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プールバーにて

 天音(あまね)の提案により、忍者たちの戦闘中の立ち回りは少しだけ変わった。

「ボクたちは、アヤカシに対する免疫力を鍛えなければならない。よって、これからはあえて、適度にアヤカシに刺されていこう」

 それが彼女の案である。半ば強引な方法ではあるが、他に打つ手が見当たらないのも事実だ。その上、彼女は(まもる)たちに一目置かれている身でもある。彼らは天音の提案に賛同し、アヤカシにわざと刺されるようになっていった。



 あれから約一週間が経過した。ウィルスによる浸食は進み、守の左肘から先はアヤカシと化していた。そんなある日、彼はいつものようにアヤカシと戦っていた。無論、(やなぎ)もその場に居合わせている。場所は街の一角にあるプールバー。人々が逃げ惑う中、忍者としての仕事を務めていく二人。今回のアヤカシたちは人型の体型で、体術を駆使して立ち回る。


 守の目の前に、一体の化け物の蹴りが飛んできた。彼はその強靭な足を掴み、そのまま化け物に背負い投げを食らわせる。化け物は上空へと飛ばされ、ビリヤード台を倒しながら床に叩きつけられる。続いて、守の前方から一体、後方からも一体、合計二体のアヤカシが姿を現す。守はその場で跳躍し、両脚を前後に大きく広げる。それぞれの足のつま先は、前後の標的の鳩尾を容赦なく貫いた。実戦の経験を積むごとに、彼の戦闘能力は着実に上がってきていると言えよう。

「さて……そろそろ……!」

 守は両腕を大きく広げ、更にもう一体のアヤカシの前に立ちはだかった。彼の脇腹に、触手のようなものが突き刺さる。

「くっ……やっぱり、痛いですね……」

 それからすぐに体勢を立て直し、守は右手にクナイを構える。彼は己の腹部に刺さった触手を切り落とし、眼前の敵にジャブを入れる。軽いジャブが繰り返された後、アヤカシの顔面には強烈な右ストレートが叩きこまれる。戦局は守にとって、きわめて有利に展開している。


 彼のすぐ近くでは、柳もアヤカシと戦っていた。アームマスターは縦に一刀両断され、トンファーへと姿を変える。トンファーは少々扱いの難しい武器だが、攻撃にも防御にも役立つ優れものでもある。

「かかってきな……化け物ども!」

 さっそく柳は武器を振り回し、その先端を襲い来るアヤカシたちへと打ち付けていく。彼女は己の武器を上手く使いこなし、四方八方から飛んでくる拳や脚、触手などから彼女自身の身を守っていく。そんな柳の頭上から、一本の大きな触手が迫ってくる。彼女の眼前には、少し図体の大きなアヤカシがいる。

「へっ……甘いな」

 二本のトンファーで受け身を取る柳。当然、彼女の両手はこれで塞がっていることになる。そうなれば、彼女に残されている攻撃手段はただ一つ――――「蹴り」だ。柳は一切の迷いを見せず、眼前のアヤカシの腹を勢いよく蹴り上げた。目の前の標的がよろけるのを確認し、彼女は頭上に迫っていた触手を掴む。その先端を自らの腕に突き刺し、柳は意図的にアヤカシウィルスに感染する。

「よーし……予防接種はこんなもんで充分だな」

 彼女はアームマスターを変形させ、スタンガンを作り出す。アヤカシは体に高圧電流を流され、少しよろけた後に爆発した。この衝撃により、ワインの陳列されていた棚が崩壊する。何本もの酒瓶が床に落ち、音を立てながら粉砕していく。

「おいおい……高そうな酒ばっかじゃねぇか……」

 その光景を前にして、柳は引きつったような苦笑いを浮かべるばかりだ。


 残るアヤカシは約十体だ。アヤカシたちは一斉に一ヶ所へと集まり、そのまま互いと結合し始めた。守たちの目の前に立ちはだかるは、かつてない巨体を誇る超大型のアヤカシだ。二人は度肝を抜かれていた。

「従来のアヤカシには見られない行動ですね……突然変異体でしょうか」

「どうやらそのようだな。気を引き締めてかかれよ」

「はい!」

 守はすぐにオートパイロットを取り出し、全身に忍者力を籠める。彼の全身が緑色の光に包まれるや否や、オートパイロットもそれに呼応するように眩い光を放つ。守はすぐに眼前の大物の方へと飛びつき、華麗な体術を披露し始めた。そこには決して無駄な動きなどない。彼は最小限の動きだけで標的を翻弄し、相手からの全ての攻撃を軽々と回避し続けているのだ。


 その様はまるで、彼が相手のあらゆる動きを先読みしているかのようだった。


 柳は全てを悟った。

「守……ついに自分の意思でオートパイロットを発動したのか!」

 それがまるで自分のことであるかの如く、彼女は心から歓喜した。


 彼女の目の前で、守は半ば一方的にアヤカシを痛めつけていく。右手に忍者力を集中させ、彼はアヤカシの頭部へと飛びつく。緑色の光をまとった拳は、化け物の顔面に容赦なく叩きつけられた。


 アヤカシの体は勢いよく爆ぜ、プールバーは硝煙に包まれた。

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