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自動操縦

 先ほどまで静まり返っていた街は一変し、轟音が響き渡る。アームマスターからは無数の光弾が連射され、辺りは爆炎と煙に包まれていく。全身に銃撃を浴びつつ、竜牙(りゅうが)は笑う。

「良い攻撃だ……だが前に撃っていたビームはどうした⁉ この獅子食竜牙(ししばみりゅうが)を打ち破ってみろ!」

 彼がそう叫ぶや否や、柳は一度攻撃の手を止めた。竜牙の視界が晴れたのも束の間、彼の顔面に飛び込んできたものは(まもる)の忍者力を帯びた両足だ。強烈な飛び蹴りにより、小さな爆発が発生する。

「ほう……貴様も忍術を使わぬのか。面白い……」

 爆炎に頭部を焼かれてもなお、この男はまるで怯む素振りを見せはしない。彼はそのまま宙返りし、守の顎にサマーソルトキックをお見舞いする。この一撃により、空高く飛ばされる守。竜牙は持ち前の脚力により高く跳躍し、彼の後頭部に手を添える。そして竜牙は、守の顔面に全力の膝蹴りを食らわせる。この一撃により変身の解けた守は気絶し、無造作に落下していく。


 柳は叫んだ。

「守!」

 彼女はすぐに駆け出し、彼を受け止めようと試みた。


 守は地面に追突しかける瞬間に忍者に変身し、華麗な三点着地を披露した。


 そして彼は目を閉じたまま、何かが乗り移ったかのような挙動を見せ始める。その華麗な体術に、無駄な動きなど一切ない。彼は俊敏かつ正確な動きで竜牙に攻撃していく。同時に、彼は相手の攻撃の全てを、最小限の動きだけでかわしていく。この豹変ぶりを前にして、竜牙は驚きを隠せずにいる。

「俺の動きが……全て読まれている……⁉」

 どんな猛威を振るう打撃も、蹴りも、当たらなければ意味はない。彼は守の攻撃をかわすことも試みてみるが、その動きすらも完全に読まれている。竜牙は息を荒げつつ、歓喜と興奮の入り交じった演説をする。

「はっきり言おう! 貴様の攻撃……その一発一発は貧弱だ! だが、雨だれ石を穿つとはよく言ったもの! 例え塵のような攻撃でも、続けていけば山のような傷を負わせられる! さあ、貴様の力を見せてみろ!」

 竜牙はすっかりこの状況に陶酔している。一方で、守は無言である。彼は依然として目を閉じたまま、淡々と眼前の強敵に拳や足を突き出していく。


 そんな光景を見つめつつ、柳は少し困惑していた。

「なんだあれは……あんなの、オレの知ってる守じゃねぇぞ!」

 彼女が驚くのも無理はない。守が忍者になって以来、柳はずっと彼と行動を共にしてきたはずだ。そんな彼女が今目にしているものは、己の知らない守の姿だ。彼は今、あの獅子食竜牙と渡り合っている。


 ここで守に好機が到来する。竜牙の体に、妙な変化が現れ始めた。

(なんだ……急に、眠くなってきた……ぞ……)

 今まで強力な脚力を発揮していた両脚は、少しばかりふらつき始めていた。これは守の攻撃によるものではない。平衡感覚の崩れていく彼の背中を見つめ、柳は不敵な笑みを浮かべた。


 竜牙の変身が解けた。彼は気を失うように眠りに落ち、その場に倒れ込む。柳は守の方へと駆け寄り、彼に声をかけた。

「オレが最初にコイツの背中を撃った時に使ったのは、麻酔銃だ。ようやく効果が出たらしいな。さあ、コイツを縛り上げるのを手伝ってくれ」

 流石はベテランの忍者だ。何とも抜かりのない女である。竜牙を眠りに落としたのは、他ならぬ彼女であった。


 しかし守は彼女に従わず、竜牙への攻撃を続行する。相手はもう己の身を守ることも出来なければ、変身も解けている状態である。

「お、おい……何やってんだ守! このままじゃ、コイツ本当に死ぬぞ!」

 柳はすぐに彼を取り押さえようとした。守は彼女を振り払い、竜牙の体の上に飛び乗る。この時、柳は守の服の中で何かが発光していることに気が付いた。光は細長い円柱型を為しており、柳はその形状から全てを察する。

(巻物だ! 巻物が……オートパイロットが守を操っているんだ! そうか……これが、守の忍術なんだ……!)

 これまで、守は自分の意思で忍術を発動することが出来なかった。そして今、彼は意識のない状態で忍術を発動している。緊迫した空気を噛みしめる柳の目の前で、彼はクナイを取り出した。守はクナイを突き立て、それを勢いよく振り下ろそうとする。

「よせ! 守!」

 この状況を見過ごすわけにはいかない。柳はアームマスターの先端から光弾を放ち、守の持っていたクナイを弾き飛ばした。

「馬鹿野郎! テメェの弟は、誰の命も奪わなかったんだぞ! なのに、兄のテメェが人殺しになっちまってどうすんだ!」

 そんな彼女の叫びも、守の耳には届かない。柳はアームマスターをヌンチャクに変形させ、険しい表情で彼を睨みつけた。

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