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同業者

 翌日の昼、とある路地裏にて、(やなぎ)(まもる)の特訓に付き合っていた。彼女がミットを持ち、守はそこに打撃や蹴りを入れていく。彼は息が上がりかけているが、柳は決して容赦しない。

「まだまだ! 死ぬ気で特訓し続けろ! 昨晩のよりもっと強ぇアヤカシなんざごまんといるんだぞ!」

「押忍!」

 守は真剣な眼差しで特訓に臨む。しかし度重なる疲労により、彼の拳と蹴りの威力は徐々に弱まっていく。柳は呆れ果てた様子でため息をつき、特訓を切り上げた。

「やめだやめだ。まったく……このままじゃ先が思いやられるぞ」

「はい……すみません……」

「……だけどまあ、素質は感じられる」

 ただ厳しいだけではない。彼女は相手を褒めることも欠かさない。守は肩で息をしつつも、喜びに満ちた微笑みを浮かべていた。



 守はその日の晩もアヤカシ退治に出かけた。この日もたくさんのアヤカシが街に蔓延っており、忍者たちは大忙しである。相変わらず巻物を使うことのできない守は、いつものように体術を駆使していく。一体、また一体と、敵は湯水のように湧いて出る。そこで彼は考えた。

「そうだ……爆発寸前のアヤカシを、別のアヤカシの方へと蹴り飛ばせば……!」

 さっそく、彼は目の前の一体に飛び蹴りをお見舞いした。その一体は他の三体のすぐ近くまで飛ばされ、その場で爆発する。この爆発により、一度に合計四体のアヤカシが撃破された。

「よし!」

 今回の仕事も、今のところは順調である。そこに思わぬ邪魔が入ったのは、まさにその直後のことであった。


(殺気……!)


 守は不意に背後へと振り向き、視線の先にクナイを突き立てる。その切っ先は、前方から飛来してきた手裏剣を間一髪で弾いた。彼の目の前に立っていたのは、青い髪の少女であった。彼女は灰色の羽織に身を包んでおり、頭には笠を被っている。それが古風な和装であることから、この少女が忍者であることがうかがえる。

「アンタが新入りッスね? この辺りはアタシの縄張りッス。勝手にアヤカシを駆逐されたら困るッス!」

 彼女はそう言ったが、守は決して引き下がろうとはしなかった。

「アヤカシを野放しにしたら、多くの犠牲が出るんですよ! 指を咥えて見ているわけにはいきません!」

「そッスか……聞き分けがない新入りは、殺すしかないッスね……」

 少女は小刀を取り出し、間合いを一気に詰めてきた。

「……!」

 守はクナイを取り出し、受け身を取った。クナイと小刀が激しくぶつかり合い、周囲に金属同士の衝突音を響かせていく。一見、形勢は互角に見えるが、実はそうではない。

「そろそろ……忍術の出番ッスね」

 少女がそう言うや否や、守のクナイは小刀を打ち付けられたような衝撃を受けた。しかし彼女の小刀がクナイに触れている様子はない。

「え……?」

 彼が唖然とする暇もなく、二度目の衝撃が発生した。これにより、守の右手の軌道が逸らされる。少女はその一瞬を見逃さず、彼の脇腹に斬りかかった。守が受けた斬撃はこの一度だけのはずだったが、脇腹の切り傷はこの後も開かれていく。


 少女は数を数え始めた。

「いーち……」

 先ずは一発、守の脇腹に新たな切り傷が生まれる。

「にーい……」

 二発目の傷だ。守は傷口を押さえ、次の攻撃に備えている。

「さーん……っと!」

 守の脇腹に、三発目の切り傷が刻まれる。彼は状況を飲み込めず、ただただ狼狽している。それを目の前にしてもなお、少女は再び小刀を振り回し始める。守は必死に後ずさりをし、この場から逃げ出そうとする。しかし、その判断は裏目に出ることとなる。


 少女はあくどい笑みを浮かべた。

「さっきのアヤカシの爆発、この辺ッスよね?」

 守が逃げた先の空間は、突如爆発を起こした。そこから彼が抜け出す暇もなく、二発目と三発目の爆発も発生する。その威力に耐えかねた守は変身が解けてしまい、その場で力なく倒れてしまった。そんな彼の方へとにじり寄りつつ、少女は言う。

「忍者が増えすぎると困るッス。アンタに恨みはないけど、ここで死んでもらうッス!」

 絶体絶命だ。守は震える両腕に精一杯の力を込めるが、一向に上体を持ち上げることが出来ずにいる。

(嫌だ! 死にたくない! 柳さん……助けて……)

 彼の脳裏に浮かぶは、つい先日に結託したばかりの先輩の姿だ。命の危険を前に怖気づく彼を見下ろしつつ、少女は勢いよく小刀を振り上げた。

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