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灰被り姫(魔法風味)

「ふう」


前方へ突き出した突撃槍と右腕を下ろし、残心の構えを解いたニカは安堵の息を漏らした。


現在身に纏っている純白の軽装鎧は、防御力こそ並みだが、敏捷性が強化される加護が付与されている。

ちなみに、どのくらい速度が上がるか気になったニカがフブキに尋ねたところ、『桃太郎の猟犬からのがれられるくらい』というよく分からない返答が返ってきた。



ただ、敏捷性強化という恩恵がある一方、小回りが利かない、秒数制限と待機時間ディレイタイムがあるといったデメリットももちろん存在し、慣熟するまで幾度となくモンスターや獣皇女エルレンシア相手に鍛錬を重ねてきた。


エルレンシアとの特訓中、とあるエリアの強モンスターを狩り尽くしたところで彼女からお墨付きをもらえたが、それでも、対人ほんばんは初めてだったので息をつくまで少なくない不安があったのだ。


ちなみに、純白装備であってもエルレンシアにはいつも軽くあしらわれており、それが原因で必要以上に不安を抱えていた感は否めない。


戦闘が終わってみれば、不安は杞憂で鮮やかな勝利だったのだが・・・だからこそ。


「初めてをユウ君に見せたかったなぁ」


ニカは少しだけ残念がる。



「まっ、どうせならじっくり見てほしいし、次に期待しよっ」


ただ、過ぎた事を引きずっても仕方ないので、気持ちを切り替えて、お披露目の機会を打算する。


「メロ先輩はと」


それに、イベントクリアもお披露目もユウに追いつかなければ実現しない。

その為にも、まずは行く手を阻む邪魔者ヘルフレイムを殲滅しなければならない。


そして、残りはリーダーのジンのみ。


ニカは彼と戦っているであろうメロアに加勢すべくその姿を探す。


「あ、見つけ・・・え?あれー・・・?」



目的の人物達はすぐに発見した。


ただ、予期せぬ状況だった為にニカは一瞬呆けてしまう。


彼女が目撃したのはーー


両腕を失い、HPバーが僅かに残った状態で、許しを乞う様に跪き頭を垂れるジンと、彼の頭頂部に式典等で用いられそうな装飾が施された短槍のような杖、槍杖スピアロッドを突きつけるメロアの姿であった。



一般的なパーティやクランにおいて、魔法を使う者や支援が主体となる者は後衛タイプといわれ、戦闘の際、魔法は詠唱が必要であったり、支援は純粋な攻撃力が劣り火力貢献が出来ないなどといった観点から、後衛タイプは斬り合いや殴り合いが得意な物理攻撃力および防御力が高い、いわゆる前衛タイプに守られながら行動する事になる。


