表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人の食べ方  作者: ダグラス窩
7/15

六章 ドライアドのサラダ

魔大陸の原初の森にはまだたくさんの亜人が生息している。

この章ではその中の一種、ドライアドを紹介していく。



ドライアドは、木の上位精霊である。本体は木そのもので、魔力を使って意識を具現化し、人のような見た目の分身を作り出している。

であるから、ドライアドは実際は木であるものの、人に準ずる知性を持つという点と人間を模した分身を作れるという2点で、亜人であるとされる。

このとき、同種や近種であるトレントが引き合いに出されることが多いのだが、トレントたちは木の見た目であり、言語を有するがそれは人の真似であるため、トレントは亜人と呼ばれない。

このあたり、正直細かい話になってしまう。だがそもそも亜人という枠組み自体、人間が勝手に一纏めに呼んでいるだけだ。細かく話し出せばキリがない。そういう認識とだけわかっていれば良いのだ。

逸れてしまったので話をもとに戻そう。

とにかく、ドライアドは亜人である。

今回の旅は亜人の味を知ること。ドライアドが木であっても、食べることに変わりはない。



ドライアドの本体である木部分は、稀にドライアドによって魔法で隠されていることもあるが、多くは不自然に光っていたりするなどして、隠されていない。これはドライアドが人間や亜人たちに大変な興味を持っているからであり、それらを呼び寄せ引き寄せるために光っているとのことだ。

採集に際し、他の何者でもない木やトレントたち樹人族と区別するには、そのように光る木を目印にすれば良い。



少し森を散策すると、実際に光る木を見つけた。葉や果実がそれぞれ少しずつ光っている。かなり大きな木で、幹の太さは私が数人手を繋いでようやく一周できるかというものであった。

私が近づくと、なにやら嬉しそうに葉や果実の光を強弱させ、分身が姿を現した。

この特徴は完全にドライアドのそれである。

分身は笑顔で私に話しかけてきた。

分身曰く、人がここを訪れるのを久方ぶりらしい。なんでも、1000年から先は数えるのを止めたというほどになるそうだ。なかなかの古老樹であった。


さっそく捕獲、もとい採取をおこなっていく。

主に食べていこうと思うのは、若葉と樹液、そして果実である。

葉は古くなると固く、そして苦味が増すのが植物一般に通じる法則であり、食べるならば若葉を取るべきである。

そう考え、さっそく枝を切り落としていく。


急に私が枝を切ったからか、ドライアドがうめいた。どうやら、枝を切られることに痛みを感じているようであった。

しかしまあそうしなくては食べられないので、一言、「今からあなたを食べます」と断りを入れておく。

ドライアドは私の言っている意味がよく理解できていないようだったが、それでも私がドライアド自身に害する存在であると理解したらしく、臨戦態勢をとった。


戦闘は割愛する。



根本から木を切り倒し、更なる魔力の回復を阻害する。戦闘中、露骨にドライアドが地面から魔力を吸収していたので、この後調理と食事をする際、下手に攻撃をされても迷惑なので、先に対策をすることにした。

