ボーイズトーク?
「弱い、弱い!黒鎧の女より弱い!」
「そんな事、知ってるさっ!」
ー キィン! ー
ー ギィイイン! ー
ー ドガァッ! ー
ニカが後退している最中、ユウは全力で剣や籠手盾を振り、武蔵を押し留め、隙あらば斬り崩そうと試みる。
だが、相手は英敵。
数合斬り合うだけで、現時点の実力では斬り崩す事は不可能であり、押し留める事も相手が気分で合わせているだけであって、少しでも全力を出されたら瞬く間に斬り捨てられるという事を重々思い知らされた。
(悔しいけどこれが現実だ!)
焦りも憤りもただ敗北が早まるだけ。
(心を乱すな!戦いにだけ集中しろ!)
自身にそう言い聞かせながら、ユウは剣を振るう。
ーギィギギン! ー
カウンター気味に振るわれた武蔵の二刀を、何とか剣と籠手盾で防いだユウは、気合いで押し返して距離を取り、束の間の休息で息を整えた。
「ふん、今ので首を獲るつもりだったが・・・それに、挑発に乗らない程度には場数を踏んでいるようだな」
「こちとらいつも小さい女の子にコテンパンにされてるんでね。これぐらい何ともない」
武蔵の皮肉めいた賛辞に、ユウは精一杯の強がりで事実と負け惜しみを口にする。
「童女に?はっ、情けないと思わないのか?」
なおも英敵は容赦なく、心をも斬り崩そうとしてくる。
「ああ、情けないさ。だから、俺は言い訳しない。弱い自分、弱い事実から目は背けない。強くなる為に」
だが、ユウの心は崩れない。
強くなる為には、自分の現状把握が必要である事をユウは理解している。
自分の実力を過不足無く受け止める事で、目標までの距離、鍛えるものがみえてくるのだ。
ユウの目標は桃太郎ら英雄、リングレットら特別なモンスター、アーサーら上位プレイヤーと渡り合う事である。
その道のりは果てしなく遠い。
だからユウにとって、落ち込みも言い訳も妥協も卑下もしている暇など無いのだ。
「・・・そうか・・・お前の決意が口先だけにならない事を願おう」
ユウの真摯な言葉に反応して、武蔵が僅かにだが初めて笑みを零した。
「っ」
それは仲間や部下を見る様な、あるいは出来の悪い弟を見る様な、朗らかで慈しみが含まれた笑みであり、戦いの相手であるユウでさえ一瞬目を奪われてしまった。
(良い人だな・・・そりゃそうか、小次郎さんが好きになるような相手だし、根は素晴らしい人なんだろう)
だからこそ、この時までの敵に対する態度の違和感が際立つ。
(こんな人が戦う相手を必要以上に見下すのか?それに、小次郎さんと接触したけどミッションは達成していないところをみると、何か他に条件がーー)
武蔵の好意的な態度にユウは無意識のうちに気を緩めてしまった。
それは致命的な隙であり、英敵相手であれば、我に返り省みる暇もなくHPバーを全損させていてもおかしくなかった。
しかし、ユウは健在であった。
それはーー
「ぐぅ・・・」
武蔵が頭を押さえて、苦しげに呻いていたからである。
「はぁっはぁっ」
息も荒く、激痛に耐えている様であり、先程までの余裕は微塵も感じられない。
「ど、どうした!?」
奇しくも反撃の機会が巡ってきたが、それよりも困惑が勝っていたユウは、気遣いをみせた。
「はぁっはぁ・・・うぐぅ・・・ああ、ああ、そうか・・・そうだ・・・」
だが、ユウの言葉は武蔵に届かず、うわ言のようにブツブツと何かを呟き、やがて、無機質な表情となって再び刀を構えた。
「・・・宰相殿の言う通りだ。戦いに余計な感情や思考は不要・・・ただ敵を斬り捨て滅せれば良い・・・全ては国王様と宰相殿の為に」
「ちぃっ!」
武蔵の言葉で状況を察したユウは思わず悪態をつく。
(この感じは誰かに洗脳されてるな。ミッション的には洗脳を解除した状態で小次郎さんと会わせて達成って事だろう。武蔵を無力化して洗脳を解く・・・難易度激高だろ!)
それでもミッション達成の為には、この無理難題を成さなければいけない。
それに、ユウの中に諦めるという選択肢は元々なく、確かな希望も持っていた。
だから、悪態を零しつつもユウは剣を構え直す。
数秒先の未来を信じて。




