準備
世界中のあらゆる忍者が、守たちの追手だ。よって、五人はそう簡単に表を歩ける状態ではない。
そこで守は考えた。
「そう言えば、夢玄さんはあくまでも、善意であんなことをしてきたわけですよね? あの人とて、市民を犬死にさせるような真似はしたくないんじゃないですか?」
その推測が正しければ、彼らが無数の忍者の相手をする必要は避けられるかも知れない。柳は守の思惑を察した。
「お前の言いたいことがわかったぜ、守。要はオレたちとアイツだけで戦える舞台を作るために、アイツと交渉すれば良いんだろ?」
「そういうことです。どうか、それを僕にやらせてはもらえませんか?」
「ああ、任せるぜ。頼んだぞ……守!」
全ては五人のうちの最年少――白峰守に託された。
彼はすぐに携帯端末を取り出し、夢玄に連絡を入れる。
『お電話ありがとうございます……霊峰夢玄です。ご用件を伺ってもよろしいでしょうか』
「夢玄さん……どうか世界中の忍者に、僕たちに手出しをしないよう指示を下してはいただけませんか? 僕たちは余計な命を奪いたくないですし、あなたも余計な犠牲を出したくはないはずです」
『……確かにそうですね。もはやこの世界において、貴方がたに敵う者は私をおいて他にいないでしょう。良いでしょう……貴方がたは、この私が直々に始末することにします。では、また何かあればご連絡ください』
「はい、わかりました。」
――――交渉はあっさり成立した。守は通話を切り、ポケットに携帯端末を仕舞った。
柳は彼を褒め称えた。
「やっぱり、お前はスゲェよ……守」
「え……ただ電話で話をしただけですよ?」
「……オレたちには、あの男を許すことが出来ねぇ。だからオレたちには、あの男の善性を信じることが出来ねぇんだ。だけどな、守……お前は人一倍優しくて、人の善性を心から信じられるような男だ。お前のそういう強さが、たった今、罪のねぇ命を守ったんだよ」
その言葉が本心から紡がれたものであることは、彼女の真剣な眼差しが物語っている。
「……ありがとうございます、柳さん!」
守は満面の笑みを見せた。
同じ頃、夢玄は風林火山の本社にある放送室へと赴いた。彼は放送機器の設定をいじり、世界中に充てた連絡を発信する。
「Attention, please. The rebels, led by Amane Mikogami, will be dealt with by me, Mukuro Reihou, in person. Please do not intervene in this battle. お知らせします。御子神天音を筆頭とした反乱軍は、この私――霊峰夢玄が直々に始末します。この戦いには介入しないでください」
この放送は十回ほど繰り返された。彼の用いた言語は英語と日本語だけだが、不特定多数の翻訳家により様々な言語に訳された。
こうして決戦の舞台は整えられた。
その日の夜、守たちは夢玄のいる社屋の前に現れ、変身した。天音は愛海の方へと目を遣り、彼女に忠告する。
「……良いかい、愛海ちゃん。ボクたちは自分の命を守るだけでも精一杯だし、何があってもキミを守るなんて約束は出来ない。引き返すなら今のうちだ。ここでキミが逃げても、それを咎められる者はどこにもいないよ」
「ここまで来て、逃げるわけないッスよ! そりゃ、命は惜しいッスけど、ここで逃げたら一生後悔することになるッス! アタシだって、天音様にカッコイイところを見せるッスよ!」
愛海はもうただの拝金主義者ではない。世界を敵に回し、守たちと運命共同体となった今、彼女はいまだかつてない正義感を燃やしている。そんな彼女に対し、天音は言う。
「良い目をしているね。キミの覚悟は本物だということが、よくわかったよ」
これで五人は準備万端だ。反乱軍の名を冠した彼らは、今まさに臨戦態勢にある。
そんな彼らの前に、銀髪の男が姿を現す。
「お待ちしておりましたよ……反乱軍の皆さん」
霊峰夢玄のお出ましだ。彼はすでに狩衣に身を包んでおり、左手にバリアブルを構えている。どうやら、彼も決戦の準備を整えてきたようだ。
守は最前線に立ち、宣戦布告をする。
「僕たちはずっと、かけがえのないものを守るために戦ってきました。だからこそ、数多の命をもてあそび、数多の心を踏みにじってきたあなたには! 従来の世界を見限り、そこにあったものを何一つ守ろうとしなかったあなたには! 絶対に負けません!」
その言葉に迷いはない。決して臆することなく、彼は曇りなき眼でこの星の支配者を睨みつけていた。




