誠。帰ってたか」


 車椅子から仰け反る信也と、そんな彼を後ろから覗き込む大誠の視線が交差する。心なしか、大誠の方は少しやつれているようにも見えた。


「どうだった? 久々のアメリカは」

「いや、ホント疲れた。神戸からアラスカに飛んで、次はニューヨークだぞ? 身が幾つあっても持たねぇな、ありゃ」


 そう言いながら、大誠は手に持った湯気の立つマグカップに口をつける。中に入っているのはブラックコーヒー。帰国して、はじめて口につけるものだ。


「俺のは?」

「自分で行け」

「めんどい。一口寄越せ」

「へいへい」

「やった」


 姿勢を元に戻し、大誠からマグカップを受け取ると、信也はまた元の話を続け出す。


「まぁでも、アメリカじゃ()()に会えたんだろ? まだ良かったんじゃねぇの? ……にが」

「もう三十路なのに味覚はまだまだお子様だな……まぁ確かに、リーとニカには会って久々に話出来たな。でもよ、その後なんだよ」


 ブラックコーヒーの苦味に眉をしかめる信也からマグを受け取った大誠は、がっくりと肩を落としてため息をつく。相当疲れが溜まっているようだ。

 大誠が言うリー、ニカの両者の本名はジョージ・リーと、二階堂健斗(にかいどうけんと)。それぞれ大誠の旧友であり、後者にいたっては大学ラボ時代の中核メンバーだ。

 今回大誠がアメリカへ飛んでいた理由は大きく三つ。

 一つは、ユメミライが保有するアンカレッジ(アラスカ州)オールバニ(ニューヨーク州)のサーバー二つの動作確認。

 二つ目が、ユメミライアメリカ支部に駐在している二階堂との情報交換。

 そして最後が、大誠らに遅れること半年後にフルダイブ技術開発を成功させたDream Star(ドリーム・スター)社の社長、リーとの面会。

 なお、Dream Star社はその後急激な追い上げを見せユメミライのゲーム開発に食らいつき、前代未聞となる両社世界同日発売を成し遂げた。

 ライバルであり、親友である彼との再会が嬉しくない訳は無いのだが、大誠の顔色は晴れない。


「どしたの?」


 未だ取れない口の苦味を水筒の水ですすぎながら聞き返す信也に、大誠はまた大きなため息をついて訳を話した。


「向こうの国防長官が俺に非公式の面会を申し込んできたんだよ」

「受けたの?」

「断った。……ったく、せっかくの夢の技術を下らん戦争や政治の道具にしか思ってねぇんだよアイツら」


 大誠は近くのデスクから椅子を引っ張り出し、腰掛けながら不貞腐れる。そんな様子に、信也は脳裏にとある男()の顔を浮かべて苦笑する。

 この二人、仲は良いのに主義主張が根本から真逆なのだ。政府による規制でもって技術を制御しようとする充と、完全自由を唱える大誠。

 全く、間に挟まれる身にもなれ。と、そんな愚痴一つ溢さない自分を褒めて欲しい。信也は常々、そう思っていた。無論、今も。


「国防長官って言うと、クニヒラさんだったっけ? 結構強硬にフルダイブの軍事導入進めてるよね」

「導入反対派をことごとく閑職に追いやってるって話もあるな。その癖モットーはアメリカンブシドーだとよ。しょーもない」


 そんな風に毒を吐き、大誠は窓から見える遠くの空を見つめた。


「花がいりゃ、もちっと何か違ったのかなぁ……」


 大誠がそう溢した直後、信也のパソコンがピコンと鳴る。どうやらメッセージが来たらしい。送り主は……


「お、みつるんからだ」

「あー、みっちゃん今中にいるんだったか。内容は?」


 信也は送られてきたメッセージを開いた。


 件名:難題撃破

 本文:やったぜ(漏えい禁止)


「お、画像ファイルがくっついてんね。しかもコピー不可。どれどれ……うぇっ!?」

「おぉぅ、みっちゃんすげぇな」


 送られてきた画像には、王都前の平原で、ギルドからのクリア報酬である金貨袋と(くだん)の鳥どもの素材を抱えるミツル()茶々丸(優輝)の姿。

 そしてその左右を挟むように立つバックパッカーのような男の姿と、ボロ布で全身を覆ったような、性別不明の低身長の人物。

 二人は一度目を見合わせて、思わずボソリと呟いた。


「「これ、九龍じゃん」」


 オフィスの時計は、五時二十分を指していた。

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