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秘策

 翌朝、(まもる)竜牙(りゅうが)が部屋を出ると、そこにはテーブルと人数分の椅子が用意されていた。テーブルの上には、卓上コンロで加熱されたフグ鍋、様々な具材を用いた天ぷら、山菜、鯛の活け造り、白米、蟹汁、メロンなどが並べられている。女性陣はすでに席に着き、二人を待っていたようだ。


 天音は彼らに一本の巻物を見せつけ、得意げな顔をする。

「おはよう……二人とも。ちょうど良いところに来てくれたね。これはインスタントバンケット……食卓を生み出す巻物だ。しばらくはこの空間から出られないだろうから、さっき急ぎで作ってきたんだ」

 巻物の使い道は多種多様だ。戦闘に用いるものだけが巻物ではないらしい。

「天音様は何でも作れて凄いッス! 皆揃ったし、そろそろ朝食にするッスよ!」

 ご馳走を前にして、愛海(あみ)は目を輝かせている。彼女だけではなく、残る三人も眼前の料理を食い入るように見つめている。


 この場を取り仕切るのは天音だ。

「それじゃ、いただきます」

 朝食の音頭を取る彼女に続き、守たちも一斉に食前の挨拶をする。

「いただきます」

 彼らは腹を空かせていたのか、挨拶を終えるや否や目の前の料理に食らいついた。その様を苦笑いで見つめつつ、天音一人だけは上品な佇まいで食事を食べ進める。

(……まあ、元気があるのは良いことだね)

 そんなことを思いつつ、彼女は黙々と鯛の活け造りを咀嚼していた。


 あれから数十分が経ち、五人は食事を終えた。天音はインスタントバンケットを解除し、食卓を一瞬にして片付ける。それからハンカチで自分の口の周りを拭き、彼女は話を切り出した。

「今のままでは、ボクたちは夢玄(むくろ)には勝てない。しかしどんなに強い巻物を用意しようと、彼にもその力が使えてしまうのであれば意味はない。そこでキミたちには、各自、忍者レベルを鍛えてもらうよ」

 彼女は一度、夢玄に敗北を喫している。それ以外の四人も、メサイアの破壊を試みた際に、あの男の強さの片鱗を目の当たりにしている。


 柳は訊ねた。

「最強の巻物を五本作れば勝てるんじゃねぇか? 同じ巻物の力を使っていても、向こうは一人でこっちは五人だろ?」

 しかし現実問題、夢玄の攻略はそんな簡単なものではない。

「それが出来れば一番なんだけどね。柳ちゃんも知っての通り、巻物には、使用者との相性が良くないと忍術を発動できないという難点がある。ボクたち全員に使えて、なおかつ最強の力を持つ巻物というものは……到底実現し得ないものだよ」

 思えば、竜牙は巻物を使えず、守もオートパイロットを使いこなせるようになるまで時間をかけていた。天音が普段愛用しているブランクも、守たちが使った際には四人がかりでようやく一つのスクリプトを実行できたくらいだ。巻物と使用者の相性という問題は、忍者たちの永遠の課題であると言っても良い。


 柳は質問を続ける。

「確かにそうだな。だけどよぉ……果たして忍者レベルを鍛えるだけで、本当にアイツに勝てるのか?」

「それだけじゃ無理だね。だけど、策なら考えてある。バリアブルには、一つだけ弱点があるんだ。巻物の力しか使えないこと……それがバリアブルの弱点だ」

「まさか……巻物に代わる新たな武器でも用意するって言うんじゃねぇだろうな?」

 メサイアが打ち上げられるまでの間、巻物の技術をめぐり、世界中が争っていた。その事実は、巻物が最強の武器であることを裏付けている。


 流石の天音にも、それ単体で巻物を超えた力を持つ武器を作ることは出来ない。しかし彼女には考えがある。

「……ちょっと違うね。ボクはこれから、巻物の拡張パックを作るんだ。これならバリアブルに力を与えてしまう心配はないし、なおかつボクたちの忍術も強化されるってわけだ。これで勝ち筋が見えてきたね」

 バリアブルのクラウドストレージをパンクさせることは敵わなかった。メサイアを破壊することも敵わなかった。それでも彼女はめげず、今度は巻物の拡張パックを作ろうとしている。


 守たちは、そんな彼女を信じることにした。

「拡張パックが出来るのを楽しみにしていますよ……天音さん!」

「頼んだぜ、天音。オレの愛した音楽を汚したアイツを、オレは絶対に許さねぇ!」

「天音様が作る拡張パック……なんだか凄そうッスね! もうすでに負ける気がしないッス!」

「俺には専門的なことはわからないが、貴様は俺の認めた忍者だ。俺は貴様を信じるぞ……天音」

 その場にいる全員が、天音に期待を寄せている。彼らは皆、彼女を心から信じている。そんな彼らに微笑みを向け、天音は言う。

「……ボクも信じるよ。キミたちのことを」

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