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第二話 自然の世界

 お腹が空いた。


 口の中も少しパサパサする。


 まさか。遂にやって来たのか。


 一度は恐れたが、一つの()()()()()によって支えられていた。だが結局は勝手に都合のいいように思い込んでいただけだった。恐怖という感情が全身を駆け巡る。


 お腹が空いた。喉が乾いた。


 懐かしい感覚だ。不思議な力、恐らく魔法で感じなかったが、その力も終わったという事だろうか。

 という事は()()()()()()()ことに繋がる。


 こんな突然にやってくるのか。


 今まで安心していただけにまたあの震える日に戻るのかと考えると心が壊れそうだ。


 悪い考えばかりが出て、暗い思考に埋め尽くされていく。


 ダメだ、違う。こっちに来たばかりの俺とは違うんだ。今なら少し暗い動ける。食料と水を確保すれば生きられるはずだ。


 でも、どうやってだ?あの訳の分からん獣達を狩るんだ?


 思い出すのは白い狼と黒い獣の闘い。普通の動物でも今のからだでは無理だと言うのに、おまけして不思議な力を使いやがる。勝てる訳がない。だが、ここにいたら絶対死ぬ。


 もしかしたら光の膜はまだあるかも知れない。こちらの早とちりで安全なのかも知れない。


 でも、もし無かったらその場で食べられてしまう。楽観論で誰が作ったのかも分からないものに命を預けるよりも、自分を信じた方が気持ち的に楽だ。

 それに腹が空いたんだ。いつかは出ないと死ぬのを待つだけだ。


 俺の不安な心から今まで安心していられたこの場所に何とか留まろうとする思考を浮かんでは消していく。


 ビビっていたって仕方がないんだ。諦めろ。ここに待っているのは死だけだ。


 分かっている、決心もした。それでもなかなか籠から出る事が出来ない。


 諦めろ。諦めろ諦めろ諦めろ諦めろ。感情を、恐怖を、殺せ。


 俺は喰われる側ではなく、喰う側だ。


 全身に震える感覚が巡っていく。

 あの時の感覚が蘇ってくる。

 死ぬ前の、前世界での感覚。悠を噛んだ時の感覚が。


 体の内側から黒い何かが溢れ出し、俺を包み込んでくる。前回は感覚的なものだったが、今回は視覚的にじわじわと溢れ出す黒いモヤが見える。

 それに疑問を抱くよりも、黒いモヤに包まれていくにつれ全能感に満ちる感覚が思考を支配していく。

 理性が薄れ、思考が消えかける。


「ウゥゥ・・・ァ・アハッ、アー、アハハハッハッハッハッハッハ!!」


 俺の声で、俺じゃないやつが笑っている。


 待て、おかしいぞ。俺が見える。


 さっきまでは確かに俺がその場で衝動に駆られていた。だが、今は弾かれたように少し離れたところから落ち着いた気持ちで俺を見ている。

 先程までの全能感が嘘のように消え、気持ち悪い声で尚も笑い続ける俺を俺は見ている。

 全能感が消え、胸に何かぽっかりと穴が空いたように感じる。そして、それが目の前で笑う奴に奪われたと考えると、腹立たしく怒りが湧き上がってきた。


 ・・・返せよ、うるせぇんだよ。


 睨んだところで距離は近づかない。

 手を伸ばしたところで届かない。

 動こうとしても、宙に浮いたままで足が動かない。


「ハハハハハ!」


 やつの笑い声が脳にこびりつき、怒りだけが積もっていく。


 返せよ。俺の体。もう一度だ。もう一度、さっきまでの感覚をもう一度よこせ。


「・・・ハッハッハッハ」


 何を楽しそうにしてやがる。それは俺のものだ。俺から奪っておいて、何を楽しそうに笑ってんだ?殺すぞ。


 どうにかしようとしても、動くことが出来ず、叫ぶことも出来ない。ぽっかりと空いていた穴は怒りで溢れ出していた。

 その時、全身に何かが駆け巡る感覚が再度やってくる。

 だが、先程の時は同時に全能感が来たが、今回は別のもの。憎しみが湧き上がり、モヤも先程の黒いものではなく、どす黒い赤だった。


 やがて再度、理性の限界を迎えた。

 思考が憎悪で埋め尽くされる。


 殺す殺す殺す殺す。


「ハッハッハッハ!」


 こっちはこんなに怒ってんのになんであいつは笑ってんだ。こっちを見向きもしやがらねえ。許さねえ。まずはこっちを見ろよ!


