オープニング 異世界への追放
俺は普通の高校生だった。家に帰れば両親が居て、可愛い妹も待っている。
頭はそこまでいい方では無いが、悪いことも無い。平均な学力で特別優れた能力があるわけでも無い。
一番古い記憶は保育園で友だちと遊んでいる記憶。そいつとは腐れ縁で小学校でも中学校でも喧嘩したり笑ったりと何かと付いて回っていた。
高校に上がってもそれは変わらなかった。
ただ、その日は違った。
「やめろおおおおおおお!」
教室の中で先生が叫んでいる。窓ガラスは割れ、机や椅子はぐちゃぐちゃに転がり、他の生徒の叫び声が飛び交う。
非日常で、非現実的で、非合理的だった。
目の前のクソ野郎がぐちゃぐちゃになっていくさまは気分がいい。
こんな事したって無意味だ。俺にはデメリットの方が大きい。それでも、今までの俺は何か別の存在を演じていただけで、本当の俺はこうなんじゃないかと、本能が囁いてくる。
よくわからない感覚に何が起きているのかが分からなくなり、目の前が黒く染まっていき、やがて周りの声が小さくなっていく感覚に襲われた。
そして、俺は――――――人を、食べた。
その一瞬、世界からも音が消えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
狭い部屋の中で目が覚めた。
周りは床が畳で布団と小物があるだけの簡素な部屋だ。
これだけしかなく退屈な時間が続く。
俺は特別少年院に入れられ、出るまでの間は大人しく過ごしている。
あの事件は世間でも大きく取り上げられ、親は様子を見に来ることすらない。最後に母さんは泣いていて、父さんがブチ切れていた。俺だって息子がこんな奴だったら消したくなるさ。
先生は一度来たが、
「悠くんは元気か?」
と聞いてからは来なくなった。お前が、お前がとガタガタ震えながら結局は何も言わずに出て行ったがあの様子だと死んだのだろう。少しは粘ったようだが当然の報いだ。
何で食べたんだろうな。世間でも騒がれているが俺も不思議だ。恐らく冷静では無かったんだろうな。だって不味いのに。
確かカッとなって組み倒したら手がふさがって、喉の動脈を狙って噛んだが、殺すならもっとバレないようにしないと。
「起床」
ああ、また退屈な日々が始まる。
作業を終えて飯食ったりしていたら夜になり、何も無い部屋の布団に入り込むとすぐに睡魔がやってきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーぉーーーお・・・きーーー。
「起きろ!!」
「うわっ?!」
意識が覚醒していく。白い空間が永遠に続いている場所に俺一人・・・明晰夢ってやつか?
「おい、貴様!話を聞け」
「え・・・?」
どこからともなく澄んだ女の声が聞こえる。
「貴様は罪に問われた。よってこの世界から追放する」
「ちょっはっ?」
どういう事だ。これは何の話で、どんな状況だ。
「よってこれより別の管理者に引き渡す。少し待て」
何もない空間に声だけが響く。
「待て待て待て、なんの話だ?」
「・・・・・・・・・」
応える声はなかった。どうやら返事はないらしい。
どういう状況だ、これは。落ち着け。整理しろ。
まず、眠って気がついたらこの何も無い空間にいた。しっかりした感覚があるということは恐らく明晰夢、というやつだろう。
そしてその夢の中で声がして罪に問われたとか言ってたな。世界から追放するとか。
・・・少し付き合ってみるか。面白そうだし。あの野郎が出てきたらもう一度じっくりと殺してやる。
おっと、まずは何の罪かだな。
・・・何の罪だ?心当たりがまるでないぞ。人を少し齧って飲み込んでみたけど、それは人の倫理観や価値観であって世界ではありふれていることのはずだ。世界云々でいうスケールではまずありえない。
何か世界的な罪を犯したということなら、俺は独房で犯した事になる。最近の出来事と行ったらちょっと気に入らないやつを・・・いや、これも関係ないな。
世界の罪・・・うーん。わからん。
「これから私の世界へ送る」
唐突にまた声が聞こえた。今度は女なのは分かるが別に特徴のない声だ。
「はいはいはーい。質問」
「・・・・・・・・・」
――――――ピキッ。
白い空間に罅が入った。
そして何かが割れる音がして白い空間が崩れ始めた。
「ちょ、話を、きけ」
足元の亀裂を避けながら声を出す。
「・・・・・・・・・」
「俺の夢だろ?!答えろよ!」
何なんだ本当に。俺の夢のくせして都合が悪すぎるだろ。せめて目の前にいれば色々方法があるのに。
ガシャン!!
けたたましい音と亀裂の欠片が降ってきて、俺自身も下へと落ちる感覚とともに意識が途絶えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
崩れた後にはまた白い空間が再構築されていた。もちろん先程いた一人の少年はいない。
「ルミア、罪に問われた者は?」
澄んだ女性の声が響く。
「然るべき世界に送りました」
「・・・そう」
声の主は考える。少年が送られた世界はどこまでも罪を背負った存在しかいない。
「フフッ。彼にはぴったりね」