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ep3夜の相談

 戦闘員たちを集め、事情を話した。

 俺たちが役立たずだと思われていたこと。反論してみたが分かってもらえなかったこと。もうジャークネスにはいられないこと。

 夕方から話し始めたのにいつの間にかもう、世界は夜に落ちていた。紫黒い空にはぽつぽつと星が見えて、それがなんだか切ない。


「というわけで……本当にすまない。お前たちを守ってやりたかったけどダメだった」


 今だけじゃない。本当はずっと前からもっとたくさん謝らなきゃいけなかった。

 異能力があるわけじゃないこいつらを戦地に赴かせ、悪に手を染めさせたのは俺だ。あーだこーだと取り繕ったところで、結局俺にも英雄願望があり、その願望を満たすためにこいつらを利用してしまっていることに変わりはない。


 だから深々と頭を下げる。土下座も幾らでもするつもりだが、軽々にする土下座じゃ思いが伝わらない。ちゃんと求められたら土下座しよう。

 そう思っていたのだが――


「頭上げてくれよ、ボス」

「そうだよ。俺たちはボスに感謝してるんだぜ」

「ボスがいたおかげで皆と会えて、笑って過ごせたんだよ。謝られたら困っちゃうって」


 思っていたよりも優しくて温かい言葉ばかりが返ってきた。

 誰も俺を責めてこない。まるで都合のいい御伽草子みたいで、ずくんと胸が痛んだ。


「でも、どう言い繕っても現実は変わらないんだぞ。俺はお前らを犯罪者にしちまった」


 優しい言葉は気持ちいい。現実を見なくて済むのは楽だ。けれども俺は罪を償わなきゃいけない。理不尽だと宣おうと、皆そうなんだと言われてしまうのがオチだから。


「ボス。ちゃんと私たちのことを見てくださいよ」


 声が聞こえた。聞き慣れた声だ。戦闘員の声は全員耳に染みついているけれど、中でもそいつの声は特別に耳に刻み込まれている。

 顔を上げると、俺より小さい少女が目の前に立っていた。晴れの日の雲みたいな白髪の彼女の名前は――二号。


 一番の古株にして最年少。俺が居場所がなくて困ってる奴を戦闘員として拾い始めたのも二号がきっかけだったように思う。


「私たちはここにいます。ボスにとって私たちはなんですか。部下? 手下? それとも駒ですか?」

「違う!」


 業務上は部下だ。だから作戦中には部下として見るし、こいつらも俺に対していつも以上に硬い態度で接する。

 でも俺にとってこいつらがなんなのかと聞かれたら、答えは部下なわけがない。


「家族だよ。お前らは俺の、大切な家族なんだ」


 だからこそ、俺は戸籍上の名前なんて名乗らない。

 俺は一号で、こいつは二号。他の奴らにも三号、四号って名前を付けてる。それが俺たちの唯一無二の繋がりだから。


「だったら気付いてください。私たちはボスに犯罪者にさせられたわけじゃないんです。自分たちの意志で、ボスと一緒に生きる未来を選んだんです」


 ああ、どうして。

 どうしてそんな優しい言葉ばっかりかけてくれるんだ。俺は皆が役立たずだって言った奴らの考えを変えさせることも、異能力を使って全てをひっくり返すこともできないのに。

 悪にすらあっさり追放されちまった、要らない奴のはずなのに――ッ!


「ボスが綺麗に生きることを望むなら、私たちも罪を償います。少しの間バラバラになったって、ボスがくれた名前も居場所も失くしたりしません。だから謝らないでください。むしろ誇ってください。だってボスは私たち皆のヒーローなんですから」


 つーんと鼻の奥が詰まる。

 二号だけじゃない。他の九十九人も皆、頼もしく頷いてくれていた。胸がぐぅと詰まる。まさかそんな風に考えてくれているだなんて思いもしなかったのだ。


 かっこいいな、と心底思う。大好きだ、と腹の奥から滲む。

 自分の境遇のせいになんかせず、罪を償おうとする覚悟がある。そのことが嬉しくて、だからこそ俺はこいつらには一点の曇りもない真っ直ぐな人生を送ってほしいと思った。ただ普通に、まっさらな状態でのスタートをさせてやりたい。


 けれどそんなのは夢のまた夢でしかなくて。

 たとえ皆が俺に優しくしてくれても、現実は都合がよくない。罪には罰が伴うし、罰の痕は一生消えない。罪を償ったところで、一度罪を犯してしまえば周囲からは白い目で見られてしまう。


「……分かった。本当は、皆が罰を受けなくて済むようにしたい。でも、多分それは無理だ。だから、明日の朝自首を――」

「――自首するつもりならその前に私の話を聞かない? そこの坊や」

「なっ」


 気付いたときには、その声はすぐ近くまできていた。

 咄嗟に声の主から距離をとり、警戒心を一気に高める。戦闘員の皆も同様で、突如現れたその女を警戒し、すぐ戦闘に入れるようにしていた。


 女は俺たち全員の警戒をたった一人で受け、それでもなお余裕を持った笑みを浮かべる。黒いドレスは酷く不気味に映り、ごくりと息を呑んだ。


「誰だ、お前。どこから現れたんだよ」

「私は黒影乙女。これでも魔法少女なんだけど、知ってるかしら?」

「くろかっ、お前が……!」


 黒影乙女と言えば、夜に主に活躍する魔法少女だ。その妖艶な魅力から多くのファンがおり、人気ランキングでも上位にいた。だがその人気以上に恐ろしいのは彼女の異能力。


 異能力自体は公表されていないので明言できないが、怪人のなかでは黒影乙女はその名の通り闇を操る異能力を持っているとされている。事実、彼女が使うスキルは闇に隠れたり闇を動かして鞭や触手にしたりと、闇に関わるものが多い。


 夜を活動主体としているのは魔法少女以外の仕事が忙しいというだけでなく、彼女の異能力が夜に最大限機能するからだと言われていた。

 より分かりやすく述べるなら、この時間帯に遭遇した怪人は終わりだと思っていいレベルの魔法少女である。


 相手は魔法少女なのだから自首すればいい。どうせ明日に行こうと思っていたのだから変わりはしない。

 そう頭では分かっていても抵抗を覚えてしまうのは、黒影乙女のさっきの言葉が原因だ。


 ――自首するつもりならその前に私の話を聞かない?


 自首するよりずっと酷い目に遭わされる可能性が大いにある。なら、今は逃げの一手しか――


「ああ、逃げても無駄よ。周囲は私がスキルで包み込んだ。どうやっても逃げられないわ」

「抜かりねぇな、くそ」


 俺の浅い思考なんてすっかり見抜かれてしまっているらしい。

 皆に抵抗しないよう、視線で伝える。

 熱い唾液を飲み下し、黒影乙女と話し始めた。


「目的はなんだよ。法じゃ裁ききれないからって私刑でもしにきたのか? もしそうなら、俺だけで許してくれ。俺のことはどんなに痛めつけたっていい。こいつらは色々言ってくれるが、最終的な責任は上司の俺にあるんだ」

「上司、ね。坊や、上司なんて年じゃないでしょうに」

「……どういうことだよ」


 意味ありげに笑ってから、黒影乙女は告げた。


「あなたはまだ十六じゃない。今年でようやく十七歳」

「……っ、どうして俺の年を知ってる?」

「調べるのは得意なの。知っているのは年齢だけじゃないわ。名前も、境遇も、異能力だって知ってる。ねぇ、(ひいらぎ)緋色(ひいろ)くん?」

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