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幕間 戦場の逢瀬

ユウが死の空白地帯へ辿り着く数分前。


まだ西軍の兵が密集する本陣に佐々木小次郎は到達する。



「見つけたぞ!武蔵ぃ!」


「ちっ。またお前か」



ざわめく群集の中から目的の人物を見つけた小次郎は、駆け抜けてきた勢いそのまま突進した。


対する目的の人物、宮本武蔵は面倒くさそうに悪態を吐きながら、武器を構えて迎え撃つ。


周囲のプレイヤーや武蔵の護衛達が行く手をはばもうとるが、風が吹き抜けるように小次郎は優雅にすり抜ける。



ー ヒュォン ー


ー フォォン ー


ー ヒュン ー



「えっ?」


ー シュバッ! ー


ー ザシュッ! ー


ー ズシャ! ー



呆気に取られて漏らした声は誰のものか。


それも分からないほど、武蔵と小次郎の間にいた多くの者達が、風切り音に気付くと同時に四肢を斬り飛ばされ命《HP》を散らした。



そして、両雄激突ーー



ー キィイイイイイン! ー



小次郎と武蔵の刀が澄んだ甲高い音色を打ち鳴らす。


ー ゴォウ! ー


美しい打ち合い音とは裏腹に、凄まじい衝撃波が走り、運良く生き残っていた周囲の者を薙ぎ倒した。


そんな周囲の状況など気にも止めず、互いの刀を弾きあった両者は、返す刀で再度打ち合わせる。



2合目。


ー ギィイン!ギギィ! ー


衝突の瞬間に小次郎が刀を少し引いて衝撃を和らげた事により、鈍い打ち合い音と共に鍔迫り合いになった。


ー ゴォ! ー


衝撃を和らげたといえど、人並み外れた衝撃波は変わらず、周囲の倒れた者達は立ち上がる事はおろか、その場で踏ん張る事も出来ず無力に吹き飛ばされる。


そもそも彼らに立ち上がる意思は無く、喜んで吹き飛ばされた節もある。


何故なら、立ち上がったところで小次郎と武蔵による人外の戦いに巻き込まれるだけなのだから。



しかし、彼らは知らなかった。


吹き飛ばされて多少距離がとれたとしても、そこはまだ両雄の殺傷圏内である事に。



ー ギィ、ギィイイイ ー


互いの力が拮抗する最中 、小次郎は懇願するように問う。



「もう一度聞くぞ、武蔵。私の事を覚えているか・・・?」


「くどい!そもそも・・・お前の事など知らんと言っている!」



ー シャラン ー


ー ヒュォッ! ー



対する武蔵は非情な応えと共に、大刀から瞬時に離した左手で、左腰に差した鞘から小刀を抜き放った。


予想していたのか、小次郎はひらりと身をひるがえして小刀の一閃を躱すと、数歩後退して武蔵から距離をとる。


俯き唇を噛み締めた小次郎であったが、覚悟を決め、約1メートルもの刀身を持つ愛刀、物干し竿を構え直して宣言した。



「あいわかった。ならば・・・たとえ忘れていようと記憶になかろうと、再び私の事をお前の心に刻み込んでやる!」


さえずるな、女!」


そして、両雄が再び激突する。



ー ヒュオン!ヒュォオッ! ー


ー シュガッ! ー


ー ザシュッ! ー


小次郎の物干し竿が振るわれる度に風切り音が響き、戦いに巻き込まれた周囲の者の身体の一部が宙に舞う。



ー キィン! ー


ー ギィィン! ー


ー ゴォ! ー


武蔵も右手の大刀と左手の小刀を巧みに操り、小次郎の剣撃をいなし、あるいは受け止め、または避け、隙をみれば反撃した。



「ひぃ!?」


ー ズシャッ! ー


「く、来るなーー」


ー ザンッ! ー



斬り合いの最中、時に武蔵は自らの護衛を盾に、小次郎は敵軍のプレイヤーを目眩めくらましに利用し、時に雑草の草引きをするように斬り捨てる。



人を人と思わない扱いであるが、両者とも非難の声はあげず、侮蔑の眼差しも罪悪感も感傷もない。


戦いは常に冷静に、無情にならなければいけない。


実力が拮抗している者同士の戦いでは尚更であり、利用出来るものは全て利用する。


そう叩き込まれてきたのだから、疑問の余地は無い。




それでも・・・



(ああ、懐かしい・・・)


冷静に、無情に、されど激しく打ち合いながら、小次郎はどこか頭の片隅で、武蔵との戦いを懐かしんでいた。



敵ながら見惚れる太刀筋。


命を取り合っているというのに見惚れてしまう凛とした視線。


威風堂々とした姿。


(ああ・・・やはり愛おしい)



長く激しく打ち合わせるにつれ、愛する者への想いが溢れ、片隅におかれていた感情が次第に膨らむ。


戦いに集中しなければいけないのに、余計な思考は命取りだと理解しているのに、思慕は際限なく、どんどん膨らんでいく。



(悔しい)


『たとえ忘れていようとも記憶になかろうとも、再び私の事を心に刻み込ませてやる』


もちろん、それも本心である。



しかし。


しかし・・・やはり無かった事にしたくない。



これまでの武蔵との時間を。


初めて出会った時から、今までの時間を。



やがて感情が爆発し、小次郎は涙を流し、嗚咽を漏らしながら刀を振るう。



「お前は!お前は本当に何も覚えていないのか!?この幾度となく打ち合わせた私の太刀筋も!戦場から離れたあの時間も!あの時の接吻の味も!あの時交わした約束も!全て忘れたのか!?」



激情のままに小次郎は武蔵との思い出を吐露する。


これには彼も面食らい、僅かながら動揺して太刀筋をにぶらせた。



「せ、せっ!?ええいっ!戯言を言うな!俺が愛するのはこの刀のみだ!それに忠義の誓いは国王様と宰相殿のみだ!お前との事など知らん!」


しかし、それも一瞬で、小次郎の 妄言だと斬り捨てた武蔵は、再び小次郎へと刀を滑らせる。



(宰相?)


今度は僅かに小次郎の動きが鈍った。


武蔵の口から聞き慣れない単語が出たからだ。



(宰相が黒幕か!)


「ぁっ・・・」



思考がクリアになった瞬間と、我に返った瞬間がほぼ同時であり、小次郎の思考が一瞬空白になった。


その一瞬が致命的である事を重々理解していたのに。



ー ヒュォオオン! ー


ー ヒュォオッ! ー


気付いた時には武蔵の大刀と小刀が時間差で迫ってきており、片方を避けても片方が急所を斬る必殺の一撃となっていた。


既に悔やむ時間も、愛を口にする時間も無く、小次郎は愛する者の刀が己の身体を斬り捨てる様をただただ眺める事しか出来なかった。



ー ガガガギィイイン! ー


しかし、そんなむなしい最期を阻む者がいた。



すんでのところで割って入り、武蔵の必殺の一撃を武器で受け止めた、一角獣を模した兜を装備した黒い騎士は、背中越しに小次郎へ力強く声を掛ける。



「小次郎さん!今の話!特に接吻のところを詳しくっ!」

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