再結集
武蔵の刀と黒騎士の突撃槍がぶつかり合った瞬間、凄まじい衝撃波が走ったが、黒騎士ことニカはものともせず威風堂々たる姿で受け流し、おまけに戦闘中では到底耳にしない話題を拾い上げて、内容を掘り下げようとした。
あと少しで敵司令官を打ち取れるところを邪魔立てされた武蔵は、横入りした上にふざけた言動を放つニカに殺意を向ける。
「お前は誰だ!」
「私の事はどうでも良いでしょ!?それよりも!キスした相手の事を忘れるってどういう事なんですかっ!?」
ー ブォオオン! ー
英雄の殺意を真っ向から当てられようとも、黒騎士は全く動じず、お返しとばかりに突撃槍を横薙ぎに払った。
「ニ、ニカ殿っ!?」
「あ、小次郎さん大丈夫でした?それと、ごめんなさい。やっぱりキスのお話は戦いが終わった後でお願いします」
「キ、キキキ・・・あぅ・・・じゃなくてっ」
武蔵の発言に違和感を覚え、黒幕を悟った瞬間に追い詰められ。
最期の瞬間だと認識しかけた直後にニカの救援によって助かり。
思考が状況の整理を行う前に、戦闘中にも関わらず恋愛話を持ち出され。
と、人間だと感情がグチャグチャにシェイクされそうなほど目まぐるしく移る状況の変化への反応は、高度なAIを持つとされる小次郎《NPC》も同じようで、感情表現の処理が追い付かず、可愛いらしくあたふたしてしまう。
そんな、今すぐには戦闘復帰を期待出来そうにない小次郎を背に庇い、突撃槍の横な薙ぎを軽く躱して後退した武蔵をニカは追撃する。
ー ドゴォッ! ー
全力で踏み込んだ地面が抉れ、土砂が舞い上がる。
「はぁああっ!」
ー ヒュォオオッ! ー
次の瞬間には武蔵を至近距離に捉え、ニカは突撃槍を気合いと共に前方へ突き出した。
狙うは身体の重心であり、瞬時に大きく左右に動かせない下腹部。
更に突き技は攻撃範囲を『点』でしか認識出来ず、避けるのも受け止めるのも困難である。
故に必殺。
ニカは獣皇女との特訓で培った技量を以て、一寸狂わず狙った部位へと音速に近しい速度で必殺の一撃を放った。
「ふん」
ー ギィイイイイイイン! ー
再び刀と突撃槍が衝突し、鈍く重厚な爆音と火花を撒き散らす。
プレイヤーとしては規格外の突き技を、しかし、武蔵は容易く刀で受け止め、十数メートル後退するに留まる。
「ふう」
だが、ニカの表情に驚きや曇りはない。
英敵相手に一筋縄でいかない事は想定済みであり、元より小次郎から離す為の攻撃であったからだ。
「だからって気にしてない訳じゃないけど、ねっ!」
ー ドゥッ! ー
目的を果たしたとはいえ、自身の渾身の一撃を軽く対処されたニカは、悔しさをバネに再び武蔵へ突撃する。
「まさか女相手に連戦とはな」
口では億劫そうにぼやきながらも、骨のある者と戦う喜びに、武蔵は自然と口角を上げて迎え撃った。
「おい、今がチャンスじゃね!?」
「あの敵司令官を倒したら俺達の勝ちだ!」
ニカと武蔵が小次郎から離れた途端、それまで空白地帯の外側で傍観していた西軍プレイヤー達が漁夫の利を狙って、万全でない状態の小次郎へと殺到する。
だが
「ーー鉄槌を下せ!『風の槌』!」
ー ズゥウウウンンン! ー
ー グシャァ・・・ ー
繊細ながらも良く通る声の魔法詠唱と共に、大質量の大気の槌が大地へ振り下ろされ、地響きを伴いながら、小次郎へ迫るプレイヤー達を押し潰した。
ある者は四肢があらぬ方向に曲がり、ある者は鎧ごと豪快にひしゃげさせ、一様に身体を地面にめり込ませて霧散する。
「これは・・・」
「まさか噂の・・・」
「暗黒魔道士・・・!」
「えげつねえ・・・」
「これもう喜んで潰してるだろ・・・」
「サイコパス魔法だわ・・・!」
小次郎襲撃に出遅れたプレイヤー達は、魔法攻撃に巻き込まれなかった事に安堵し、また、魔法の威力とその惨状に戦慄した。
「小次郎さんには指一本触れさせませ・・・って、暗黒魔道士!?サイコパス魔法!?」
一方、小次郎を背に、慄くプレイヤー達の前に立ちはだかった黒ローブを纏う少女、メロアは聞こえてくる酷い言われ様にショックを受ける。
ー ビュォッ! ー
ー ギィンッ! ー
ー ギュオッ! ー
ー ヒュンッ! ー
ニカと武蔵が武器を振るう度に風が吹き荒れ、打ち合わさる度に火花が散り、けたたましい衝突音が戦場に鳴り響く。
2人の最初の衝突から数分、共に健在。
ただ、両者の様子には大きな隔たりがあった。
「ふっ!はぁっ!」
ー ダンッ!ダンッ! ー
ー ビュオンッ! ー
ニカは左から右に大きく移動して、鋭い突きを放つ。
「ふんっ!」
ー ヒュォッ! ー
並の相手なら翻弄されて反応出来ない速度だが、武蔵は皮一枚で避けると、ニカの動きを捉えてカウンターで斬り掛かった。
「っ!」
ー ギギギギィイイイイ! ー
ー ズサァアアア!ー
ニカは突撃槍を盾にして、押し弾かれて数メートル後退するも辛うじて受け止める。
仕切り直してお互い武器を構え直すが、疲れがみえ始めたニカとは違い、武蔵はまだ余力を残しているようにみえた。
「ふん・・・それなりにやるが、そろそろ打ち止めのようだな」
「何をぉっ!」
ー ドンッ! ー
ニカは地面を蹴り、再び武蔵との距離を詰めて打ち合いを再開する。
ー ギィン! ー
ー カァンン! ー
ー ドカッ! ー
一合、二合、三合。
下腹部、足元、胸部。
肩当て、足払い、蹴り攻撃。
武器を、身体を駆使して猛攻撃を仕掛けるも、武蔵のHPバーを僅かに減少させた代償に、ニカはHPバーを半分近く失った。
「他愛ない。女よ、ここで退いてあの女司令官を差し出すのなら、お前の命は見逃してやる」
もうお前の力量は分かったとでも言うように、ニカを見下しながら武蔵は最後通告をする。
「はんっ!そんなのお断り!確かに私は弱い!でも、だからって退いて友達を売る理由にはならないでしょ!」
対するニカは鼻で笑い、武蔵の要求を足蹴りにした。
「なら、死ね」
ー ザッ! ー
ー ヒュォオッ! ー
言うが早いか、武蔵は瞬く間にニカとの間合い詰め、小次郎を窮地に追いやった剣技を振るう。
「くぅっ!」
ー ギィン! ー
一刀は愛槍で防いだ。
ただ、もう一刀は受ける事も避ける事も出来ない。
ー キィイイイイン! ー
独りだったならば。
「・・・また増えたか。弱者は静観しておけば良かったものを」
「弱さは最初から諦めて手を伸ばさない理由にはならないからな」
ニカを抱き抱えるように割り込み、二刀目を防いだ人物、もう人の黒騎士は武蔵の悪態を不敵に返す。
「ユウきゅん!!?!♡♡♡!」




