小悪魔な彼女
『ジン』の怒鳴り声を前に、『九条ゆりあ』こと『メロア』は恐怖で身を竦ませていた。
(またやっちゃった・・・)
メロアは下を向いて罵声に耐える。
レベル30に上がったのは4月の始め、また、今所属しているクラン、『ヘルフレイム』へ勧誘されたのもその時であった。
彼女はレベル30になるまでに複数のパーティを渡り歩いていた。
だが、それはメロアが意図した事ではない。
何故か彼女が参加したパーティは数日の間に解散してしまうのだ。
(鈍臭い私にはチームプレイなんて無理なのかな)
メロアは自嘲する。
解散の原因はいつでも彼女にあった。
ただ、彼女が考える原因と実際の解散理由は異なる。
メロアは自身の動きが悪く、パーティの足を引っ張るからパーティの雰囲気が険悪になり解散に至ると考えているが、実際は彼女を取り巻く人間関係が原因であった。
多くの場合、メロアを勧誘したパーティメンバーの誰かが彼女に好意を抱き、脈なしと分かると逆上、好意が憎しみに変わり、やがて彼女を邪険にし始めるのだ。
あるいは、好意を抱くメンバーが複数人いた場合には、出し抜き合いが生じてパーティ内の関係が険悪になり空中分解が起きる。
また、それだけではなく、時には同性のプレイヤーからも嫉妬を向けられ、 誹謗中傷の的になる事もあった。
つまるところ、原因はメロアが可愛いからであった。
容姿はもちろん、仕草、そして、少し抜けているところさえも、周囲の異性にとっては魅力的に映るのだ。
そして、不幸な事にメロアこと九条ゆりあは異性および、恋愛の機微に疎かった。
彼女は中高とも女子校であり、家族においても父親しか異性がいない為、同年代の男性との接し方が分からず、時々距離感を見誤ってしまうのだ。
今回も誘う側の意図は例に漏れず、ギルドマスターであるジンが街中でメロアを見初め、スキルを口実にして彼女を勧誘した事から始まった。
ジンの本心を知らないメロアにとって、スキルを理由に声を掛けられたのは初めてであり、今度こそ他のプレイヤーの力になれると喜んで加入した。
始めの頃こそ、少人数のクランメンバーで楽しくプレイしていたのだが、ゴールデンウィーク直前にジンからアプローチを受けた時、メロアは突然の事に動揺しながらも断った。
そして、それがジンの怒りを買い、以降、手のひらを返したかのように難癖を付けられ責められるようになってしまったのである。
パーティメンバーはメロア以外、ジンの取り巻き的立場の者ばかりであったので、異を唱える者はおらず、ジン同様、彼女に無理難題を押し付けていた。
(もうここも駄目なのかな)
ギルドに加入したての楽しかった頃に戻れればと一生懸命頑張ってきたが、さすがにここまで拗れたら無理だろう。
このフィールドから街へ戻ったら自分からギルドを脱退しよう。
そうメロアが心に決めた直後。
「お前もういらねーからギルド抜けろ」
ー ピロン ー
【ギルドマスターの権限でギルドから除名されました。】
ジンの冷たい言葉と、無機質な通知音がメロアの耳に飛び込む。
「う、うう・・・」
ギルドを抜ける。
そう自分でも決めたはずなのに涙が溢れてきた。
私はそこまで嫌われてたんだ。
まさか冷たくされていた理由が、ギルドマスターの告白を断っただけだと当の彼女は知る由もなく、泣き崩れるのを我慢するので必死であった。
「短い、間だった、けど、あ、りがとう、ございましたっ・・・」
嗚咽を漏らしながらであるが精一杯の虚勢を張り、泣き笑いの顔で別れを告げると、メロアはギルドのメンバーに背を向けて歩き出そうとした。
「待てよ」
だが、その行動さえもジンの前では許されなかった。
彼女が振り返ると、そこにはニヤつきながら武器を取り出すジンの姿があった。
「約立たずだったが、最後に役に立たせてやるよ」
鞘から抜き放たれた片手剣の刀身が怪しく輝く。
「俺の経験値にしてやる!」
「い、いやーー」
メロアの反論など元より聞く気のないジンは、歪んだ想いを込めて愛用の片手剣を彼女へと振り下ろす。
ー キィイイイイン! ー
濁った剣とは裏腹に、澄んだ音が山林内に鳴り響いた。
「あっ!?」
終始ニヤついていたジンの表情が驚愕へと変わる。
メロアにダメージを与えるはずであった片手剣が、ジンとメロアの間に突如割って入ったプレイヤーによって防がれたからだ。
その者は黒一色の全身鎧を身に纏っていた。
その者には何故かプレイヤーネームとレベルの表示がなかった。
その者こそは、『黒騎士』であった。




