表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/82

橋の上で

 それはある晩のことであった。例の如くアヤカシが出現し、二人の忍者が駆り出された。一人は愛海(あみ)、もう一人は天音(あまね)である。二人は源治からの出動命令を受け、高速道路を結ぶ大きな橋へと赴いた。そこでは、おびただしい数のアヤカシが彼女たちを待ち受けている。

「勢いあまって橋を壊したりなんかしたら、大変なことになるッスね……」

「その点についての心配は要らないよ。橋の一本や二本くらい、ボクの忍術があれば容易に修復できるからね」

「流石、天音様ッス! 頼もしいッス!」

 どうやら遠慮は要らないらしい。愛海はすぐに変身し、忍術を発動した。アヤカシの群れは何発もの衝撃を叩きこまれ、次々と爆裂していく。この衝撃により、橋は勢いよく崩れ落ちていく。愛海は天音の方へと振り返り、得意満面となっていた。

「ここは高速道路の一部ッス! 時速百キロメートル近くの速さで走る無数の自動車の生む衝撃を、それぞれ三回ずつ再利用すれば、この通りッスよ!」

「凄いね、愛海ちゃん」

「天音様にお褒めいただくなんて、光栄ッス!」

 憧れの人から褒め言葉を貰い、愛海は上機嫌だ。しかしこの場にはまだ、何体ものアヤカシが残っている。

「次はアヤカシの爆発を再利用するッス! アタシが囮になるッスよ!」

「まあ待ちなよ。せっかくボクも来ているんだから、もっとボクのことを頼ってくれても良いんだよ?」

 次は天音が忍術を発揮する番だ。彼女は忍者に変身し、いつも通りの速筆でブランクにスクリプトを書き込んだ。彼女の忍術により生み出された十数本もの糸が、四方八方へと伸びていく。そして糸は次々とアヤカシを捕らえ、それらを一ヶ所に束ねた。哀れな獲物たちは、天音の頭上に吊るされている。

「さぁて、さっさとカタをつけちゃうよ」

 彼女は再びブランクを開き、次の構文を書き込もうとした。


 その時である。

「獲物は貰ったァ!」

 突如、その場に一人の大男が飛び込み、一ヶ所に束ねられたアヤカシたちに強烈な右ストレートをお見舞いした。アヤカシは一斉に爆発し、男はその爆炎の中からゆっくりと姿を現す。


 獅子食竜牙(ししばみりゅうが)の登場だ。彼は変身しておらず、普段着の姿のままである。

「またしても一撃で仕留めてしまったか……つまらんな」

 彼は依然として戦闘中毒を克服できていないようだ。何はともあれ、これで橋の上にいたアヤカシは全て片付いた。


 天音は言った。

「次は、橋の下の獲物を仕留めないとね」

 直後、海面からは何本もの触手が伸び、その先端は彼女を取り囲んだ。愛海は触手を路上に誘導し、先ほどのアヤカシの爆発による衝撃を再度発生させる。竜牙はもう一方の触手に狙いを定め、強力なドロップキックを食らわせる。しかし本体であるアヤカシを倒さない限り、触手は何度でも再生を繰り返していく。

「これじゃいくら戦ってもキリがないッス!」

「ほう……この獅子食竜牙を試そうというわけか」

 もはやこのままでは埒が明かないだろう。

「やれやれ……ちゃんと本体を始末しないと意味ないでしょ」

 天音はブランクを広げ、何やら複雑な構文を書き込み始めた。海面からは三体の大型のアヤカシが引き上げられ、そのまま上空へと浮遊していく。

「これで全部……かな」

 彼女はもう一度ブランクを開き直し、再び構文を書き換える。残る三体の前に、三本の光の刀が生み出される。刀は意思を有しているような挙動で動き回り、本日の大物を容赦なく切り刻んでいく。

「はい、おしまい」

 三本の光の刀は融け合うように結合し、一本の大きな太刀に姿を変える。その一振りは、三体のアヤカシを一気に斬殺する。


 忍者たちの頭上にて、化け物たちは凄まじい勢いで炸裂した。


 爆炎の中から、煙をまとったペンダントが落ちてきた。天音はそれを掴み取り、おもむろに蓋を開く。ペンダントの中には、若い女性の写真が入れられている。

「ペンダントがまだ綺麗だ。ついこの前まで、あのアヤカシのうちの一体は人間として生き、誰かを愛していたみたいだね」

 そう語った彼女の横顔からは、言い知れぬ哀愁が漂っている。彼女は忍術を使い、崩れた橋を元通りにした。


 これで今回の仕事は終わりだ。天音と愛海は変身を解き、その場を後にした。


 天音の身に異変が起きたのは、その数時間後のことである。手足の震え、額の汗、乱れる呼吸。

(まさか……ボクも戦闘中毒に……)

 予期せぬ事態を前にして、彼女は危機感を覚えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