眩暈(男女恋人同士。やや暗め)
鬼束ちひろさんの眩暈が似合うカップリングが好きです。
眠れぬ夜を過ごすちょっと不安定気味なカップルをときたまとても書きたくなります。
「……かな、さん?」
「……!」
「どうしたの……? 怖い夢、見た?」
暗闇の中。
隣で身じろぎする気配を感じて目を覚ました。
目を開けると、やっぱりかなさんが膝を抱えて座っていた。
長い髪の向こう側、怯えた目が、こちらを見ている。
「……」
その目からは、幾筋もの涙が流れていた。
数時間前、この腕の中で眠りについたときは、とても穏やかな寝顔だったのに。
「──だいじょうぶ」
俺もゆっくり起き上がって、かなさんに手を伸ばした。
「……っ」
かなさんは、びくっと肩を震わせたけれど、俺が目を見て微笑むと、すぐに身体の力を抜いて、素直に胸の中へと飛び込んで来た。
「大丈夫、大丈夫だよ」
「……っ、……ッ」
ぎゅっと俺に縋り付くかなさんを優しく抱き締める。
「俺が、いるよ」
ぽん、ぽん、と優しく背を叩く。
「怖い夢は、ここまで追って来ないから」
「……」
かなさんの過去に何があったかは、実はよく知らない。わからない。
それでも、たまにこうして、かなさんは悪夢を見る。
悪夢を見ると、かなさんはそれ以降朝まで眠らない。……夢が現実まで追って来そうで怖いのだと、いつか彼女は言っていた。
折れそうなほどに細い手足。蒼白い肌。色素の薄い髪。
かなさんは、まるで夢の世界の妖精のようだといつも思う。
このまま、儚く、消えていってしまいそうな。夜の闇に連れて行かれそうな。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
だから、こうして抱き締める。
「……ずっと、そばにいるよ」
「…………」
夢にも、夜にも、何にも彼女を奪わせやしないように。
「大丈夫だよ」
彼女が、心の底から安心出来るように。
──そうしてどうか、ずっと、俺の傍にいて。
俺は、願いを込めて、彼女の頭にキスをした。
END.