一つの想い
守が源治と戦っていたさなか、残る四人の忍者たちはそれぞれ別の場所でアヤカシを退治していた。
柳は繁華街の路上にて、二本の触手の生えたアヤカシたちと戦っていた。このアヤカシの触手の先端は変形し、様々な武器に変化するようだ。そんな化け物たちに包囲されてもなお、柳の強気な姿勢は変わらない。
「その触手、オレのアームマスターにそっくりだな。だが生まれて間もないテメェに、銃の扱いでオレに勝つことは出来ねぇ」
文字通りの武器使いにとって、武器を用いての戦闘は百戦錬磨だ。彼女は無数の光弾を連射し、アヤカシたちを圧倒していく。全ての光弾は、獲物たちの急所を的確に抉っていく。
「……終わりだ」
轟音とともに爆炎に包まれる路上。立ち込める煙の中に残るは、たった一つの人影。柳はその場にいたアヤカシを殲滅した。
同じ頃、愛海は港に湧いたアヤカシと戦っていた。彼女が五体のアヤカシを防波堤へと誘導するや否や、トリプレイは青く発光する。
「何発もの波の衝撃を一斉に再現すれば、この通りッス!」
トリプレイの発動により、五体は三発の凄まじい衝撃を叩きこまれた。無論、防波堤が波の衝撃を受ける頻度は計り知れないものだ。調子に乗った愛海は更に多くのアヤカシを防波堤へと追い込み、彼らに何発もの衝撃を加えていった。防波堤は崩れ、大きな衝撃によって生まれた波は愛海を容赦なく呑みこんでいった。
「天音様―っ! 助けて欲しいッス!」
確かに愛海の忍術は便利だ。ただし彼女は調子に乗りすぎである。
一方、天音は例の公園にて、己の右手の手のひらを見つめていた。彼女の四肢は相変わらず小刻みに痙攣しているようだ。
「このままじゃ……まずい……」
彼女の戦闘中毒は着実に進行している。そんな状況下においても、アヤカシは決して容赦などしない。天音を包囲するおびただしい数のアヤカシ。その一体一体は身長三メートルにも達しており、それが束になっている状況は極めて絶望的であると言える。しかし天音は四人の中でも飛びぬけて優秀な忍者だ。彼女はすぐにブランクを広げ、そこにスクリプトを書き込んでいく。
「これでよし……っと」
忍術の発動により、彼女を囲う大型のアヤカシは一斉に石像と化す。数秒の静寂が生まれ、その直後に化け物たちは勢いよく爆ぜる。爆炎と煙をまとう岩石は、爆風によって四方八方に飛散する。今回の戦闘も、天音にとっては余裕に満ちたものであった。彼女の懸念事項はただ一つ――――
「まだ……戦いたい……強い敵が……欲しい……」
――――戦闘中毒の症状が悪化してきていることである。
とある大通りでは、竜牙が一体のアヤカシと戦っていた。それはたった一体の化け物だが、ただの化け物ではない。その身長は十メートル近くにも及び、その体からは数えきれないほどの触手が伸びている。
「久々に、この獅子食竜牙を楽しませてくれそうな大物が現れたようだな!」
竜牙は変身し、高く跳躍した。彼は眼前の化け物の体を駆け上がりつつ、襲い来る触手を殴打していく。そして彼はアヤカシの頭頂まで登り詰め、己の右脚の先を頭上まで持ち上げた。化け物の頭頂に、強烈なかかと落としが叩きこまれる。その威力に耐えかね、化け物は激しく暴れ回る。竜牙は振り落とされないよう、化け物の頭髪にしがみつく。彼はそれからも化け物の頭部に攻撃を続け、半ば興奮した様子で笑い声を上げる。
「ガハハハハ! 強い! 貴様は強い! 実に、この俺の相手をするに相応しいアヤカシだ! 殺すのが惜しい程に! エクスタシーを感じるぞ……貴様は最高の化け物だッ!」
彼の戦闘中毒の深刻さは相変わらずである。
例え離れた場所にいても、四人の想いは一つだ。
柳は空に向かって叫んだ。
「守! 絶対負けんじゃねぇぞ!」
彼女の声は辺り一帯に響き渡った。
愛海は海面から顔を出しつつ、独り言を呟いた。
「守さん……アイツのことは任せたッスよ」
そう彼女が言い終わるのと同時に、その背後にある港では無数のアヤカシが爆発した。
天音は言った。
「キミには期待しているよ……守くん」
依然として手足を震わせたまま、彼女は優しく微笑んだ。
竜牙は拳を振り下ろし、必死に声を張り上げた。
「男を見せろッ……白峰守ッ!」
彼の打撃に仕留められ、巨大なアヤカシはダイナマイトのように炸裂した。