「クソ野郎っ!!」


「ハッハッハ・・・?」


 っ!声がやっと出た。化け物が笑うのをやめ、振り返り、こちらを見てくる。


「・・・」


「・・・」


 もう一度喋ろうとしたが、また口が動かなくなる。

 化け物も言葉を失ったように口を開けたまま固まっている。

 その表情が、先程までの笑った顔ではなく、引きつった顔に変わっている。


 何だその顔は。今更気づいても遅せぇんだよ!


「・・・かえ、せ、、くそ、野郎」


 目が血走っているのか、視界が徐々に赤く染っていく。


「・・・」


「・・・ハッハッハッ」


 化け物が青ざめた顔で汗を流しながら、乾いた笑い声をあげる。


「うるせえよ」


「・・・」


 その気持ち悪さにすんなりと声が出る。化け物は再度黙り、また沈黙が訪れた。


 膠着した状況に苛立った俺は足を前に出し、一歩踏み出した。


「あっ?!」


 視点が急に変わり、目の前には森が広がっていた。そして宙にどす黒い赤のモヤが浮いている。

 周囲の音が戻り、森の木々が揺れる音と、動物の鳴き声と虫の声、そして先程まで憎悪で満たされていた思考が再度リセットされ、気持ちは落ち着いていた。


 まるで夢から覚めた気分だが、目の前のモヤ、そして消えずに俺の体から出続けるどす黒い赤のモヤが夢じゃないことを教えてくれる。


「今のは何だったんだ・・・?」


 さっきのアイツの顔と笑い声はやけに脳へこびりついて離れない。今思いだすと、ただ俺が笑っていただけにしか思えないが、先程の濃密な時間に抱いた感情が嘘じゃないのは確かだ。

 最高に気持が良かったが、狂しいほどに憎かった。


 抱いた感情を思い出すと、出てくるモヤの量が増えている事に気づく。


「ん?なんか増えてないか。というかこれ、消せないのか?いつまで出てるんだよ」


 気持ちが落ち着いても、モヤは出続けたままだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 先程の出来事で、籠から出たときの不安などは消し飛び、次にどう動くかを考える。モヤについて相変わらず出続けているが、よくわからないのでそのまま放置することにした。


 とりあえずは森と草原のどちらに行くか、だな。草原の方は、これだけ待って人が来なかったということは恐らく草原の向こうも永遠と草原が続いているだろう。それに草原で狼に見つかったら終わりだ。いくら動けると言っても全力で走るのは無理だし、走ってもこの体だと遅い。


 という事は、残るは森。


 恐らく森の中は動物たちのテリトリーだろう。それでも水だったり雨宿りだったりが出来るし、狼は木に登れない・・・と信じたい。

 エンカウント率が低いが見つかれば終わりの草原と、率は高いが生存確率が存在する森、どちらをとるかは明らかだった。


 籠に入っていた布を体に巻いて準備完了。原始人よりひどい装備レベルだ。目標は森の先。そして何より生き残ること。いざ出陣!




 それから森に入って二日が経った。

 風が吹く度に木々の葉が揺れるが、木と木の間の密度が高く音ほど風が当たることは無い。陽の光も木々の葉に遮られて中は暗い。朽ちて倒れた木も多いし、苔もビッシリで歩きにくいことこの上ない。

