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運命の日

 時はそう遠くない未来――――アヤカシと呼ばれる異形の化け物の大量発生により、日本中は混乱の渦に巻き込まれていた。アヤカシは二つの手段で繁殖する。そのうちの一つは産卵だ。人類にとっての脅威となるのは、もう一つの手段である。


 ネオンサインに囲まれた夜の街を駆け回るは、緑色の髪をした二人の少年だ。

「こっちだよ! 翔琉(かける)!」

「待ってよ、兄さん!」

 彼らは兄弟である。兄は名を白峰守(しらみねまもる)、弟は名を白峰翔琉と言う。兄弟共々、極めてよく似た容姿をしているが、弟の翔琉は黒縁の眼鏡をかけている。それが両者の最大の違いであろう。守たちが焦っているのも無理はない。


 たった今、二人は数体ほどのアヤカシに追われているさなかである。


 アヤカシが暴れ回ることにより、いくつかの建物や電柱は倒壊している。翔琉は足元に倒れている瓦礫に足を引っ掛け、その場に勢いよく転んでしまう。そして彼が起き上がろうとしたのも束の間、アヤカシはそのすぐ後ろまで迫っていた。たった一人の弟の方へと振り向き、守は叫んだ。

「翔琉!」

 もはや手遅れだ。アヤカシの体からは針の生えた触手が伸び、その先端は翔琉の背中に突き刺さった。


 彼の体は流体のようにうごめき、一体のアヤカシに変化した。守は目を疑い、眼前の悲劇を二度見した。

「嘘……だよね……?」

 アヤカシに刺された者はアヤカシとなる。こうしてアヤカシは個体数を増やしていく。異形の化け物と化した実の弟を前にして、守は放心状態になっていた。しかし人類とて、あの化け物相手に何の対策も講じていないわけではない。

「そこを退()きな。でなきゃテメェもそいつの二の舞になるぜ」

 彼の背後から、緋色の和服に身を包んだ女が姿を現した。彼女は右肩を出しており、その右腕には蛇の刺青が施されている。女の無造作に跳ねた赤髪と目力のある眼差しは、中性的な雰囲気を醸している。彼女は和服の左袖から、何か筒のようなものを取り出した。その光景を前にして、守は全てを察した。

「忍者……!」

 彼の言う通り、この女は忍者だ。アヤカシへの対抗策として、日本では最先端の科学技術を取り入れた忍者が市民を守っている。女が持っている筒は巻物で、これは忍者が忍術を使う際に用いる必需品である。女が巻物の端にあるボタンを押すや否や、巻物からは銃のグリップのようなものが生えてきた。女はそれを握り、巻物の先端を前方に突き出した。彼女の目の前には、二体のアヤカシがいる。

「ったく……シャワー浴びたばっかだってのによ!」

 巻物の先端から、光の銃弾が連射される。それは普通の銃弾とは違い、標的や壁に衝突するたびに小さな爆発を起こしている。一体のアヤカシは連射を受けつつも、女の方へと駆け寄ってくる。女が再びボタンを押すと、今度は巻物が中央で一刀両断された。二つの断片は鎖で繋がれ、ヌンチャクの形をなしている。彼女はそれを振り回し、眼前のアヤカシを翻弄していく。そのアヤカシが鋭い爪や牙で応戦していくさなか、女の背後からはもう一体のアヤカシが迫っている。

「ちっ……面倒クセェな」

 女はまたもやボタンを押し、今度は巻物を両端に刃のついた鎌に変形させた。彼女はそれを振り回し、一度に二体のアヤカシの相手をしていく。分の悪い戦いにも思えるが、彼女は半ば一方的にアヤカシを追い詰めている様子だ。アヤカシの内の一体が、胸部を深く切りつけられた。アヤカシは千鳥足で苦しみ悶え、その場で勢いよく爆発した。残る一体は、守の弟――――翔琉だ。


 守は懇願した。

「待ってください! 翔琉を殺さないでください!」

 無論、女は忍者である以上、その願いを聞き入れることなど出来ない。

「一度アヤカシになった時点で、人間だった頃のそいつはもはや死んだも同然だ。お前のエゴで余計な犠牲を増やす気か?」

 女はそう言い放ち、巻物を一本の刀に変形させる。そしてその刀を勢いよく振り上げ、彼女は「翔琉だったもの」の首を跳ね飛ばす。


 翔琉の肉体から生まれたアヤカシは激しく爆発し、塵芥と化した。


 女は刀を巻物の状態に戻し、それを和服の左袖に仕舞った。彼女が立ち去った後の路上にて、守は膝から崩れ落ちたまま茫然としていた。そんな彼の運命が動き始めたのは、それから数分後のことであった。


「力が欲しいかね?」


 守の背後から声がした。彼が振り向いた先には、中折れ帽とスーツを着こなした男が立っていた。男はスーツの内ポケットから注射器を取り出し、話を続けた。


「気持ちだけでは誰も守れない。何も守れない。もし君が力を望むのなら、君を忍者にしてやろう」

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