その為、近中距離での1対1において、前衛タイプ対後衛タイプでは後者が圧倒的に不利となる。


そして、メロアは魔法メインの後衛タイプであり、対するジンは武装やスキルから典型的な前衛タイプである事が窺える。


つまり、後衛メロアVS前衛ジン、包囲されていた状態からの戦闘イコール近中距離での戦闘という図式であり、メロアが圧倒的に不利な状況であった。


ニカもその状況を理解しており、敗北はしていないものの苦戦を強いられているだろうと心配していたが・・・




時は少し遡り、ニカが☆さな姫★と交戦を開始したと同時に、ジンは自身が出した指示通り、メロアに標的を定めていた。

後衛タイプに不利な近中距離戦闘な上、多人数(前衛2人後衛1人)対メロア1人となるので確実に仕留められるだろうという判断であった。


ただ、本音をいうとジンにとって他の2人が指示通りに動くかどうかなどどうでも良かった。


自分の手でメロアを仕留められさえすれば。



自分のものにしたい。

ジンはまだメロアに未練があった。


俺だけのものだ。

その容姿、言葉、笑顔、泣き顔、怯えた顔、そして命(HP)も俺だけに向けろ。


歪んだ支配欲と殺意をもって、ジンは他の2人よりも早くメロアへと斬り込む。



ジンにとってメロアは格下の存在であり、1人でも余裕で倒せる自信があった。


それは前衛対後衛だという理由もあるが、一緒に行動してきたからこそ分かるメロア自身の欠点も知っていたからである。



PAOにおいて魔法を行使する為にはいくつかの条件がある。


まず1つ目はステータスの精神力『C』の数値。

他のゲームでいうところの『MPマジックポイント』であり、魔法を行使する度に対象魔法のコスト値分、『C』の数値が削られていく事になる。

その為、Cの値が高いと連続して魔法が使え、コスト値より低いと魔法を発動させる事が出来ない。

(ステータス値は時間経過およびポーション等で回復する)


2つ目は『触媒』の装備。

魔法を発動させるには専用の武器あるいは防具を装備しなければならない。

ちなみに装備バリエーションはそれなりにあるが、魔法を扱えるというメリットがある分、装備の攻撃力や防御力などの値は低めに設定されている。


3つ目は『魔法詠唱』。

どの魔法においても1文以上の詠唱が必要であり、威力(効果)が高い魔法ほど、コスト値が高く、詠唱文も長くなる。



以上の3条件を満たした上で、詠唱完了から一定時間内に『魔法名』を宣言すれば魔法を発動させる事が出来るのだ。

(なお詠唱および魔法名の言語は自由である)


逆にいえば3つの条件が満たされていなければ、魔法名を宣言したところで魔法は発現しない。


そこで大きな壁となるのが、魔法詠唱である。


PAOには武器を振るう際の動作補助モーションアシストが存在しないように、魔法にも動作(詠唱)補助が存在しない。

その為、詠唱文を一字一句暗記する必要があり、また、言い間違えはもちろん噛んでも不発となってしまう。


非戦闘時なら、メモを見ながらゆっくり落ち着いて詠唱すれば良いが、戦闘時はそうもいかない。

メモを見ながらゆっくり唱えようものなら、瞬く間に敵は前衛を襲い崩し、詠唱もままならない後衛じぶんを容易く討つだろう。


そうならない為にも、一分一秒でも早く魔法を行使して攻撃、あるいは味方を援護する必要がある。

それも、怒号を上げた敵が味方や自分の眼前へと武器を振り上げて迫り来る恐怖と戦いながら。



一番乗りでメロアへと接近したジンは我欲の達成と勝利を確信し、ほくそ笑む。


ジンが知るメロアの弱点、それは彼女が人一倍緊張しやすく怖がりな事であった。


もちろん理由があり、メロアは仲間の力になりたい、ならなければという気持ちが強いあまり、失敗してはいけないという強迫観念に囚われ、元来のおっとりした性格と相反して空回りを起こし、また、今まで無縁であった悪意や敵意を向けれて萎縮してしまい、結果、戦闘においてまともに魔法を行使出来ずにいたのである。



理由が分かっていれば対策や改善方法も思い付くのだが、ユウ達と出会うまでにメロアが参加したパーティ(ヘルフレイム含む)はどこも彼女の上辺だけを見るばかりであった為、ついぞ『約立たず』『パーティ解散の原因』というレッテルが外れる事は無かった。