 突然木の裏から道の動物が襲ってきたら一瞬で死亡だ。そうだとわかっているのに何故か気持ちは落ち着いていた。


 ぐぎゅ〜〜。


「み、水・・・」


 体が食べ物を訴え、俺は水を欲した。

 あれからまともなものは見つけられなかった。木の実か果実くらいあるだろうと思ったが見つからない。

 森に流れる小川も探しているが、気配が一切ない。

 幸いなのは未だ狼などの動物に出会っていないことだろうな。


 殆ど眠ることなく歩き続けていて思考が鈍い。小さな体にこの強行は無理だろ。


 若干自分の体が憎く思いながらゾンビみたいな動きで歩き続ける。


 チラリと木々にこびりついた苔を見る。太陽の陽が入らず、気温差によって出来た結露を吸ってか、瑞々しい苔がそこら中に見える。


 生きるんだろ。死にたくないんだろ。


 分かっている。分かっているが、やっぱり受け付けない。

 だがもう二日も粘った。そろそろ限界が近づいてきているのも分かっている。


 クソ。俺は生きるんだ!!


 小さな葛藤をしつつも決心を固め苔をむしり取る。

 むしり取った苔を纏めて頭上にかかげて搾って飲んだ。


「こ、これで腹壊したら許さないからな」


 今まで我慢していた分どんどん苔をむしっては搾って飲む。


 ここまで来たんだ。やることやってやるよ!


 朽ちた木を割って中から何かの幼虫をつまみ出す。

 一応何か分からないし内蔵を搾り出して丸呑みする。近くの土の中からも同じような手順でミミズを摘む。


 日本は恵まれすぎたんだ・・・。テレビでカブトムシや幼虫を食べる映像を見て気持ち悪がっていたがまさか俺が食べる事になるとは想像していなかった。。

 近くの木に止まっていた灰色の虫を脚だけとって食べる。


「ーーーーーー!!?」


 腐った風味に中はエビみたいな食感。控えめに言ってくそ不味い。

 おまけに殻の破片が口の中で刺さって痛い。


 吐きそうになるのを無理やり飲み込み、二匹目をもう一度食べる。

 うげーーー。


 生きるため。生きるため。生きるため。


 寄生虫だの病気なんかよりもお腹を壊さないかだけが心配だ。これだけして全て出す事にはなりたくない。



 陽が傾くと木々が光を遮るためあっという間に暗くなってきた。幸い、大きくそれでいて足場にできそうな場所が複数ある子供でも登れそうな木を見つけられたので木の上で休むことにする。

 登るのは大変だが、体が小さいお陰で横になりやすい。

 横になってしばらくすると。


 パキッ。と細い木の枝が折れる音が聞こえた。


 慌てて下を見ると、暗くてよく見えないが何かが動いているのが分かる。


 息を止めて通りすがるのを願う。だが、モヤは出続けたままだ。幸い暗闇のおかげでそこまで目立ってはいないし、重力を無視して俺の周りを漂うだけなので気づかれる可能性は低い。

 その後、獣は少しだけ徘徊した後に去って行った。


 はーーー。大きく息を吐いて呼吸を再開する。心臓に悪い。狼って木に登れたんだっけ?


 考えるがすぐに水の球やら見たことない黒い獣を思い浮かべてすぐにやめる。此処は地球じゃないんだ。常識で考えると痛い目を見るぞ。

 それよりもやっぱり匂いとかで分かるのだろうか。いや、それよりもこのモヤ本当に何とかならねえかな・・・。


 その後も度々来訪者が来るも気づかれることはなかった。


 起きると、硬い木の上で寝たせいか体が痛い。森の奥に入ったからか、来訪者が多かった。それでも途中起きたりはしたが、十分まともな睡眠が取れたため起きた時は既に明るくなっている。

