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ニンジャ・メトロポリス

 あれから反乱軍はメサイアを破壊し、全人類を洗脳から解放した。夢玄(むくろ)はかつて(やなぎ)の幽閉されていた場所――風林火山の本社の地下にある監獄の最深部に幽閉された。


 彼は去り際に、こう言い残した。

「元より、私は自分の死後にも、理想郷を繁栄させ続けようと考えていました。そのための後継者として、私は自分自身のクローンを培養してきました。彼らは皆、将来的に理想郷の最高指導者に相応しい忍者になれるよう教育されています」

 例えこの男を倒しても、両陣営の決着は当分つかなそうだ。そんな夢玄に対し、(まもる)は強気な宣言をする。

「今ここにある世界を何度奪われたとしても、僕たちは必ずそれを取り戻しますよ! 夢玄さん!」

 守に続き、残る四人も深くうなずいた。なんとも頼もしい戦友たちである。何はともあれ、彼らは宿敵を倒した。そして彼らは、その宿敵に支配されていない世界を取り戻したのである。


 しかし、それで全ての問題が解決したわけではない。


 それは夢玄が逮捕された翌日のことである。愛海(あみ)天音(あまね)、そして竜牙(りゅうが)の三人は、死骸の散らばる路上にて無数の忍者に包囲されていた。彼らはもう「反乱分子」ではないが、日本の技術の詰まった生物兵器であることに変わりはない。そして、彼らを狙う者たちもまた、それぞれの祖国の所有する生物兵器に他ならないのだ。天音はため息をつき、二人に指示を出した。

「奴らを殺さないよう、手加減するんだよ」

 最強の忍者を倒した者たちならではの余裕だ。そんな彼女の言いつけを、愛海と竜牙は快く順守する。

「もちろんッス! 平和を取り戻すためにも、新たな憎しみを生むわけにはいかないッスよ!」

「フン……敵を殺すのは、先に殺されることを恐れる者のやることだ! あんな連中ではこの獅子食竜牙(ししばみりゅうが)を殺すことは出来ぬ。よって、あんな奴らなど殺すまでもない!」

 抱えている想いが違っても、彼らは仲間だ。天音たちは一斉に巻物を手に取り、臨戦態勢に入った。



 同じ頃、柳はとある荒廃した街を訪れていた。彼女はアコースティックギターを構えつつ、ライブハウスの跡地に立つ。ライブハウスは戦争により半壊していたが、それでもかつての面影を微かに残していた。彼女は深呼吸をし、おもむろに弾き語りを始める。

「遠い過去に思いを馳せるより、今も思い出を作っていこう。時に心が痛むこともある。だから休み休み生きていこう。淡い記憶に恋い焦がれるより、色鮮やかな空を見上げよう。雲が陽の光を隠そうとも、その上には青空があるから」

 テトラの曲である。彼女にはまだ、テトラへの未練があるようだ。そんな柳の前にあの男たちが現れたのは、まさにそんな時である。

「柳さん……!」

「姉さん! その曲って……」

「こうしてまた会えるなんて、ハートがバーニングするぜ!」

 テトラの三人の登場だ。偶然にも、彼らもちょうどこの場所を訪れていたようだ。柳はギターを降ろし、先ずは彼らに向かって深々と頭を下げた。

「あんなことを言ってすまなかった! オレ、もう一度……テメェらと音楽がやりてぇ! どうか、オレを許してくれ!」

 それが彼女の第一声だった。無論、三人はそんな彼女を心から歓迎した。そればかりか、キーボードの青龍(せいりゅう)は、当時の柳の思惑を完全に察していた。

「謝ることが違います。俺たちが謝ってほしいことは、柳さんが世界規模の重荷をたった一人で抱え込んできたことです。音楽のせいで死にたくないだとか、世界は敵に回せないだとか、俺たちはそんな生半可な気持ちで音楽をやってきたわけじゃないんです!」

「青龍……ごめんな……」

「メサイアが破壊された今ならわかります。柳さんは俺たちを守るために、わざと俺たちを突き放したんだって。だけど、俺たちには音楽という武器があるんです。俺たちだって、戦えるんです!」

 それが青龍の主張だ。この日、柳の復帰により、テトラは再び音楽の世界に返り咲いた。



 その日の夕方、守は弟の眠る墓地を訪ねていた。彼は墓前で両目を瞑り、手を合わせる。彼の背後から声がしたのは、まさにそんな時である。


「本当に世界を取り戻すなんて、やっぱり兄さんはぼくの自慢の兄さんだよ」


 守は耳を疑った。それは紛れもなく、彼にとって聞き覚えのある声だった。

「翔琉……?」

 彼はすぐに目を見開き、後方へと目を向けた。当然、死んだはずの弟が生き返っているはずはない。彼の背後を通り抜けるものは、一吹の風だけだ。守は爽やかな微笑みを零した。

「僕たちならきっと、戦争だって終わらせられるよね……翔琉」

 その問いに答える者はここにはいない。それでも守は、翔琉が首を縦に振ることを信じている。



 忍者たちは今日も戦い続ける。戦争が終わる――――その日まで。

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