第三話 侵略者
どうしてこうなった。
俺は今、全力で森を駆けていた。
それを二人の大人が武器を持って追いかけてくる。
普通ならすぐに捕まるが、俺が走っているのは木の上からとはいえ通ってきた道だ。土地勘はこっちが上の為に迷わず駆け抜けられるし、狭いところを走れば相手は屈みながら進まないといけない。
走りながら状況を整理する。
本当に何故こんなに追いかけられているんだ。これがこっちの世界の常識なのか。思い返せば片方は弓みたいなの背負っていたし、もしかして人間も狩りの対象なのか?
確かに最初に見た化け物達からすれば俺なんていい食料だろう。
話して色々聞きたいが、なんにせよ言葉が通じない。意思疎通が出来ないせいで全く状況が分からん。
水を使う狼とか影に入る獣に比べれば確かに俺はただの子供だ。
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二人の男は追いかけている途中に言葉を交わす。
「どう見る?」
短剣使いの後を追いながら、弓使いが話しかける。
「どう考えても消すべきだろう。俺達の話を聞いた可能性も高い。何よりこの森を駆け抜けるような子供だ。普通じゃない」
「だがあのガキは違う言語を使っていた。もしかしたら」
「諦めろ。ここまで来たんだ、この紙で何万という人が助かるんだ。ここで可能性は断っておきたい」
先程契約した書類が入った袋を手で叩きながら説得する。
「・・・ちっ、分かっているよ」
弓を持った男は舌打ちをしながら書類をみる。
ああ、そうだ。可能性は消さなければいけない。あと一歩なんだ。
それにコイツがよく喋るのは自分を説得させる為だという事を長い付き合いで知ってる。なら、俺一人グダグダ言っていいもんじゃねえ。俺も覚悟を決めるだけだ。
・・・俺達も戦争の犠牲者だ。総合的には減るとはいえ、それを増やす行為に感情では納得出来ないがな。
「ちょこまかと奥に逃げやがって・・・ここがどこだかわかってんのか?」
「わかってないから何も考えず走ってるんだろう。そろそろ水狼のテリトリーだ」
「ああ、早く片付けないと俺達もやばいな」
早く追いつかないとやばいのは分かっているが、木や植物が邪魔をして思うように進めない。そして、何より水狼にいつ攻撃されても反応ができ、かつ相手に気を取られないように動く必要がある。
「あのガキ、水狼が怖くないのか」
「子供なんだ。知らないんだろうさ」
弓を持った男が渋い顔をしながら舌打ちする。
「ちっ、放っておいたら水狼が勝手にやってくれねーかな」
「・・・馬鹿なこと言うな。此処は確実に消しておきたい」
「分かってるよ」
分かってはいるが心がざわつきやがる。
「なら帰りの分と、奴らに気づかれるのは心配だが、どっちにしろこれ以上は時間をかけれない。魔力を使うぞ」
「そうだな。期日もあるんだ。子供を深追いして間に合いませんでした、では笑えない」
弓を持った方が一度立ち止まり詠唱する。
「自然の恵みに祝福を、汝に森の加護を。体力強化」
「よし、しっかり発動しているな」
「馬鹿にしてんのか?!さっさと行ってこい!」
詠唱が終わり、魔法がかかると短剣使いはゆったりした動きから急加速し、全速力で走り始めた後に今までは避けていた木を小枝のようになぎ倒しながら真っ直ぐ進み始めた。
遅れて弓使いも短剣使いが作った道を進み追いかける。
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最初こそ焦ったがこれだけ障害物が多ければ体の小さい方が有利だ。
だが、永遠に逃げられるわけじゃない。俺の体力と知っている森の範囲は有限だ。何か策を考えるな?!
「おらーーー!」
大きな声が聞こえ慌てて振り向くと、少し後ろで木がメキメキと音を立てて倒れるのが視界に入る。
う、うそだろ?!