 苔ドリンクと活きのいい虫を食べてまた歩き始める。幸いお腹を下すことは無かったのでこれからは出来るだけ今まで食べた虫を食べようと思うが、正直当たり外れはわからん。


 その後、いつもどおり、森の中を進み続ける中で異変に気づく。


「狭い?」


 木と木の間が余計に無くなってきたのだ。密度が高く、倒木や石などで物凄く歩きにくい。

 最初は普通の森程度で低い山を登っている感覚だったが、今ではアマゾンのジャングルみたいに狭く、少し進めば方向感が分からなくなる。


 やばいな。これだと何かが近づいて来ても気づけないぞ。


 しばらく考えて、周りを見た後に思いついた。


 よし、木の上を移動しよう。


 歩くスピードよりかなり遅くなるがエンカウントすれば死ぬのを考えれば遥かにマシだろう。手頃な木に早速登り、移動を始めた。



「はーーーふぅ。はーーーふぅ。む、無理だー!」


 当たり前だが移動するのが遅い以前に体力が無さすぎる。子供の体には辛く、数本動けば休んでを繰り返す。

 時折、下の草むらが揺れる度に心臓が跳ね上がるが、未だに姿は確認していない。


 そこまで気温は高くないが、疲労で汗が吹き出てくる。


 ジトーっと汗でベタベタするが最近は布も汚れて自分が臭い。

 臭いは今更なので気にせず眠りについた。


 ポツ。


 普通なら聞き逃す音だが不思議と大きく聞こえた。


「雨だ・・・!」


 夜になると雨が降ってきた。久しぶりの天然シャワーで体を洗う。せめて入れ物があれば溜めれるのに。

 小さい事ではあるがとても嬉しく感じた。


 次の日も方角が上手く掴めないがとにかく前に進み続ける。夜の雨は止んだが、葉についた水滴を舐めながら進む。


 今日も変わらず森の先を目指して木の上を移動する。筋肉痛もするが、密度が上がると移動もしやすいし効率よく移動する方法を考えながら進む。


「ーーー・ーー」


 突然の事で頭が真っ白になる。

 俺は息を止めて耳に意識を傾ける


「・ーー」


 間違いない、人だ。何か会話しているようだが、遠すぎて聞こえないし姿も見えない。

 俺は助かると思い、声のする方に猛ダッシュで向かう。何を喋っているのかは分からなかったがとにかく人に会いたかった。


 


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 鬱蒼(うっそう)とした森の中を素早く駆け抜ける影が二つ。一つは東から、そしてもう一つは西から。

 やがて示し合わせていたように同時に足を止める。


「汝の影は?」


「ヴァルダーの城」


 二人の見た目は街を歩く平民と変わらない装いをしていた。髪は雑に短く切られ、森の中で少し汚れた布の服を着ている。だが、ここは森の中であるため違和感しか無い装備だ。魔物と出逢えば防御力は期待できない。それでも東から来た男は短剣を、西から来た男は弓を所持していたが、武器一本という装備で危険な森の中を駆け抜けていることから普通の人間では無いのが分かる。


「合言葉は大丈夫だな。誰かに付けられていないか?」


 東から来た人間が最初に話しかける。


「お前こそ付けられていないだろうな」


 二人は笑いながら服の袖から見える鍛えられた拳をぶつけ合う。


「問題ない。準備も終わっている」


「手順に問題はないようだな。こっちもちゃんと終わらしてきたぜ」


「そうか・・・ようやく終わるのか」


 東側の短剣を持った男がそう呟いて、木々の葉から溢れる陽を追うように天を仰ぎつぶやく。


「長かった。それでもこれで終わりだ」


「・・・ああ。さっさとこの無意味な争いを終わらせよう」


「お前が東のミルヴァーネに行くと聞いた時は驚いたぜ」


「それがこのくそったれな戦争を早く終わらせるには必要だったからな」


「それでも立派なじいさんだな」


 ニヤリと笑いながら東の男を煽る。


「うるさい!十五年以上潜ってたら見た目も変わる。むしろこの程度で出世しながら潜り込めたのは運が良かった方だ。それでもどれだけ苦労したか・・・ラウスにいた居たお前にも想像くらいできるだろう?」


 怒りつつ、後半になれば呆れたような声で答える。


「まあな。ミルヴァーネの閉鎖主義者が異国の人間を出世させている時点で異常だろう。中では天才だのもてはやされたんじゃないか?」


 ニヤニヤと薄気味悪い顔で尋ねる。


「冗談じゃない。妬みしかなかったぞ。幸い上の人間が味方してくれたおかげで表立ってなにかしてくるわけじゃないが、隙あらば刺そうとしてくる奴らだ。おかげで深く寝たのは何年も前の話だ」


