毒牙
天音はネオペストを片手に、とある立ち入り禁止区域へと向かった。入り口の看板には、「アヤカシウィルス蔓延中! 立ち入り禁止!」と書かれている。彼女はその場でネオペストを掲げ、区域内に無数のアヤカシを生み出した。彼女はブランクの力により、獲物を次から次へと仕留めていく。目まぐるしい速さで構文が書かれ、様々な効果が発揮される様は、傍から見て何が起きているのかわかるものではない。ただ辺りを包み込む砂煙の中に一つの人影があり、その周囲で数多の爆発が起きているだけだ。あれから何体のアヤカシを倒したか――それは天音本人にもわからない。彼女が巻物を広げると、そこには「99999999」と書かれている。少なくとも、彼女はそのスコアに至るまではアヤカシを倒し続けていたということになる。
それでも天音は満たされない。
震える指先で携帯電話を操作し、彼女は守たちにメッセージを送信する。
『緊急事態につき、立ち入り禁止区域に全員集合』
もはや天音が完全に理性を失うのも時間の問題だ。そこで彼女が四人に召集をかけたのには、ある理由がある。
「もはや……この手しかない……」
彼女には何らかの思惑があった。
*
数分後、守は立ち入り禁止区域へと向かう道中にて、一人の忍者と出くわした。その忍者は華奢な体つきで、吊り上がった目をした女だった。その装束には鱗の模様が施されている。
「ワタクシはヴァイパー。祖国のために戦う愛国者。ワタクシの巻物『ヴェノムスピアー』の実験も兼ねて、アナタには即刻死んでもらいますネ」
彼女の舌の先は二つに割れており、その口はやや大きい。その容姿はまるで蛇のようだ。ヴァイパーと名乗る女が巻物を掲げるや否や、その周囲には何本もの槍が作り出される。槍は忍者力を帯びて発光し、一斉に守の方へと発射される。
「槍……⁉」
守はオートパイロットを発動し、槍を次々とかわしていく。これまで様々な攻撃を避け続けたこの忍術を前にすれば、ヴァイパーの攻撃など容易く回避できるだろう。
「おやおや。全部避けられてしまっては実験になりませんネ。ならば、こうするしかありませんネ」
ヴァイパーは再び巻物を使い、今度は守の周囲に槍の鉄格子を作り出した。槍は天井にも張り巡らされており、彼はここから脱出することが出来ない。続いて、彼女は檻の内壁からも槍を生やし、その切っ先を彼の体へと近づけていった。
「名付けて、ヴェノムスピアー・アイアンメイデン……と言ったところですネ」
「これは……まずいですね……」
絶体絶命だ。彼がいくらオートパイロットの力を使いこなせても、理論上かわすことの出来ない攻撃までは防ぎようがない。
「どうせ刺されるなら……!」
守は全身を槍に刺されつつ、刀を鉄格子に叩きつけていく。そんなことを繰り返していくうちに、彼の呼吸はどんどん荒くなっていく。そればかりか、その刺し傷からは異様な量の血液が流れ出ている。
「ゼェ……ゼェ……なんだか、目まいが……この槍には、毒が仕込まれているのですか⁉」
「ご名答です。ワタクシのヴェノムスピアーは、毒の槍を生み出し、操ることが出来るんですヨ」
「僕には……行かないといけない場所があるというのに!」
刀による猛攻を繰り返した末に、彼はようやく鉄格子を破った。しかし毒の脅威は凄まじく、守は完全に千鳥足になっている。一方で、その眼前に立つヴァイパーはまだ全くの無傷である。
「ワタクシだって、アナタを殺してオートパイロットを手に入れないといけないんですヨ?」
「同じ忍者同士で争う理由が……一体どこにあると言うんですか⁉」
「忍者がアヤカシを倒す時代はもう終わるんですヨ。これからの忍者は、戦争の道具として互いを傷つけ合っていくのです。おわかりですネ?」
彼女は不気味な微笑みを浮かべ、守の方へと詰め寄っていく。彼がこれ以上オートパイロットを使おうものならば、その体にかかる負荷は図り知り得ぬものとなるだろう。
(これ以上、僕は誰も殺したくないのに……殺すか殺されるかの、二択だなんて!)
彼は歯を食い縛り、前方の刺客を睨みつけた。
その時である。
どこからともなく飛来してきた巨大な光弾が、ヴァイパーの身を爆炎に包み込んだ。守がふと横を見ると、そこにはアームマスターを構えた柳の姿があった。彼女は黒い煙の中から、変身の解けた状態で気絶しているヴァイパーを見つけだす。変身していない時のヴァイパーは、白いオフショルダーシャツとデニムパンツを身に着けているようだ。柳は彼女の右手に握られていたヴェノムスピアーを奪い取り、守の方へと目を遣った。
「……巻物さえ奪えば、もう攻撃は仕掛けてこねぇはずだ。立ち入り禁止区域へ急ぐぞ、守!」
「ありがとうございます……柳さん!」
二人はすぐに目的地へと向かった。