あいつ等の装備は一目見ただけだが木を倒せるような装備ではなかった。それに現実的に木を切り倒すのには時間がかかる。今この時間にそんな暇は。
「どこだーーー?」
メキメキと大きな音を立てながらまた木が倒れる。距離はさっきより近い。今までの差がどんどん、消えていく。
どうなってるんだ?!有り得ないだろ。小枝を切ってるんじゃないんだぞ!
そこまで考えると狼と獣の闘いがフラッシュバックした。
・・・ああ、そうかよ。これは夢なんだ。こんな世界あるはずがない。クソッたれが。
溢れ出る恐怖や焦りを無理やり押し込んで立ち止まる。
赤黒いモヤの量が少し増えた。
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すぐに短剣使い達が小さな子どもに追いついた。
「はあー、やっと追いついた。流石にガキも疲れた・・・か」
弓使いが一切動かない子どもに疑問を抱くが、強烈な違和感を感じる。
「どうした?油断はするなよ」
弓使いの微妙な反応と奇妙な子どもに注意しながら足を進める。
「あ、ああ。何か息が苦しくてな、空気も重い」
つっかえた物言いに短剣使いが足を止める。
「それがどうかしたのか?」
無論、短剣使いもそのように感じているが、大したことじゃない。
「いや、気のせいかも知れないが、特異地点で魔力が異常に濃い地域の調査をした時とそっくりだったんでな。たまたまかも知れねえが」
「・・・・・・」
弓使いの言葉を聞いて短剣使いが考える。
確かにこの森の中だ。調査なんてほとんどされていないだろうからこの場所がそれである可能性はある。だが、何が問題なんだ。こいつは何に怯えてるんだ。
「・・・何が起きた?」
ただ濃いだけならそれだけだ。こいつが怯えてるってことは何かが起きたはずだ。
弓使いは重そうに口を開く。
「あ、ああ。何か急に面子の一人が発狂して殺し合いになった。次々に他の奴らも発狂して、俺一人になっちまった。それで俺も帰ろうとしたら聞こえたんだ」
思い出しているのか弓使いは汗をかき、既に弓は構えていなかった。
それでも尋常じゃない様子の弓使いに冷静に対処する。
「何の声だ?」
「わかんねえ、聞こえた瞬間に全力でその場を離れたんだ。俺もあいつらみたいになっちまう気がしたんだ。仕方がねえだろ?」
「わかった、わかったから落ち着け。この子どもを消したらすぐに戻る。だからそれまでは一応残ってくれ」
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俺は死ぬ事を自覚し、よく分からない震えに襲われつつも振り返る。
瞬間。
「わっ」
俺の体は宙に浮いた。
一瞬の浮遊感から後ろに吹き飛ぶ。衝撃が全身を襲うが、なんとか首だけ起こして周りを見る。やけに時間が遅く、すぐそこまで来ていた男の右腕が上にあがった状態からゆっくりと下に降りていく。そして、その手に握る短剣には、うっすらと赤い血が付着しており、重力によって地面へと落ちていく。
クソ、何が起きた。痛みに耐えながらも立ち上がろうとしたそのときに違和感を感じる。
「うわああぁぁああああああ!」
あってはならない感触、見てはいけない光景。
左腕が肩まで、縦に、裂けていた。
認知したその瞬間にじんわりと痛みが広がる。頭で拒否しようとしても目の前にある事実と痛みは脳へ直接訴えかけられる。
「いやだいやだいやだ、ああぁぁぁぁあああ!!!!」
「おい!何してる。早く殺せ!」
弓使いが声を荒げる。
「分かってる。何か持っていないかの確認だ。次で殺す」
そう返事をして男は歩み始めた。
収まれ収まれ収まれ収まれ。
「うぐぅううう」
必死に痛みを堪える。どうすればいい、もう無理なのか。終わる、本当に終わる。
視界が徐々に赤黒く染まっていく。
「すまないな。もう楽にしてやる」
ーーー。
「よく鳴く豚だ。どう調理するかな」
え?