 短剣を持った男は首を振りながら続ける。


「・・・それでもミリーナの為なら惜しくない。何年経とうが何をされようが、そんなことはどうだっていいんだ。アイツのためなら俺は何だってやれるんだ・・・くそっ」


「・・・そうだな」


 最後につばを吐き捨てるようにつぶやいた声に、同じ気持ちを抱く男は悪い笑みを引っ込めた。

 二人が長年をかけて潜り込み戦争を終わらせる工作を開始した理由はよく三人で遊んでいた内の一人が戦争の犠牲者になったからだった。きれいな金髪をたなびかせ、嬉しそうにいつも笑う顔を今でも思い出せるほど鮮明に記憶している。

 そんな彼女を奪った戦争というものがただただ憎かった。戦争だから仕方がない。そんな物分りのいい子供達ではなかった。二人でどっちが嫁に取るかで喧嘩もする友達だったがこの時から同じ思いを抱く唯一無二の親友となった。


「さあ、しんみりするのも、ミリーナに何か言うのも、全て終わらせてからだ」


「そうだな。ここまで来てずっこけたらミリーナに見せる顔がねえよ。・・・それじゃあこれがようやく約束を取り付けた機密書類だ」


 無地の封筒から出てきた紙は、華美なほど装飾がされた一枚の古い紙だった。


「了解。俺のはこっちだ。印と契約を頼む」


 続いて東の男も似たような紙を出す。


 それは両国の貴族や王族が結ぶ内容と結果を縛る密約書だ。

 もう長く決着のつかない戦争にお互いが疲弊し、密約を結ぶには十分な状況だった。

 内容は戦争の終わりと終わらせる為の両国の条件が書かれている。随分な時間をかけて擦り合わせた書類だ。


 二人は王から託された印を押し、お互いが密約を口外するなどといった、裏切り行為をしない事も契約で縛る。


 最後に二人の足元から魔法陣が出現し、空に紫の光となって消えた。


「よし、これで完了だ」


「ああ、それじゃあさっさと帰るぞ。どこで見てるやつが居るかわからないからな。帰り道でヘマをこくなよ?」


「当たり前だ。これが終わったらミリーナの墓前で一杯飲もうぜ」


「あまり飲むと怒られるぞ。酔ったおじさんをめちゃくちゃ嫌ってたからな・・・」


 昔の光景を思い浮かべるように東の男がつぶやく。


「い、いいんだよ!こういう時くらい」


 冗談を交わしていたその時に不自然に周りの枝が揺れた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 やった。やっと人と出会えた。とりあえずこんな所から逃げたい。


 勢いを付けて木から飛び降りて二人の前に立つ・・・が着地時に力が入らず前に転がる。


「いっったあ・・・」


 くそっ、まじで力がなさ過ぎる。それでも二人に会えたのは運がいい。片方が反対しても、片方が賛成すれば助けて貰えるはず。何より赤ちゃんから少し成長した程度の人間を無下にするやつはいないはずだ。


「すいません。助けて下さい!」


 急いで立ち上がり、すぐに頭を下げて助けを乞う。


「「・・・・・・・・・」」


 あ、あれ?何だこの空気は。


「あ、あの。自分でもよく分からないうちにここに居たんですけど、とにかく人がいるところまで連れて行って欲しいのですが」


「「・・・・・・・・・」」


 何だこの空気は。普通一声あるもんだろ。もしかしてこの赤黒いモヤのせいか?でもこればっかりはどうすることも出来なかったからな・・・。


 一向に返事のない事に不安を感じて頭を上げる。

 一人は短剣を持ち、もう一人は弓を取っていた。


「あ、あの?」


 物々しい雰囲気に一歩下がる。


「ーーー・ー」


「・ー」


 二人が目も合わさずこっちを見つめ・・・いや睨んだまま言葉を交わす。


 言語が通じない驚きよりも一人が短剣を持ってこちらに来る動作をしたことに脳内で警鐘が鳴った。


「ええ、、、えっと」


「「・・・・・・」」



 なおも攻撃的な動作を続け、ついには弓に矢をつがえた男に嫌な感覚が全身を駆け巡る。


 気づけば俺は全力で森の中に逃げ帰った。

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