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全てを奪われた男

少しでも楽しめる作品に出来るよう

頑張って行きます。


寝取られ描写苦手な方は

一部省略版をご覧頂ければ幸いです。

 異世界との霊道が繋がり

世界が変わりはじめてから早100年。


 異世界の魂魄を持つ転生者と呼ばれる人々が

生まれるようになり

この世界になかった魔法と

スキルという個人特有の特殊能力をもたらした。


 その力は大きく

魔法は科学では及ばない超常現象を呼び起こし

スキルは近代兵器では太刀打ち出来ない驚異となった。


 対抗できるのは核の炎くらいだが

それを使えば世界が終わる。


 その為、パワーバランスは完全に転生者優位となり

転生者は自分たちのことを

偉大な者(アークス)』と呼ぶようになり。

俺達その他一般のことを

下位種(ロウサー)』と蔑むようになった。

 

 一応、ここ日本では表面上

転生者と一般人との公平な関係を謳っていた。


 しかし実際は転生者が優遇されているのは

誰が見ても明らかだった。


 その理由の一つが霊道の繋がりと共に現れた

ダンジョンである。


 近代装備では歯が立たない上に

放置しておくと中からモンスターが溢れ出す。


 結局、対処するには

転生者達に頼るしかないのが実情だった。


 そして今、俺はその生まれ持った差を

目の当たりにしていた。


 勇者の転生者を名乗る

この『タケシ』と云う男によって。


 俺は奴によって全てを狂わされた。


 早くに両親を無くした俺は妹と慎ましく暮らしていた。


 そんな俺達の前に奴は現れた。

高校2年のときに転校してきたタケシは

一つ下の学年で俺の妹だった『アケミ』を気に入り

持ち前の財力で猛烈にアプローチして来た。


 贅沢に慣れていなかったアケミはすっかり

贅沢三昧の虜になりタケシの女になってしまった。


 更に最悪なことに両親が遺してくれた家の権利書を

タケシに売り渡し俺を家から追い出すと

タケシと一緒に暮らし始めた。


 そんな、肉親に裏切られた俺を救ってくれたのは

近所で幼馴染だった『ノリコ』だった。

 彼女は追い出された俺を下宿させるために

両親を説得してくれ、親身になって励ましてくれた。

俺は付き合いの長いノリコに淡い恋心を抱いていた。

あの場面に出くわすまでは………


 俺はサッカー部に所属していて

いつもは夕方過ぎに帰宅していたが

その日は偶々顧問の先生の都合で

部活が中止になってしまった。


 そして早めに帰った俺はリビングで見てしまった――


 矯声を上げ、喘ぐ幼馴染のノリコが

タケシと宜しく絡み合っている姿を……


 後から知った話だがノリコはイジメられていたらしく

それを助けたのがあのタケシらしい

それだけなら美談だが、勿論裏があった。

そもそもノリコをイジメてたのはタケシの手下だった。


 それを知った頃にはもう遅く

ノリコはすっかり肉欲の虜でタケシに心酔して

愛人の一人になっていた。


 またしても居場所を奪われた俺に

再び手を差し伸べてくれる人がいた。


 サッカー部でマネージャーをしていた『エリカ』だ

彼女は家の都合で一人暮らしをしていて

部屋に来ないかと誘ってくれたのだ。


 しかし俺は女子の部屋に男が泊まるわけにはと

断りを入れたが、エリカから

「好きだから一緒に居たい」と告白され

傷心の俺はコロッと落ちてしまった。


 それからは本当に楽しく過ごして来たが

ここ最近、エリカの様子がおかしくなっていた。


 デートより女友達を優先するようになり

 なんだか俺に対してもよそよそしく接する。


 不安になった俺はエリカを問い質してみた。


 最初は何でもないと言っていたが

 最後はあのタケシに付き纏われていると教えてくれた。


 知り合った切っ掛けは女友達が連れてきたらしく

それからも、何度か女友達と一緒に遊んでいたらしい。


 彼氏が居るからと二人きりの誘いは断っていたが

俺が彼氏だも分かると、会うたびに悪い噂を吹き込まれ

付き纏われるようになったらしい。


 俺は3度目の悪夢を回避すべく

放課後、タケシを呼び出した。


 奴はニタニタと笑いながら

呼び出した教室までやって来た。


何故かエリカも一緒だった。


タケシは俺に挨拶代わりとばかりに

馬鹿にするような視線を投げかけて言った。


「よう、俺様を呼び出すとは何のようだ?」


 俺は威圧に負けないよう、強い気持ちで言い返す。


「とぼけるな、これ以上俺のエリカに手を出すな」


 俺はありったけの憎悪を込めてタケシを睨む。


 そんな俺をタケシは鼻で笑うと

いきなり、物凄いスピードのパンチを繰り出してきた。


 全く見えなかった俺は顔面にパンチを食らうと

不様に尻餅をつき鼻血を垂らした。


 それを見たエリカが慌てて俺に駆寄ろうとするが

タケシが腕を掴み、強引に自分の胸元へ抱き寄せた。


 尻餅をついた俺を見下ろす形になり

タケシは勝者の笑みを浮かべて俺をこき下ろした。


「本当、情けねえな、惨めだよ

 好きな女一人守れないとはな

 こんな無様を晒したら

 俺なら死んじゃうけどね」


 悔しくて涙が出そうになるが何とか堪えて

卑下た笑顔を絶やさないタケシを睨みつける。


「おや、おや、無様な格好のくせに生意気だね

 まあいい、おい『ヘタレ野郎』よく見とけよ」


 タケシはそう言って抱き寄せていたエリカの顔を

強引に持ち上げると無造作に唇を奪った―――


 俺の前でキスをされてエリカも抵抗をみせたが

