獅子を食らう竜の牙
翌日、四人の忍者たちは風林火山の社長室に召集された。社長が彼らを集めたのは他でもない。彼らの住む街には今、新たな危機が迫っている。
社長は話を切り出した。
「この街に、獅子食竜牙という男が現れた。この男について、特筆すべきことが一つある。私が彼と初めて会った時、彼はすでに忍者になっていた。この言葉が何を意味するか……君たちにはわかるかね?」
この事実が意味することは至って深刻だ。何も察しのついていない守が首を傾げる傍ら、天音は模範解答とも言うべき推論を述べ始めた。
「獅子食竜牙とやらは、正規の手順を踏まずに忍者になったということですね。考えられる可能性としては、自分の細胞を培養して転売している忍者がいるか、あるいは何者かが社長の技術を盗んだか……と言ったところでしょう」
忍者細胞の技術は風林火山の企業秘密だ。それが何らかの形で外部に流出しようものならば、その強大な力を悪用されることも考えられるだろう。彼女の鋭い洞察力を前にして、社長は度肝を抜かれるばかりだ。
「流石は天音くんだ……理解が早くて助かる。さて、問題はここからだ。竜牙は競争相手を減らすためなのか、ことあるごとに他の忍者の命を狙うのだよ」
「しかし、彼は風林火山の忍者ではないのでしょう? その上で競争相手を減らす必要があるというのなら、それは彼が何らかの組織の末端である可能性を示唆しています」
「なるほど、確かにその通りだ。いずれにせよ、忍者細胞を不正に入手する手段が存在する事実は重く受け止めるべきだな。いかなる巨悪との戦いにも備えろ……今君たちに言えることはそれだけだ」
「承知しました」
天音は深々と頭を下げ、三歩ほど後ろに下がった。彼女に続き、残る三人の忍者も頭を下げる。
四人は社長室を後にし、そのまま解散した。
その後も、守と柳は相変わらず行動を共にしていた。二人はファーストフード店に立ち寄り、ハンバーガーを食べながら話をする。
「柳さんはどう思いますか? やっぱり、何らかの組織が動いていたりするんでしょうか……」
「さあな、それはオレにもわからねぇ。だが愛海の奴がそうであったように、この世界には己の手にした力を私利私欲のために行使する奴が山ほどいる。竜牙って奴も、十中八九その手合いだろうよ」
それが柳の見解だ。守は物憂げな顔つきでうつむき、黙々とフライドポテトを摘まみ始めた。
*
同じ頃、街の一角では一人の巨漢が大通りを歩いていた。彼は以前、ビルの最上階から天音を観察していた男だ。その目の前に立ちはだかるものは、五体のアヤカシだ。
「……この獅子食竜牙、貴様ら程度を倒すのに変身など不要!」
彼は変身などしていない。彼は灰色のシンプルなズボンを履いており、深緑色のタンクトップの表面には強靭な筋肉が浮かび上がっている。これは極めてカジュアルな服装であると言えるだろう。男は変身しないまま、その力強い拳で一体のアヤカシを殴り飛ばす。その一体は他の四体を巻き込みながら後方に倒れ、そのまま激しく爆発する。彼は生身の肉体のまま、一体のアヤカシを一撃で仕留めたのだ。
残る四体のアヤカシが、一斉に竜牙の方へと駆け寄っていく。竜牙は強気な笑みを浮かべ、その強さを惜しげなく発揮する。
「邪魔だ! 退け!」
自分からもアヤカシの方へと向かいつつ、彼はその通り道に停められている車を次々と蹴り飛ばしていった。そして彼は高く跳躍し、二体目のアヤカシに飛び蹴りを食らわせる。例の如く、二体目も一撃で仕留められ、即座に炸裂する。次は三体目の「獲物」が屠られる番だ。竜牙は両腕で三体目の体にしがみつき、そのままバックドロップをお見舞いする。哀れな獲物は地面に深く突き刺さり、言うまでもなく爆発する。もはや何者にも竜牙を止めることは出来ない。
「どうした! 俺を楽しませることの出来る猛者はいないのか! この獅子食竜牙を満たせる強者は、この世のどこにもいないのか!」
彼は四体目と五体目の後頭部を乱暴に掴み、双方の顔面同士を勢いよく叩きつける。二体の顔面は一瞬にしてトマトのように潰れ、そのまま両者は凄まじい勢いで爆裂する。これでこの場にいるアヤカシは全て撃破されたことになる。
静まり返った大通りの真ん中で、竜牙は嘆いた。
「つまらぬ。実につまらぬぞ。やはりこの獅子食竜牙をもてなせる者は、あの御子神天音しかいないと言うのか? 嗚呼、待ち遠しいぞ……天音。貴様と一戦交える日がな!」
どうやら彼は強敵の存在を望んでいるようだ。竜牙は真っ黒な灰を被った大通りに背を向け、その場から立ち去った。