通じないはずの声が聞こえた気がした。
「い、いま、、なん・・・ていっっ!」
左腕だけではなく、全身の血液が沸騰したように熱く、大量の脂汗が流れる。
「俺だって本当はこんなことをしたくない。だがみんなの命がかかってるんだ」
ーーーーーー。
「人は脂が多くて食べれたものじゃない。だからちゃんと煮込んでやるよ」
「にこ、む?」
頭が熱く、腕は痛みを限界まで伝えてくる。
なんてイったんだ?アイツは。
地面に這いつくばっている俺の上で短剣を握っている。
「すまない」
ーーーーーーーーー。
「ーーーーー」
全身を何かが駆け巡る。いつの間にか赤黒いモヤが今まで見たこと無いほど伸びており、視界を埋め尽くしていた。
ーーーーーー!!!!
何かが切れた。
「うぐぁぁああああああああああああああ!!」
「うっ!」
「うるせえ!」
断末魔に距離のある弓使いでも耳を塞ぐ。
短剣使いは一瞬止まるもすぐに短剣を振り下ろす、が。
ーーーーーーーーーーーーズズゥン。
地面が揺れた。
鳥たちが森から一斉に飛び出し、獣たちが鳴き声を上げる。
そして子どもの近くまで来ていた短剣使いはバランスを崩し、子供の左腕を思いっきり踏んでしまう。
「ーーーーーーあああぁぁぁああああ!!」
より大きな地震が起き、森が揺れ空に鳥の大群が舞う。
「あー痛てぇ。ころーーーなんだ?」
揺れが収まり、空と地で騒ぎ立てる生き物たちに非現実感を感じながらも、短剣使いが原因となる異変を見つける。それは先程までと何も変わらない状況の中でたった一つ浮いた白い丸だった。
「白い・・・穴?」
短剣使いと子供の中間あたりに空中にポツリと指先一つ分の穴があった。
遠近感がつかめず、白以外に影もなく、当然陰影が無いため視界の一部に白い穴が空いたような感覚。
何気なく触ってみようと腕を伸ばす。
「触るな!!」
かつてない程の強い声で弓使いが静止をかける。
「とんでもない魔力が穴からもれてる!世界に穴が開きやがった」
「どういうこどた?!」
「分からん!だが、魔の連中がやってくる。逃げるぞ!!」
弓使いは焦ったように声を荒らげるが、魔法に関しては専門家ほどの知識がない短剣使いは反応に戸惑う。
「ここはこのままでいいのか!」
「ガキなんかほっとけ!今すぐ奴らが来る可能性もある。俺達が第一優先だ!!」
「分かった!」
二人はすぐにその場を離れた。
ーーーが長居しすぎた。
「アオオオォォォオオン」
森に遠吠えが響いた。他の生物たちとは一線を画する迫力が音とともに響いてくる。
「やばい!水狼だ。よりによってこんなときに見つかっちまった!」
弓使いが走りながら叫ぶ。
「どうするんだ?!」
既に俺の魔力はギリギリだ。抵抗する力はもうないぞ。
「・・・俺がもう一度お前に魔法をかける。俺の書類を持って逃げろ」
「お前!それじゃ!」
「分かっているだろ?!時間がないんだ。可能性は少しでも残したい」
覚悟を決めて、短剣使いの目を見て話す。
「・・・分かっている。分かっちゃいるが俺は」
それでも短剣使いは答えに戸惑う。
それを嬉しく思いながらも、時間がないため最初から王手をかける。
「もうミリーナは居ないんだ!!」
「くっ・・・!」
歯ぎしりの音が俺にまで聞こえてくる。
「俺達の誓いは忘れていないな?」
ミリーナを失い、俺達が誓った約束。
短剣使いが呻くように声を出す。
「・・・俺達はもうダメだ。次の世代を救ってやる」
「よし、なら行け。頼んだぞ」
書類を短剣使いに預け魔法もかけ直し、すぐに走り出そうとするが、短剣使いが一言つぶやく。
「欲しい酒は?」
「決まってんだろ」
「業突く張りが」
「最後くらい良いだろ。頼んだぞ」
