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侵入

 そして現在――――地下放水路には五人の忍者が集結している。


 (やなぎ)は話を締めくくった。

「あれから戦闘中毒を克服するまでに、一年半はかかったぜ。オレはサンドバッグをブン殴ることで闘争心を発散し、リハビリに励んできた」

 あれ以来、彼女は戦闘中毒を脱するための努力を怠らなかったようだ。一通り己の生い立ちを語った彼女の目の前では、(まもる)が大粒の涙を流していた。

「柳さん……そんな過去があったんですね。自分の相棒を失って、夢を抱くことも諦めて……よく一人で頑張ってきましたね……」

 この場で泣き崩れているのは彼一人だ。柳を含め、四人の忍者は苦笑いを浮かべるばかりである。


 話の本題はここからだ。天音(あまね)はその場を取り仕切る。

「柳ちゃんの話……少し引っかかるところがあるね。社長は柳ちゃんを勧誘する時、どういうわけか柳ちゃんがお金に困っていることを知っていた。この時点で、何か変だとは思わないかい?」

 彼女の投げかけた疑問に、守たちは言葉を失った。社長が具体的に何を目論んでいるのかは定かではないが、彼がきな臭い男であることは間違いないだろう。特に柳は目に見えて動揺していた。

「オレの運命は……社長にもてあそばれていたのか……?」

 彼女は半ば放心状態に陥っていた。忍者たちが社長への猜疑心を募らせていく中、天音は愛海(あみ)に頼み事をする。

「そこで愛海ちゃんに頼みたいことがあるんだ」

「アタシにッスか? 一体、何をすれば良いんスか⁉」

「社長室に忍び込み、シャーペンの芯やクリップなどを盗むんだ。そうすれば、それらが浴びた空気の振動――すなわち『音』を再現できるでしょ? これで、あの社長がボクたちの見ていないところで、どんな話をしているのかがわかるはずだよ」

 流石はトリプレイを開発した張本人だ。彼女は愛海の巻物の活かし方をよく理解している。

「任せるッス! 必ず有力な情報を見つけてくるッス!」

「明日また、この時間に集合しよう。監視カメラに関しては、ボクがブランクの力で映像を改ざんしておくから気にしなくて大丈夫だよ」

「了解ッス!」

 愛海は天音に満面の笑みを見せ、すぐに地下放水路を後にした。これより、彼女は極めて重要な任務に就く。



 あれから約一時間後、愛海は風林火山の社屋に到着した。彼女はすぐに社員証をかざし、社屋に立ち入る。正面口を潜り抜けた後は、社長室へと向かうだけだ。

(この時間帯であれば……社長は留守のはずッス!)

 潜入を試みるなら今のうちだ。当然、社長室の扉には鍵がかけられている。その扉を解錠するカードキーを所有しているのは、風林火山の社長だけだ。愛海はエレベーターに乗り、社屋の最上階へと赴く。次に彼女は社長室の扉の前に立ち、不敵な笑みを浮かべる。彼女には何か考えがあるようだ。

(カードキーなんかなくても、鍵が解除される時の衝撃を再現すれば良いだけッスね! 扉を施錠する機構がどんなに精密でも、全く同じ衝撃を繰り返せば正しい動作をするはずッス!)

 相変わらず便利な忍術である。さっそく愛海は変身し、忍者の装束に身を包んだ。次に彼女はトリプレイを発動し、扉にかけられていたロックを解除する。

「ヘヘヘ……ちょろいもんッスね」

 侵入成功だ。ここまでは極めて順調である。彼女はエグゼクティブデスクの周りを調べ、おもむろに引き出しを開く。中には筆記用具やクリップ、ホッチキスの芯などの小さな備品が収納されている。社長には意外にも几帳面な一面があるらしく、デスクの中は綺麗に整理されていた。

「とりあえず、こんなところで良さそうッスね」

 愛海は引き出しからクリップを三個取り出し、それを懐に仕舞う。後はこれを持ち帰るだけだ。こうして彼女は風林火山の社屋を去り、難なく任務を終えた。



 *



 翌日、忍者たちは再び地下放水路に集合した。愛海はこの場に「秘密兵器」を持ってきている。彼女の持ち寄ったものは、何の変哲もないただのクリップだ。しかしトリプレイの力を前にすれば、そのクリップは社長の裏の顔を知るための重要な手がかりとなる代物である。


 緊迫した空気が流れる中、愛海は言う。

「それじゃ、再生していくッスよ!」

 天音は小さく頷いた。竜牙(りゅうが)が片膝を立ててしゃがんでいる傍ら、守と柳は生唾を呑んだ。愛海は三つのクリップを地面に置き、忍者に変身する。そして彼女はトリプレイを掲げ、忍術を発動した。

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