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結束

 翌日、風林火山本社の前には五人の忍者が集結した。彼らは決して事前に待ち合わせをしていたわけではない。頼もしい仲間に囲まれる中、(まもる)は屈託のない笑顔を見せた。

「皆さんも来ていたんですね」

 それが彼の第一声だ。やなぎはおもむろに彼の方へと振り向き、強気な笑みをこぼした。

「どうやら、オレたちの想いは一つだったらしいな」

 あの五人が結託すれば百人力だ。二人の後に続き、残る三人も思い思いの言葉を口にしていく。

天音(あまね)様! あんな奴、アタシたちが手を組めば一捻りッスよ!」

「そうだね。社長には……空蝉源治(うつせみげんじ)には、少しばかりお灸を据えないといけないね」

「光栄に思うが良い! この獅子食竜牙(ししばみりゅうが)が、その大いなる力を貴様らに貸してやることを!」

 彼らは皆、やる気に満ち溢れていた。守は四人の顔をなぞるように視線を動かし、そのまま晴天を仰いだ。

「かつてこの街にあった平和を取り戻しましょう! 今こそ、全てに決着をつける時です!」

 彼がそう言い放った直後、四人は深く頷いた。



 あれから約一時間後、彼らの前には源治が姿を現した。五人はすぐに変身し、彼を睨みつけながら身構える。源治は深いため息をつき、彼らに続いて変身する。彼もまた忍者だったようだ。その服装はまさしく、万人が「忍者」と聞いて想像するような装束である。

「社長である私に敵意を向けるとは、少々教育が足りていないらしい」

 源治がそう呟くや否や、五人の忍者は一斉に後方へと吹っ飛んだ。守は何らかの力によって宙に浮き、そのまま地面に勢いよく叩きつけられる。柳は体を空中に固定され、自在に宙を舞う無数のクナイに全身を切り刻まれていく。愛海は四肢をあらぬ方向へと捻じ曲げられ、骨折する。天音は窓ガラスに叩きつけられ、意思を持ったような挙動で飛び回るガラスの破片に体を傷つけられていく。竜牙は全身に力を入れ、正体不明の力に抗っていく。一度に五人の忍者を相手にしてもなお、源治の余裕綽々とした態度が崩れることはない。彼は自分の胸元から巻物を取り出し、守たちに忠告をする。

「これが私の武器……念力を扱える巻物の『マジェスティ』だ。君たちが束になっても、この私を倒すことは出来ない」

 彼はそう言ったが、柳は果敢にも反抗的な態度を取る。

「テメェは……テメェだけは! 数多くの人間から未来を奪ってきたテメェを、オレは絶対に許さねぇ!」

 彼女はおびただしい数のクナイに体を傷つけられつつも、アームマスターの先端を源治の方に向ける。アームマスターは機関銃に変形し、大量の光弾を連射していく。しかし、その軌道はマジェスティにより捻じ曲げられ、あらぬ方向へと逸らされる。それでも一心不乱に光弾を放ち続ける柳を前に、源治は話を続ける。

「君たちにはまだ、『被験者』として忍者の利用価値を証明してもらわねばならん。私を倒すべく、是非とも忍者レベルを鍛えておくと良い」

 もはや彼に本性を隠す意思はない。守たちに敵意を向けられることで、源治は自分の本性が彼らに知られていることを悟ったのだろう。彼は念力を使い、五人を一ヶ所に集めた。続いて、彼は二本目の巻物を取り出し、その場に十体のアヤカシを生み出す。

「アヤカシを……作り出した……⁉」

 守が驚いたのも束の間、十体のアヤカシは空高いところまで浮遊する。


 そしてアヤカシたちは一斉に地面に叩きつけられ、大爆発を起こした。


 その後、爆炎の中から這い出てきたのは、変身の解けた忍者たちだった。彼らが息を荒げる中、源治は二本目の巻物についての説明を始める。

「これが私の第二の巻物――ネオペストだ。これはアヤカシを生み出すための巻物だが……あえて簡単に死ぬ虚弱なアヤカシを作ることにより、実質的に爆弾を作る巻物としても機能する」

 規格外の強さである。マジェスティとネオペスト――二本の巻物の織り成す猛攻撃は、今の守たちに突破できるような代物ではない。


 源治は天音に訊ねた。

「ところで天音くん……私が自らの手の内を明かした意味がわかるかね?」

「ボクたちがこれ以上謀反を起こさないための警告……と言ったところかな?」

 それが天音の予想である。源治は彼女に拍手を送り、とんでもないことを言い放つ。

「ご名答。もし君たちが私の素性を世間に公表しようものなら、私は市民を欺けなくなる。そうなった場合、私は欺瞞ではなく、『恐怖』によって市民を支配するしかなくなるのだよ。それが君たちの望みなのかね?」

 これは紛れもない脅迫だ。彼は変身を解き、いつもの黒いスーツと中折れ帽に身を包んだ。柳は源治を睨みつけ、満身創痍の上体をゆっくりと持ち上げる。そして震える両足で立ち上がり、彼女は負けん気に溢れた言葉を口走った。

「オレたちの望みはただ一つ……法に代わってテメェを裁くことだ!」

 見上げた精神力である。そんな彼女の熱意に反し、源治は冷ややかな目をしている。彼は柳をあざけるような笑みを浮かべ、その場を後にした。

挿絵(By みてみん)

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