お仕置き
「クソが!黒騎士が2人いるっつう噂もマジだったのか!」
「慌てんな!あいつの槍は抜けてねえし、まだ2对1で有利だ!」
黒騎士の攻撃範囲から逃れる為に大きく後退しようとしたミカエラをコウキが押しとどめる。
(下手に距離を取ってあの槍が抜けたら最悪だ。それよか、こいつに張り付いて先に2人で畳み掛けた方がまだ勝ち目がある)
コウキは必殺のスキルを持つ分、まだ冷静に判断する余裕があった。
そして、このコウキの判断は適切であるといえる。
ただ、うまくいくかは別として。
「ニカさん。一度武器の装備を解除して」
「は、はいっ!」
2人の攻撃を受けながら押し止めているユウはコウキ以上に落ち着いていた。
2対1の不利な状況といえど、リンとの特訓よりは、はるかに易しい状況であったからだ。
特訓で毎度ボロ布と成り果てるのは伊達ではない。
急所への攻撃についても、『みんな楽したいから本能的に急所を狙ってくるんだよ〜』というリンのアドバイス(?)のもと、急所防御を徹底的に叩き込まれており、鎧だけでなく盾や剣を用いて守っている為、コウキの手斧は届かない。
ー ガキィ!ギィン! ー
「ちっ、全然当たんねえ!」
ユウの指示に焦りを覚えたコウキは、手斧を振る手数を増やすが、強固な守りに阻まれ続け必殺のダメージを与えるに至らない。
その間にも、ニカは『武装解除』を行う。
武装解除の操作はメニューウインドを開いて実行ボタンを押すだけの簡単なものだが、メニューを開く以上、隙が生じてしまう上に文字通り装備品が一瞬でも消えてしまう為、戦いの場において多くのプレイヤーは躊躇する。
だが、ニカには一切の躊躇いがない。
彼女はユウの指示を信じて疑わない。
その信頼できる彼が身を呈して相手を押し留めている今の状況なら尚更である。
結果として、木に刺さったニカの愛槍は消え、ユウ達から大きく距離を取りつつ再装備を実行した彼女の手元に戻った。
「ちぃっ!」
その光景をユウとの戦闘の合間に目撃したコウキは再び舌打ちを打つ。
「火竜の龍鱗!」
ー ゴゥオ! ー
ニカが影響を受けない距離まで後退したのを確認したユウは、ここぞとばかりにスキルを発動させ攻撃に転じた。
鎧が赤く染まり、灼熱と化した影響で周囲の景色が揺らめいく。
リンとの特訓の成果か、暴食公ドリュミラ戦の時よりも篭手盾や片手剣への熱伝力が上がり、各装備も赤みがかった黄色、黄赤色へと染まる。
その姿はまるで火竜。
「クソクソッ!クソがっ!」
危険を感じたコウキは悪態をつきながら大きく後退しようとする。
だが、それよりもユウの踏み込みの方が早かった。
斬る動作よりも突く動作の方が早い為、そのまま左手の篭手盾をコウキへと突き出す。
「っ!」
ー ジュォオッ! ー
篭手盾に備わった3本の鉤爪は、コウキの鎧を容易く熔かし貫いた。
「あ!?」
ダメージエフェクトを撒き散らかし、衝撃によろめきながら、彼は非難とも驚愕ともつかない声を出す。
「こーー」
続く言葉ごと身体を黄赤色の刀身に断ち切られたコウキは、例のごとく光の粒子となって消えた。
残り1人。
ユウはコウキを見放して既に距離を取っていたミカエラの方を向く。
「降参だ、降参!攻撃を止めてくれ!」
仲間が倒された時点で彼は己の武器をしまい両手を挙げていた。
その頭上には赤い文字で『⚫RCE』と書かれたカメラのアイコンが表示されている。
「っ!」
斬り込もうとしていたユウは思わずたたらを踏み立ち止まった。
録画されている。
このまま攻撃を仕掛けたら、無抵抗のプレイヤーに襲いかかったという歪曲した事実が広められてしまい、場合によってはPAOを楽しみづらくなってしまう。
卑怯なやり口だとユウは歯噛みして剣を降ろす。
「ははっ。そうそう、それで良いんだよ。はあ、全くめんどくせえ。俺はジンに付き添ってただけだってのに」
声は録音しない設定のようで、ミカエラは薄ら笑いながら愚痴を呟く。
そして、攻撃を躊躇う黒騎士の姿を見て調子に乗った彼は、挑発するように言葉を吐き捨てた。
「俺からジンに言っとくし、もうメロアは要らないから好きにしろよ。これでいいだろ?デスペナなんてだりいし、さっさとーー」
ー ドゴォオン! ー
「あっ」
RCE(録画)を利用して主導権を握ったミカエラであったが、無情にも文字通りの横槍を入れられた。
入れたのはもちろんニカ。
録画アイコンが見えなかったのか、そもそも気にしていなかったのかは定かでないが、結果としてミカエラは他のギルドメンバーと同じ末路を辿った。
「付き添っていただけなんて言い訳は通用しないわ」
☆さな姫★とは別の大木にミカエラを打ち付けてきたニカは憤然とした様で、スキルが切れて黒鎧姿に戻ったユウの元へと歩み寄る。
その凛とした姿はさながら聖女を連想させた。
(やった事はワラキアの串刺し公さながらなんだけどな)
その感想はもちろん口には出さず、ユウはそっと心にしまい込む。
まあ、そもそも相手方の行いが悪いのだから、同情の余地はないのだが。
「お疲れ様、ニカさん」
近づいてきたニカにユウは労いの言葉をかける。
その一言で彼女から怒りのオーラが消え、代わりにポワポワした雰囲気が醸し出された。
「ユウ君もね〜」
たぶん、ユニコーンを模した兜の中は満面の笑みを浮かべているのだろう。
「あ、あの」
すると別方向から第3者の声がして、ユウ達が顔を向けると、そこには魔法使いのローブを纏った可憐な少女の姿があった。
渦中の人物、メロアであった。