ドライアドの分身は酷く衰弱した様子であった。新鮮なままの味を知りたいので、なるべく急ぐようにしたいと思い、手早く採集を行うことにした。



枝を全て切り落とし、若葉を取っていく。

一つわかったのは、ドライアドにとって枝は手足と同じようなものらしい。全て切り落とす頃には、ドライアドの分身から手と足がなくなっていた。

結果的に若葉は兜一杯分ほど取れた。


次に果実をもぐ。数十個になりそうだったので、こちらは食べない分はもがずに、数個にとどめておいた。


そして最後に、幹の皮を剥いでいく。

ドライアドはこの皮を剥ぐことにも随分と苦しそうに声を上げていたが、幹の五分の一を取り除いた頃には、声を上げなくなっていた。

皮を剥がした幹にナイフを突き立てると、そこから樹液が溢れた。樹液は琥珀色の透明感のある液体で、少し粘ついた。

ここで試しに匂いを嗅いでみるが、かなりキツイ匂いであり思わず咳き込んでしまった。

例えるならダンジョン踏破後の冒険者たちが汗も流さずに全員一緒の部屋で寝た時のような匂いだ。

そのまま食べるのはかなりキツイかもしれないが、まあ匂いと味は調理によって変わるかもしれないと考え、とりあえず採集をすすめた。

適度に集まったところで、少し舐めてみた。

甘みは少なく、酸っぱさがあった。調味料として使えなくはないように思えた。



さて、採集の方法とそれぞれの材料から感じたことは以上になる。

ここからサラダの作り方を解説していこう。

まあたかがサラダなので、調理方法もなにもないのだが。


葉は適当に細かく手でちぎり分け、取った果実を食べやすいサイズにカットし、それらを皿に盛り付ける。

また果実は一つ残しておき、果汁を搾る。

搾った果汁は樹液と合わせるのだが、ここでさらに好みの調味料を加えてもいい。

今回は塩と少量の胡椒を加えてみた。

これで味付けとしては良いだろう。

あっという間に完成だ。



調理中、ドライアドはなにやら虚な目をして、私をじっと見つめていた。

いかに亜人の分身といえど、その姿形は人間の、それも眉目秀麗な女性のようなので見つめられると少し照れてしまう。

しかし食事を目の前にした私は、性欲よりも食い気。

完成された美しいサラダに心は引っ張られている。


果実と葉の上にかかる輝くドレッシング。

フォークでよく絡ませ、一口分を用意した。

それはまさに森の宝石。この見た目で不味いわけがない。

さっそく一口。


思わず、ため息が漏れた。


言葉を失うほど不味かったのだ。



何がいけないのだろうかと悩んだ。

葉は苦味があるもののよい食感で楽しめるし、果実は甘味があって、程よく酸味もある。

正直これだけで十分だ。

つまり、調味料がいけないのだとわかった。

十中八九、樹液がいけなかったのだろう。


食べてすぐはまとまりがあるのだが、その後に広がる、汗臭いような酸っぱい匂い。

これは先ほど舐めて確かめた樹液のそれだ。

これが好きと言う物好きもいないわけではないだろうが、常人であれば好んで食べようとはしないだろう。


明らかな失敗であった。

上手くいくと思っていたのだが、こうも失敗するとは、長年の勘や経験というものは時に役立たない物である。



しばらく思考を巡らせて、ドレッシングを少し加熱してみることにした。

煮詰めるまではいかなくとも、火を通すことでこの匂いを飛ばせないかと考えたのだ。


ものは試しと残っていた樹液を果汁と混ぜ、先ほどと同じように混ぜ合わせ、そして今度は、それを鍋に入れてすこし熱してみる。

するとどうだ。

先ほどよりも目に見えて悪化した。

鍋からは煙が立ち上り、それと共にあっという間に、吐き気がするほどの酸化臭で辺りは覆われてしまった。


あまりの刺激に、私は目に涙を溜め、一目散にその場を後にすることしか出来なかった。


執筆中に思い返しても、えずくほどの匂いだ。ドライアドは葉と果実はそれなりの味わいであったのだが、樹液はまるで食用には値しなかった。なんとも残念なことである。



以上がドライアドのサラダの紹介であった。気になったものはぜひ、私が食すことを諦めた樹液の可能性を追求してほしい。



後日談にはなるのだが、とある昔馴染みの冒険者たちと話す機会があったので、話半分ではあったが、彼らにドライアドの樹液を熱したら凄まじい悪臭がしたことを伝えると、面白い話が聞けた。


彼ら曰く、ドライアドの木の樹液には強い匂いがあり、虫が寄らないようになっているらしい。

冒険の際、近くに蟲型魔獣がいるような場所では、ドライアドを見つけ、樹液を分けてもらうのが冒険者の間では通例らしい。

私はどうやら、蟲型魔獣を苦にしたことがなかったためにそのような話にまったく触れずにいたらしい。

蟲型魔獣に効く樹液が、なぜ人間である私にも効いたのかは分からないが、人間にも効果があるということなのだろう。

いやはや、このような失敗によって新しい知識を得ることができるとは。

亜人の味とは話が逸れるが、なんとも面白い話であった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