ジンはメロアに肉薄すると同時に、振りかぶったフランベルジェを鬱憤を晴らすが如く思いっきり彼女へと叩き付ける。



ー ブォオオンッ! ー


「おらぁっ!泣き叫べぇ!」


「ひぅっ」


ー ドゴォオン! ー



袈裟斬り気味に振り下ろされた一撃は、メロアを両断するかと思われたが、彼女は危なっかしくも避け、代わりに地面が抉られる結果となった。


「っ!何避けてんだぁ!」


ー ブォオッ! ー


「やんっ!」


避けられるとは微塵にも思わなかったジンは、一瞬だけほうけた後、激昂とともに横薙ぎに

剣を振るったが、再度、メロアに避けられ空を切る。


「チッ・・・っ!クソがっ!」


空振りざま、舌打ちをしたジンはメロアの表情を見て更なる悪態をつく。


彼女は確かに涙を浮かべていた。

しかし、ジンが望む恐怖に歪んだ顔では無かった。


恐怖ジンと戦う決意に満ちた顔であったのだ。



弱者であるはずのメロアに歯向かわれている。


それはジンのプライドを大いに傷付け、更なる怒りを呼び起こす。


「クソクソ!クソボケがぁっ!『イロージョンフレイム』!」


ジンがスキルを発動させ、フランベルジェが激しい炎に包まれる。


ー ゴォオオオオオゥ! ー


その刃形と相まって、うたわれる通り、正に炎が剣と化した様である。


「燃え尽きやがれぇえええ!」


ー ブォオオオオオオオン! ー


メロアを思い通りに出来ない苛立ちを怒りに上乗せし、炎の剣を大きく振りかぶったジンは必殺の一撃を振り下ろす。



直後。


「ーーはしれ!風のやいば!」


展開された魔法陣と、囁かだが凛とした声。


ー ヒュォオン! ー


ー ズパァアン! ー


風切り音と、切断音。



「・・・あ?」


腕を振り下ろしたジンはメロアがダメージエフェクトも出さず無傷な事に眉をひそめ、次いで両腕に違和感を覚えた。


ー ドスッ ー


近くで落下音がしたので、ジンは反射的に音がした方を見やる。


「っ!」


そこには地面に突き刺さった自分の愛剣があり、ようやく思考が追い付いたジンは自分の両腕が切断された事を理解して驚愕した。


「おまーー」


「ーー大地に跪け!『大気の大槌おいづち』!」


ー ゴォオオオウ! ー


「っ!?ぐ・・・ぁ・・・!」



ー お前、何をした? ー


ー まともに戦えなかったくせに ー



そんな疑問や侮蔑を吐き出す前に、メロアの魔法により風が上から押し潰さんとジンを襲う。

その暴力的な風圧に耐え切れず、彼は頭を垂れて膝をついた。



「ジンさん・・・私、頑張ったんだよ」


メロアはかつて共に冒険していた時のようにジンに話しかける。


「ぐっ・・・んな訳ねーだろ!どうせ黒騎士達にも上手く擦り寄ってチートアイテム貢がせたんだろ!そうじゃなけりゃ!お前のような役たたずがっ!こんなっ・・・!」


メロアを自分のものにするのも叶わず、更に見下していた相手に完封されたという事実を受け入れられないジンは、欠損ダメージでHPバーを散らしながらわめき散らす。


そんなジンに対し、否定する事もなくメロアは寂しさを含ませた悲しい笑顔で告げた。


「確かに色々もらったよ。でも、それはアイテムとかじゃなくて、もっと大切なものなの。そして、私もあげられるものなんだ」


メロアはユウ達との短いながらも充実した日々を思い笑顔の質を変え、そして、黒と白の装飾が施された灰色の槍杖をジンに向ける。



「早口言葉の練習も、戦いの特訓もたくさんたくさんしたの。もらってばかりじゃなく私もあげたいから。これからも一緒にいたいから。一緒に戦いたいから。だから、弱くて役たたずな私から卒業しなきゃ駄目なの」


意を決したメロアは、槍杖を勢い良く突き出す。


「役たたずで迷惑掛けてごめん。たくさん守ってくれてありがとう。私ももっと強くなるから、今度戦う時は真剣勝負しようね。バイバイ、ジンさん」


ー ザシュッ ー


風の拘束が解けたとほぼ同時に、メロアの槍杖がジンの体を穿ち、残り僅かとなっていたHPバーが消滅して、彼は光の粒子となって散っていった。

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