途中から諦めたのか身を任せるように動かなくなった。


 強引にキスされたはずのエリカも途中から

どこか惚けて満更でもない表情を浮かべていた。


 タケシは唇を離すと、勝ち誇った表情を俺に見せる。


 エリカの視線を尻餅をついたままの

情けない俺へと向けさせ言った。


「エリカ、お前も俺みたいな

 強い男に守られたら安心だろ

 もし、ここに居るのが俺じゃなくて

 変質者や犯罪者だったら

 きっとエリカは酷い目にあってたぜ」


 自分のことを棚に上げたタケシの言い分だが

俺が守れなかったのも間違えのない事実だった。


 どうしようもない現実に涙が堪えれなくなる。

 そんな俺に心底バカにしたような視線を向け

タケシは再びエリカの唇を貪った。


 結局、最後の方はエリカも自分から積極的に

動いているようにも見えた。


 精神的に俺を嬲って満足したのか

タケシは最後のトドメとばかりに言い放った。


「これでこの女も俺のものな!」


「くそっ、エリカに無理矢理しておいて

 こんなの、認められるか」

 

 諦めきれない俺はエリカの気持ちに縋る。


「はー、何言ってんのエリカだって

 こんなヘタレ負け犬のロウサーより

 最強勇者でアークスの俺の方が

 良いに決まってるだろう。

 この情けないフニャ男にハッキリ言ってやれ」


 嫌らしい笑みを浮かべるとエリカに問いかける。


「……はい。私はもうタケシ君の女です」


 そう言った。恋人だった彼女は僕から目を逸らし

少し気まずそうにしながらも、明確に答えを出した。


 その瞬間、全てに絶望した。



 確かに一般人と転生者だと年収は10倍は違うと言われ

魔法やスキルで力も遥かに強く一般人では敵わない。


 転生者に見初められれば逆玉だと喜ぶ人も多い。 


 正直に言えば彼女の「エリカ」はそんな物より

俺との絆を選んでくれると思っていた。


 でも。現実は妹や、幼馴染と同じで

勇者が持つ力に目が眩んだのだろう。


 悔しけど、思いだけでは

 現実の格差は覆すことが出来なかった。


 強く握りしめた拳から血が滲む。

 悔しさと情けなさで顔を上げることが出来ない


「そういうことで

 エリカはもらって行くな

 ヒッヒッ、今日は朝まで寝かせないからな」


 そう言って、タケシは下品な笑い声を上げ

俺の彼女だったエリカを連れ去って行った。


 俺は情けなく佇むしかなかった。


 両親が遺してくれた家も妹と一緒にあのタケシに取られ

隣の幼馴染もいつの間にかタケシの女になっていた。


 そして、今日、俺に残った最後の宝物が

あの強欲勇者に奪われた。


 もう、俺には、なにも残っていなかった。


 泊まる家もエリカに提供してもらっていた以上

 寝床もなく、絶望のまま夜の街を彷徨う。


「なんで、生きてんだろうな」


 心のつぶやきが表に出て、ふと思う

ああ、死んでしまおうと、生きる気力を無くした俺は

死に場所を探して、このエリアの危険地区で

『樹海』と呼ばれる封印区画に向う。


 封印区画とは最高難易度のダンジョンがあるエリアで

転生者でも攻略が難しく封印するのがやっとと云う

日本で最も危険な場所である。


 そこに行けば、俺みたいな一般人は瞬殺だろう、

せめて苦しまないで死ねるといいなと思いつつ

鬱蒼とした森に足を踏み入れる。


 森に入ると、いつの間にか薄暗い影が

俺に纏わりつき離れなくなっていた。


 最初は気持ち悪く疎ましく感じたそれも

離れようとせす、じゃれつくように纏わりつく姿は

全てを無くした俺には愛らしく見えた。


 その影は俺を何処かに導くように揺蕩いながら

少しずつ移動していく。


 俺は釣られるように後を追う。


 どんどん森の奥へ奥へと誘われて

気が付くとダンジョンの入口まで来ていた。


 本来なら厳重に結界が張られ

認識除外の魔法が掛けられていており

一般人では侵入できないはずの場所。


 そんな場所に俺は揺蕩う影に案内されるまま

何故かたどり着いてしまった。


 影は中に入るように促してる。そう感じた。


 一瞬、恐怖が先立ち躊躇するが

どうせ死ぬために来たんだしと思い直し

導かれるままダンジョンに足を踏み入れた。


 中は光源が無いのに

薄暗くだが視界が確保出来た。


 最高難易度ダンジョンのはずだが

何故かモンスターと遭遇しなかった。


 普通なら直ぐにモンスターに囲まれて終わり

俺の望み通り死に場所にはうってつけなはずだった。


 しかし、影に導かれるまま付いていけば

いつの間にか最下層へと到達していた。


 広がる大広間に巨大な扉が目を引いた。

影がフラフラと扉の前まで辿り着くと

巨大な扉がひとりでに開く

扉の先は薄暗いダンジョンとは真逆で

光輝く美しい空間だった。


 そして、その空間を照らす光は

空中に眠ったように横たわり巫女服のような衣装を着た

少女自身の輝きだった。


 影は光の中でも暗く仄めき

少女の身体に吸い込まれる様に入り込むと

合わせて目が見開かれる。


少女が目覚めと同時に

ゆっくり空中から舞い降りると

俺に微笑みかけて言った。



「よく来た、我が伴侶よ」と


読んでいただきありがとうございます。

少しでも楽しめましたら。


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読み進めて下さいましたら幸いです。


宜しくお願いします。

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