クラン結成(予約)
「あっ」
思わずユウは声をあげる。
渦中の人物のはずなのに、メロアの事をすっかり忘れていたのだ。
「大丈夫でしたか?」
一方、ニカは気遣うように優しく声を掛けた。
「は、はい、助けて下さりありがとうございますっ」
先程の戦いぶりを間近で見ていたメロアは緊張した面持ちで、首を何度も縦に振りながら肯定した。
「そっかあ、間に合って良かったです」
ほんのりと温かみを帯びた聖女のような声と、黒一色の重厚な見た目とのギャップが凄まじい。
「いえ、元々は身から出た錆?なのでっ!」
メロアもギャップに混乱しているのか、大袈裟なアクションで反応する。
「そう、私が悪いんですが・・・はあ・・・」
かと思えば、酷く落胆した面持ちで深くため息をつき、項垂れた。
「見ている限りでは相手が全面的に悪いように思えたのですが、何かあったんですか?」
「実はーー」
ニカの優しい問い掛けに、メロアはポツリポツリと語り出す。
数ヶ月前に友達の勧めでPAOを始めたこと。
現実世界で嫌なことがあった時、とあるプレイヤーに心を救われたこと。
彼に再び会ってお礼を言う為、探していること。
色んなパーティを渡り歩いたこと。
毎回役に立てなかったこと。
『ヘルフレイム』に勧誘されたこと。
役に立つ為に勧誘を頑張ってみたこと。
結局役に立てず今回の出来事に至ったこと。
なお、ジンのアプローチを断った事については、クラン勧誘の恩と気遣いから、メロアは胸の内に仕舞ったが、それ以外の事は包み隠さず話した。
もちろん、失敗談として公衆の面前で大和に抱きついた(※抱きついていません)件も口に出し、彼女が同じ大学の人物という驚きよりもやきもちが勝ったニカが、黒騎士に相応しいドス黒いオーラを溢れさせる事態に陥った。
(理由が分からないメロアはひどく怯え、事態を重く見たユウが身の潔白を晴らし、かつ、一生懸命宥める事で事なきを得た)
ちなみに
「そういえばユウ君って呼ばれてたけど・・・もしかして今日、大学で出会った結崎君?」
「そうなんです。先輩。俺です」
「おぉ〜、有名人って割と身近にいるんだ・・・」
ユウ達のやり取りから、黒騎士《ユウ』=大和だと察したメロアであったが、可もなく不可もなくの反応である。
「先輩は今後どうするんですか?」
ひとしきり話を聞き、会話が一段落したところで、ユウは気になる事を訊ねた。
「ん〜、ソロプレイは難しいからどこかのクランに入りたいんですけど、また迷惑かけたらどうしようって・・・」
メロアは困り顔で自嘲気味に答える。
「じゃあ、いっその事、先輩がクランを立ち上げたら良いんじゃないですか?クランマスターなら自分に合ったメンバーを選べますし」
「わ、私が!?」
その時、助け舟を出したのは意外にもニカであった。
彼女の突然の提案にメロアは目を白黒させる。
「・・・うん、良いかもしれない」
ユウも少しだけ驚いたが、考えてみれば悪くない案なので、ニカの提案に乗る事にした。
「ゆ、結崎君まで!?」
「先輩。PAOではPNでお願いします」
「あっ、ご、ごめんなさい。じゃあ・・・『黒騎士様』で」
「様!?」
「く、黒騎士様まで!?」
「わざわざ言い直した!?」
どうやらメロアの感覚は少しズレているようだ。
「先輩。俺の事は『ユウ』でいいです」
「い、いいんですか?噂じゃ正体不明ですし、PNも隠れているので、バレたら駄目なんじゃ・・・?」
「バレたら面倒臭いってだけで、駄目じゃないですよ。
それに、普段からニカさんとにPNで呼びあっていますし」
「あ、私の事も『ニカ』って呼んでくださいね」
「わ、分かりました。じゃあ、ユウ君、ニカちゃんで・・・っと、呼び方の話になっちゃいましたね」
メロアは照れ笑いを浮かべて話を続ける。
先程の驚きのせいか、その表情から自嘲の念は既に消えていた。
「私がクランをつくるという考えはなかったです。でも・・・私でもクランマスターになれますかね?」
その表情からは不安が窺える。
ただ、期待の色も浮かんでいる事をユウは見逃さなかった。
「大丈夫ですよ」
ユウは力強く肯定する。
大学の食堂では楽しく話せたし、それに、メロアには人を惹きつける魅力がある。
「それに、ゲームですから失敗したって良いんです。気楽に楽しみましょう」
兜を装着しているので笑顔を見せられない分、努めて明るくお気楽な声を出してユウは励ました。
「そうかあ、そうですよねっ!はい、頑張ってクランをつくってみます!」
背中を押されたメロアは自分のクランをつくる事に決めた。
そして、一度深呼吸した後、ユウとニカへと向き合う。
「じゃ、じゃあですね、2人は・・・その、私のギルドに・・・入ってくれますか・・・?」
「もちろんっ!私が言い出しっぺですしね」
「俺もです。ただ、ある目的があって、途中で抜けるかもしれませんが、それでも良いならお願いします」
「っ!あ、ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いしますっ!」
ユウ達の返答に、メロアの顔に笑顔が弾ける。
「私ギルドに憧れてたんだよ〜」
ニカはウキウキした声で両手を広げ、喜びを表した。
「その為にも早くレベル30にならないと」
ユウもやる気満々である。
思えば今までニカとパーティを組む事はあっても、基本的にソロで行動していた。
別に寂しさは感じていなかったが、仲良くふざけ合うパーティとフィールドですれ違う時など、大人数も楽しそうだなと思っており、また、パーティやギルドはMMOの代名詞である為、ユウもまた憧れを抱いていたのだ。
「ようし!そうと決まればお揃いのユニフォームを用意しないとっ!」
気合いの篭った調子で、独特なこだわりを見せる。
「お揃い・・・。そうだ!先輩!いいのがありますよ!」
メロアの言葉に乗っかるように、妙案とばかりにニカはある事を提案した。
それから数日後、黒騎士2人と行動を共にする、漆黒のローブで全身を覆った【渡り鳥】メロアの目撃情報がとあるネット掲示板に挙げられ、一部で話題となった。