今度こそ立ち止まらずに短剣使いは森を抜け出る為に走り出す。
「最後くらいは我慢しなくていいだろ。あーあ、ここまでよく頑張った。あっちで褒めてくれよミリーナ」
続々と集まりつつある狼達を見ても変化はなかった。やるべき事、やらねばならぬ事。覚悟は決まっている。
「勝てるとも生きれるとも思ってねえ!!存分に時間稼いでやらー!」
極力時間を稼ぐため、逃げつつ、足を攻撃し続けたが、限界は始める前から見えていた。
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その頃、空間が空いた場所。
もうほとんど意識は無く、ぐちゃぐちゃになった頭で俺はただ地に伏せ、ただ呆然と歪みまくった視界で穴を眺めていた。
最初は指先程度の大きさだった穴は徐々に広がり、大の大人が屈めば通れるだけの大きさにまで広がり、辺りの空気は重く、近くの細い枝や木がメキメキと音を立て震えていた。
「アオオォォォオオオン!」
その空間に負けず、地をふるわせる咆哮を放ち、木々をなぎ倒しながら一匹の白い大きな狼が姿を現した。
空間は先程の重苦し空気からうって変わり、物音一つしない静寂に包まれる。
(森を荒らす因子は貴様か、小僧!!このツケは必ず払ってもらう)
「グルル・・・」
唸り声を上げると狼の足元から地を伝い白い線が子供に流れ込み消える。
(森を乱したこと決して忘れぬぞ)
ガシッ。
そんな中、突如開いた空間より赤黒い、そして太く大きい、手を開けば大人の身長に達するほどの巨大な手が出てきた。
その手は驚くことに狭いと言わんばかりに空間の境目を掴み広げようと引っ張り始めた。
また一段と森が激しく揺れるが、お構いなしに腕は広げ続ける。
それをただ傍観するのではなく、狼の頭上には巨大な水の塊があり、どんどん形が変わり槍のように先端が細く、回転し始めた。
時間が経つほど水の槍は大きく回転速度も早くなっていき、それとは別に小さな水の槍が周囲に出現する。
「グルルルル・・・」
狼が唸りを上げると小さい方の水の槍が手の指に向かい飛んでいく。
が、赤黒い手は黒い魔力を纏っており、何事も無かったかのように作業を続ける。
周囲は狼のによる白いモヤと侵入者の黒いモヤが吹き乱れていた。
狼は小手先は無用と出てくる本体に向けてどんどんと水の槍に魔力を注ぎ、侵入者は体が通れるだけの穴を広げ侵入しようと試みていた。
俺の意識はここで途絶えた。
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後に、この二体の数日に及ぶ激闘の結果、巨大な森林の三分の一が吹き飛び、残りも侵入者の魔力によってほとんどが汚染された。
狼は敗れるも何とか一命を取りとめ、残った子孫を率いて身を隠した。
侵入者は傷を負うも、勝利を納め進撃を続けたが弓使いが居た西の王国、ラウス王国と短剣使いのミルヴァーネ帝国の抵抗。そして中立を表明していた大国、ドルガ王国により編成された一流の冒険者によって討伐される。
これにより歴史上四度目になる異世界の魔族による侵攻は各地に大きな爪痕を残しつつも無事に事態は収束した。
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西と東の国の中間にある小さな村。
そこには稼ぎを度外視した小さな酒場があり、知り合い達の集会所となっていた。
集まるのに決め事は無く、思い思いに暇な時に訪れては時間を浪費していく。
「マスター〜」
そこにカウンターで昼間から酒に逃げている男がいた。
男は顔を赤くし、言葉はとてもだらしない。
