黒騎士狂戦士化作戦
『ディノ』率いる4人のパーティは意気揚々とグリフォンの巣を目指していた。
メンバーの士気は高い。
グリフォンリーダー討伐という特殊クエストをクリアすれば晴れてクランを結成できるのだ。
彼らは口々にクランネームの候補や、その他雑談に花を咲かせながらも油断のない足取りで岸壁と岩場で造られた天然の闘技場へと足を踏み入れる。
そこからは無駄な会話が消えた。
心に慢心はなく、対グリフォンの戦闘準備も万全。
初心者のように浮き足立つ事も、上位プレイヤーのように余裕をみせる事も無い。
自分達の戦闘セオリー通りに動いて倒すだけ。
堅実。
それがこの中堅プレイヤーで構成されたパーティである。
だから、事前に確認していた巣の状態と目の前の光景が食い違っていたとしても、彼らは僅かに驚きをみせただけであった。
コロッセウムには10頭程のグリフォンが岩肌の所々に控えており、そして、巣の中心にグリフォンリーダーが威風堂々と鎮座していた。
そこまでは情報通り。
問題なのは、そのリーダーの手前数メートルの位置にいる3つの黒いやつらである。
「黒騎士とこんな所で出会うとはな。まあ、オープンフィールドだからありえるっちゃありえるのか。なあ、あんたらも特殊クエストでか?」
ディノは黒い物体の1つ、黒騎士に話し掛けた。
以前、火竜目撃騒動の際、街で黒騎士と会話している為、その口調は少しだけ親しみがあった。
ただ、武器は構えたままである。
黒騎士達の立ち位置に違和感が拭えないのだ。
彼らも特殊クエストを受けているのなら、討伐目標であるグリフォン達と対峙していなければおかしい。
しかし、黒騎士達はグリフォンリーダーに背を向けて自分達の方を向いている。
まるで、グリフォン達と共にこちらと対峙しているようなーー
「ヴゥァァアアアアア!」
しかし、ディノの分析は最後まで続かなかった。
突如として、狂ったような雄叫びを上げて黒騎士が斬りかかってきたのだ。
「なっ!?」
これには沈着冷静なディノも面食らい、反応が遅れて先手を取られる。
ー キィイイン! ー
片手剣同士がぶつかり合い、甲高い音と火花が飛び散った。
「ゴァアアアアア!」
「ぐっ・・・!」
ー ギギィン! ー
ー ガァン! ー
黒騎士とディノは同レベル帯なので、実力やステータスに大差はない。
だが、黒騎士の狂人じみた雄叫びと気迫にディノは押され気味となり、上手く攻撃に転じる事が出来ず、防戦一方となってしまう。
「チッ!なんで!こんな!狂ったように!」
一合、二合と打ち合いを重ねる毎に少しずつHPバーを削られていくのを感じ、ディノは悪態をつく。
(他の奴はどうなってる!?)
仲間が気になったディノは打ち合いの最中、僅かに生じた隙をみて、横目で仲間の様子を伺った。
すると、タイミングよく『じんらい』が救援に向かってくる姿を捉える。
しかし
ー ドォン!! ー
黒い塊が一瞬見えたかと思うと、激しい衝突音と共にじんらいの姿が消えた。
「っ!?がぁっ!?」
その瞬間を見てしまったが故に唖然としてしまい、隙を突いた黒騎士に足を払われ転倒してしまう。
「ア"ァアアア!」
無防備となった身体の急所に、雄叫びを纏った黒騎士の剣が複数回叩き込まれ、HPバーを散らしたディノは光の粒子と化した。
「キィイヤァアアアア!」
その傍らでは、じんらいが突撃槍で岩壁に縫い付けられ、その眼前でもう1人の黒騎士、ニカが悲鳴にも似た雄叫びを上げている。
(何だこれ・・・)
粒子となってもなお理解が追いつかないままディノは消えていった。
リーダーであるディノが真っ先に倒された後、パーティが瓦解するまで時間はかからなかった。
じんらいは岩壁に打ち付けられたまま散り、残り2名も黒騎士達の狂気に気圧され、本来の実力が発揮出来ないまま討たれ、パーティは全滅となった。
「上手くいったねえ!」
「ああ!」
「イーヒィッヒィッヒィ!」
パーティメンバー全員が消えた後、勝利を納めたユウ達はハイタッチを交わす。
彼らの狂気に満ちた行動はニカの提案だった。
相手の理解の範疇を超えた言動をすれば、混乱を招いてペースを崩せるのではという考えを試したのだ。
作戦名は『なんちゃって狂戦士』である。
結果はご覧の通りであり、見事に相手の戦闘ペースを崩して、安定して有利な状況のまま勝利する事が出来た。
1人だけ狂気に入り込み過ぎて理性がまだ戻ってない以外は上出来である。
ちなみに、幼さの残る可愛い声なのに老婆じみた笑い声で不気味さを際立たせたメロアは、PNバレもあり、とあるネット掲示板で直ぐに注目の的となって、黒騎士達を黒魔術で狂戦士化させ従えているヤバイ奴として知名度が少しだけ上がった。
一度目が上手くいき調子を上げたユウ達は、2戦目、3戦目、4戦目と同じ作戦を使用し、また、グリフォン達の助力もあって、全てにおいて余裕のある勝利を納めた。
4戦を経ると、狂戦士具合も板についてきて、次の最後のパーティを待つ間は3人の間に会話はなく、全員が俯き状態であり不気味さを纏っていた。
そして
ー ザリッ ー
5戦目、最後のパーティがグリフォンの巣へと足を踏み入れてきた。
「ヴヴァアアアアアア!」
「ギィイイイヤアアア!」
「イーヒィッヒィッヒィッヒィ!」
3人は待ってましたとばかりに、歓喜の雄叫びを上げる。
気合い十分である。
ユウは顔をはね上げ、最後の生贄達を確認する。
装備からして実力者であるようだった。特に黒いローブを纏い、頭にリボンを着けた魔女っ娘スタイルのプレイヤーは群を抜いて強敵のようだ。
(ん?魔女っ娘?・・・んん!?)
狂戦士になりきるあまり思考停止していたユウの思考が今急加速する。
隣ではニカも同じく理性を取り戻したのかワナワナ震えていた。
「イーヒィッヒィッヒィ!」
メロアだけが事情を知らず、狂気に呑まれたままである。
「・・・何してるん?ユウ君?ニカちゃん?」
地獄の空気の中、黒騎士達にそう問い掛けるのは、空飛ぶ箒を抱えた魔女っ娘プレイヤー、ユウ達と前回のイベントで知り合った『ミルキー・ベル』であった。




