燃え騎士と萌え魔女
ユウとドリューが激しくぶつかり合う中、西織花奈ことニカは絶賛燃え燃え中であった。
(ユウ君・・・大和君に頼まれた!)
そう、想い人に敵撃破を頼まれたのだ。
『お使い』
つまり・・・
大和「花奈。パンと牛乳を切らしてしまったから、後でちょっと買いに行ってくれないかい?」
花奈「はい、あなた(はーと)」
と同意義である(違う)。
すなわち、数年後、一緒に暮らした際のシミュレーションに他ならない(違う)。
(あ、でも、一緒に買い物した方が楽しいよね?・・・まあ、練習(妄想)は後にして、先に邪魔者を片付けて褒めてもらおうっと)
乙女心を暴走させつつ、ただ、思考は冷静?を保ち、不純な動機でバーンスを血眼になって探す。
・・・冷静?
幸いな事にドリューはユウとの戦いに意識を向けており、ニカ達敵陣はおろか、味方であるはずのバーンスをも気に留めていない様子である。
前回の戦いでもそうであったように、お互いをカバーし合う素振りを見せていない事から、契約関係であっても、両者とも利用し合う間柄でしかないのかもしれない。
PAOにおいて特別な立場となる契約者としては、もったいないスタンスであるが、この時ばかりは好都合である。
なんせ制限時間が3分しかないのだ。
制限時間が経てばユウのスキルが解け、再び不利な状態でドリューとバーンスを相手取らなければならない。
その為、ここで彼を討ち取る事は勝利への必須条件であった。
ただ、厄介な事に未だバーンスの姿を捉えられていない。
地上にいるニカやメロアはもちろん、上空から警戒しているベルでさえも発見出来ずにいる。
更には、ボス級のモンスターであるグリフォンリーダーもメロアの周囲を警戒するに留まっており、捕捉できていない事が窺えた。
彼のプレイヤースキルなのか、装備の効果か、それとも毒爵領地が進化したのか。
いずれにせよ、ニカは忙しなく周囲を警戒し、バーンスを探す。
PAOのみならず、世に出回っているVRMMOは自身が操作するキャラクターの目線そのままでゲーム世界に没入できるフルダイブ型が主流となっているが、その実、索敵行動などとは相性が悪い。
画面越しであれば、プレイヤーキャラクターを中心に前後左右、上下まで確認できるがフルダイブ型であれば、キャラクターの視覚内しか確認できないのだ。
もちろん、それはゲーム開発側の狙いでもあり、特に捜索系のゲームにおいて、制限時間を設ける事で、焦りを誘発して視界を更に狭めさせ、目的物を見逃させる手法をよく利用している。
制限時間内での敵捕捉アンド撃破。
偶然にしろ、難易度が上がったのは間違いない。
ユウがスキルを発動させてから1分が経とうとしていた。
ここに至るまで、バーンスからの攻撃はない。
つまり、彼もユウのスキル解除待ちである可能性が高い。
まだ捉えられない。
次第にニカの表情にも焦りがみえーー
ない。
彼女はとても落ち着いていた。
とてもとても。
「メロ先輩・・・オペレーションPM10!」
そして、声高々に作戦名を告げる。
「っ!」
名指しされたメロアは一瞬ビクッとし、何故か涙目になってニカの方を向くが、お使いを必ず遂行せんとする彼女からの超重圧をモロに受け、諦め、そして覚悟を決めた。
その作戦は性質上、ユウに対しても秘密裏に、ニカとメロアのみで練っていたものである。
「すねこすり」
メロアは小さくスキル名を呟く。
ー ふわり、ふわり ー
すると彼女の足元でそよ風が発生し、まるでじゃれつくように脚部に纏わりついた。
ー ふわり、ふわり ー
次第にローブの裾が風で波立ち、少しずつ捲り上がりーー
「あ、メロ先輩!パンツ見えるよっ!」
「っ!・・・やんっ」
作戦名を告げてから10秒経過した時、突然ニカは大声でメロアへ指摘した。
戦場の刻が一瞬止まる。
複数の視線を感じたメロアは、顔を赤らめて下を向く。
それは羞恥故か。
否。
悟られないように魔法詠唱する為故に。
そう、これは全て作戦である。
オペレーション『(10秒後に)PM』
フルダイブ型はモニター越しと違い、キャラクターの視覚内しか周囲を確認できない。
それでも何故フルダイブ型は人気なのか。
それは、モニター越しと違い、キャラクターの視覚内で周囲を確認できるからである。
つまりキャラクター目線、もっといえばキャラクターになった自分自身の目でその世界での出来事を見る事ができるのだ。
つまり
メロアのパンチラ(疑惑)も今この瞬間、臨場感たっぷりで見れるのだ!
ー 大抵の男は馬鹿である ー
何がとは言えないが、本能に抗えず、ついつい見てしまう。
そう、この作戦はそんな男を一網打尽にする狡猾な罠なのだ。
「ーー闇を暴け!白の極光!」
ー キュォオッ! ー
「ーー!」
詠唱が完了し、魔法が行使され、瞬間的に戦場全体が白い光に包まれた。
アーサーのスキルである『獅子座の輝き』とは違って輝きは一瞬であり、光そのものにダメージ効果もないが、直視すれば【失明】の状態異常が付与され、存在が暴かれてしまう。
声なき悲鳴が上がった場所、ユウとドリューの戦闘域から離れた岩場周辺において、マップ上に『バーンス』がマーキング表示されたのと、ニカが全速力で突進したのはほぼ同時であった。




