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ep4長いプロローグの終わり

「調べるのは得意なの。知っているのは年齢だけじゃないわ。名前も、境遇も、異能力だって知ってる。ねぇ、(ひいらぎ)緋色(ひいろ)くん?」


 言葉を失った。そりゃ、戸籍を調べれば俺のことはある程度分かるだろう。でも戸籍を調べるにはそもそも俺がジャークネスの一員だということを知らなければいけない。

 俺は戦地に赴かない。指示を出すだけだ。それなのに俺がジャークネスの一員だと知っているだなんて異常だった。


「その名前で呼ぶな。俺は一号だ」

「でもクビになったのでしょう?」

「……聞いてたのか」

「違うわ。私がきたのは、坊やが『罰を受けなくて済むように』って話をしていたところよ。ただ、ジャークネスはいずれあなたたちを追放するって予想してたの」


 掌の上、とはこういうことを言うのかもしれない。あるいはまな板の上の鯉。今すぐにでも俺たち全員が終わらされてしまいそうな恐怖を感じる。

 相手には俺の異能力はバレてしまっている。〈インカム〉や〈カメラシェア〉を用いて情報共有して奇襲を仕掛ける作戦は通用しない。かといって〈ライブ〉を使っても限界があるだろう。


「怖い顔。悪人顔が染みついた……にしては、可愛いけれどね。でも安心して。あなたたちに危害を加えるつもりはない。むしろ優しい坊やに喜んでもらえる話を持ってきたの」

「…………どういうことだ」

「取引をしましょう、ってこと」


 不思議と嫌な予感はしなかった。皆と目配せをしてから、話の続きに耳を傾ける。


「まず前提条件として、私はあなたたちを捕らえるつもりはないわ。その上で、あなたたち全員に雇用と衣食住を提供する。坊や以外には戸籍も、ね」


 願ってもみない提案だ。


「その代わり、こっちは何を差し出せばいい?」

「乗り気になってくれたみたいね。あなたたちに私が求めるのは三つ」


 三本指。

 一本一本指を折りながら黒影乙女は説明を始める。


「一つは情報。ジャークネスの内部情報はもちろん、怪人組織の事情も色々聞きたいところね。もう一つは、あなたたちの労働力。あなたたちが働き口を求めているように私も働き手を探してたの」

「勤務内容は?」

「簡単に言うと肉体労働ね。けれどこれまでの仕事よりずっと楽なのは間違いないし、法に反しないわ。むしろ今までのあなたたちの罪を償って余りあるほど社会の役に立つ仕事よ」


 具体的に説明してこないところに胡散臭さを感じる。が、黒影乙女に悪意があるようには見えない。


「最後が坊やの異能力。心からの本音を言うなら、私は坊やだけでもいいくらい」

「俺の、異能力が……?」


 俺の異能力は【プロデューサー】。他者を支援するための異能力という意味で確かに便利ではあるが、これには明確な制約がある。それゆえにヴィランに対してスキルを発動できないわけだし。


 調べたというのなら、きっと【プロデューサー】の制約も知っているのだろう。だというのに俺の異能力を求めてるだなんて、とてもじゃないが信じられない。


「信じられないかしら」

「信じられないな。俺の異能力は対怪人に役に立つようなもんじゃない。それ以前にこいつらの勤務内容だってあんたは説明してないだろ。不都合なことがあるんじゃないかって勘繰るのは当然だ」

「それも上司としての責任感、といったところ?」

「皮肉を言う余裕があるなら説明してほしいところだな」

「そうね。夜更かしはお肌に悪いし、さっさと話を済ませるわ」


 夜風がひゅぅ、と吹いた。

 黒影乙女は妖しく笑う。何故だか俺は黒影乙女の笑みに、立ち姿に、雰囲気に呑み込まれた。


「坊やには魔法少女を育ててほしいの」


 此方と彼方を分かつように、その言葉はトンと放たれた。


「今の時代、どこの学校にも『魔法少女部』と言って、魔法少女になるために女の子が頑張る部活動があるの。私は魔法少女の副業としてとある学校の教師と、その学校の魔法少女部顧問をやってるのよ」

「なるほど……」


 魔法少女部の存在は知っている。怪人組織の間でも厄介な存在として見做されているからだ。

 確かに学生魔法少女はプロの魔法少女よりも能力の面では劣る。しかし規則として、学生魔法少女は二人以上での活動が義務化されている。これが割と面倒なのだ。


 魔法少女は危険な仕事ではあるが、多くの人々の憧れの存在でもある。その理由の一つとして希望を集めるためのアイドル稼業とかがあるわけなんだが……まぁそこは今述べることじゃないだろう。

 ともあれ学生魔法少女は怪人組織にとって厄介で、けれど増加傾向にある。そういうことだ。


「魔法少女部では色んな訓練をするわ。希望を集めるための方法から戦闘訓練まで、ね。けれどどうしても実践訓練が足りなくなってしまうの」

「話が見えた。つまり、俺たちには魔法少女部に所属してる魔法少女の卵たちの訓練相手になれってことか」

「その通り。それともう一つ。坊やには魔法少女に異能力を使ってもらう。その真価を発揮してもらう、という言い方が正しいかもしれないね」

「……真価」


 俺はまだ【プロデューサー】の真価を引き出せていない。

 黒影乙女ははっきりとそう告げてくる。

 にわかに信じがたい言葉なのに、彼女の言葉には力があった。あるいは、俺の異能力についてはどうでもいいって心の中で思っていたのかもしれない。皆の居場所が確保できるならそれでいい、と。


「その話、乗った。あんたに利用されてやるよ。断ったところで逮捕されるだけだしな。皆もそれでいいだろ?」

「ボスがそう決めたなら、私たちはついていきます。ついていきたいんです」

「「「「二号に同じく!!!」」」」

「そうか。さんきゅーな、皆」


 再び、黒影乙女と向き合う。

 正直なところ、理解できていない部分は多い。俺の異能力の真価だなんて呼ばれても意味が分からない。

 それでも皆と生きていくために、この選択をする。


 ――そう自分で言い聞かせなきゃ、鼓動の音がうるさくて自分が自分じゃなくなってしまいそうだった。


「ってことだ、黒影乙女。これからよろしくな」

「そうね、坊や。あ、それから言い忘れていたけれどあなたにはうちの高校の生徒になってもらうから」

「………………は?」

「それからついでに坊やの部下の子も、高校生くらいに年の子いるでしょう? そういう子はうちの高校に入学ね。やっぱり青春は楽しまなきゃ」

「えと、さっきまでの重い空気は一体……」


 あっけらかんと言ってのける黒影乙女の笑みを見て、そりゃ魔法少女は人気を集めるよなぁとしみじみ思った。



 そして。

 ここから俺の人生は、今までとは全く違った色へと変わっていくことになる。


 前置きが長くなったけれどこれは、眩しくて尊い魔法少女という夢を追う少女たちの物語だ。

 俺は彼女たちを推す、プロデューサー兼オタクってだけ。


 だからまぁ、どうか聞いてくれ。最高にかっこよくて可愛くて推せる、うちの魔法少女たちの話を。

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