実験動物
天音は残る二人にも連絡し、地下放水路に五人の忍者を集結させた。このメンバーが揃うということは、何か空蝉源治に関係する事柄で問題が起きたということだ。守のアヤカシ化した左手を前にして、愛海と竜牙はそのことを察していた。
「忍者になったはずの守さんがアヤカシ化するなんて、一体どういうことッスか⁉ 忍者はアヤカシにはならないはずじゃ……」
「柳! 貴様が一番コイツのことを知っているはずだ! 何があったのか説明しろ!」
ひどく錯乱し、柳に迫る二人。そんな彼らに対し、柳は自分の知っている全てを話した。
「アヤカシの突然変異体が現れたんだ。そいつの触手の先には、蛇の頭のようなものがついていた。守はそれに噛まれてアヤカシになった……それ以上のことはオレにもよくわからねぇ」
彼女もまた、この状況に困惑している一人者だ。全ての真相は、源治のみぞ知ると言ったところである。
この場を取り仕切るのは天音だ。五人の中でも、彼女は群を抜いて冷静沈着な性格であると言える。彼女は決して取り乱すことなく、今の状況を整理していく。
「今までの話を整理しよう。一言で表すなら、全ては空蝉源治による兵器開発だ。彼は忍者の有用性を示すためにアヤカシを作りだし、その上で地主からみかじめ料を徴収するなどマッチポンプも行なっている」
改めて見てみると、風林火山の社長は実にたちの悪い男である。守は自分の左手を見つめつつ、怒りの交じった声を漏らす。
「ひどすぎます……許せません」
無論、その気持ちは他の四人にとっても同じだ。この場において、彼に対して好意的な感情を抱く者など一人もいない。天音は話を続けた。
「更に、忍者細胞の遺伝子情報には、戦闘中に脳内麻薬の分泌を促す機能が組み込まれている。意欲的に他者と争い、その力を遺憾なく発揮する忍者たちは、まさに忍者や巻物のモニターにうってつけというわけだ」
「忍者は……僕たちは、社長のモルモットだったわけですね」
「……さぁて、ここからが本題だよ」
状況の整理は終わった。話はいよいよ核心に迫ろうとしていた。
そんな時である。
「ほう……ここが君たちの隠れ家かね?」
五人の集まる地下放水路に、源治が姿を現した。
柳は激昂し、振り向きざまに彼の胸倉を掴む。
「どうやってここを嗅ぎつけた⁉ どのツラ下げて来やがった! どうして守の左手がアヤカシになってんだ⁉」
「落ち着きたまえ、柳くん。心配せずとも、全て説明するつもりだ。私はそのためにここに来たのだよ」
「そうか。洗いざらい全部吐いたら、とっとと消え失せな」
彼女は源治を離し、鋭い眼光で彼を睨みつけた。
源治は全てを自白していく。
「私が君たちの居場所を確認できるのは、君たちの体内にマイクロチップが埋め込まれているからだ! 貴重な商品を紛失するわけにはいかないからなァ! 君たちは忍者になった時点で、私の管理下を逃れることは出来ないのだよ!」
「テメェ! オレたちのプライバシーをなんだと思ってやがるんだ!」
「それも私への質問かね? あいにくだが、私は実験動物のプライバシーを考えるほど愚かではない! 君たちは私のために生き、私のために死んでいくのだ! フハハハハハハ!」
ひどい言い草だ。彼の傲慢さに、柳の堪忍袋の緒が切れる。
「空蝉源治! テメェの命はここまでだ!」
ついに我慢の限界を迎えた彼女は、咄嗟に変身した。彼女はアームマスターを刀に変形させ、源治に斬りかかろうとする。
「血の気が多いぞ」
源治は不敵な笑みを浮かべつつ変身した。彼の忍術により、柳の動きはあと一歩というところで止められてしまう。怒りに震える柳。彼女に続き、守たちも屈辱を噛みしめる。そんな彼らを嘲笑い、源治は更なる真実を突きつける。
「私はあえて、忍者の持つ免疫力を不完全なものにした! アヤカシは突然変異を繰り返し、ウィルスの効果も従来の抗体では対処できないものとなる!」
「それじゃ……オレたちは……」
「心配は要らんよ。忍者の免疫力は、忍者レベルを高めることによって強化できる! 引き続き、君たちには我が社の商品のモニターとして、日々戦い続けてもらうというわけだ!」
「何から何まで……テメェの思い通りかよ……」
「ハハハハハ! その通りだよ、柳くん! 私の唯一の失点は君たちに本性を知られたことだが、それ以外のことは全て計算通りだ! 私の掌で踊り続けるが良い! 哀れな傀儡どもがァ!」
悪巧みが上手くいったことで、彼はすっかり上機嫌だ。彼の笑い声は地下放水路にこだまし、守たちは憎しみをより一層募らせていく。
「フハハハハハハ! ハハハハハハハ! この私を、止められると良いなァ……」
源治は変身を解き、その場を後にした。