「こんな昼間っからどうしたんだ?いくら今はサルイアとガルアが休戦中とは言え気を抜きすぎなんじゃないのか」
長い間戦っていたが、今は休戦となり一時の平穏が訪れていた。
「どうせ、すぐにまたあーだこーだ言って戦争だよ。それよりもさ〜俺の幼なじみがさー」
「あーはいはい」
さてこの飲んだくれに昼から付き合わされるのか。
頭痛が走り、頭を抱えたその時に勢いよく店の扉が開けられた。
「ん〜なんだー?ってお前さん!」
飲んだくれが振り向くと酔いが覚める勢いで驚く。
マスターも古い扉を勢いよく開けた人間を注意しようとしたが途中で言葉が詰まった。
「頼みがある」
訪れた人間が頼んできた。だがそんな事はいい。
「お前、大丈夫なのか?!」
入って来た男は血だらけで所々破れた服から覗く怪我は決して軽いとは言えず、何かに噛みつかれたような跡がついていた。
「待ってろ!すぐに神官を」
「そんな時間はない!すぐに向かわないと行けない場所があるんだ。頼む。俺の注文を聞いてくれ」
この村に住む回復魔法が使える神官を呼ぼうとするが男に遮られる。
「頼む、ミリーナを一本注文したい」
男が酒の名前を口にする。
「お前さん・・・金はあるのか?」
男が注文してきた内容に即答してやることは出来なかった。
「おいおい、ミリーナって正気か?!」
飲んだくれが言うようにミリーナとは昔に作られた限定品で今ではプレミアが付き貴族同士の交渉で使われる品だ。もちろんこの酒場では揃えられる代物ではなく、手に入れようとすれば当然借金の掛け取引だ。
「金は必ず用意する。だから、頼む」
「お前さん、それは流石に」
「頼む!!大事な物なんだ。金は後で必ず用意する!!」
男が勢いよく頭を下げ、その動作で傷口から血が勢いよく流れる。
「おいおい、ちょっと待て!買うなら首都で買えばいいだろ?!」
マスターが驚くもすぐに代替案を提示する。
「・・・すまないが訳あって俺では買えない」
「それは、また、何でだ・・・?」
大きな金が動くならもちろん首都にいけば既に揃えているとこだってあるだろう。それをわざわざこんな寂れた酒場で注文する理由が分からない。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・言えない、か」
怪しい男。そして注文して揃えても目の前の男が買える保証はなく借金が残る可能性。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
無言の間が続く。その間も男は血を流す。
「・・・あーもう分かったよ。揃えるよ。しっかり揃えてやるよ!!」
「すまない!」
「おい、マスター本気か?!」
マスターが折れ、男は感謝し、飲んだくれがその行動に驚く。
「マスター店潰れるぞ?」
「バカヤロー!男が血流して頭下げてんだ。お前は少し見習え!」
百も承知だ。たく、俺もやきが回ったか。
「本当にすまない。かならず金は持ってくる」
「いーよ。ほらついでにこれも持ってけ」
棚から赤い液体の入った瓶を投げて渡す。
「おい、マスター本当にどうした。頭大丈夫か?」
「お前はグダグダ言わずに黙っとけ」
「こ、これは治癒のポーション。本当にいいのか?」
渡されたのは治癒のポーション。値段はつかず、教会から配られない限りは手にすることはなく、配られるのは教会が感謝を示した相手だけだ。
「昔助けた神官から貰ったものだ。ホコリ被ってるしやるよ。死なれたら俺が困る」
「すまない。本当にすまない」
「いいからさっさと行け」
頭を下げ続ける男に照れくさそうに出るよう促す。
「必ず、また来る」
「あいよ」
男は嵐のように過ぎ去っていき、残ったのは男が立っていた証拠を示す血、のみだった。