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暴食公ドリュミラ

「おいおい、俺のPNプレイヤーネームをバラすんじゃねえよ」


「我輩の契約者ならば堂々と名乗れば良い」


「こっちにも色々あんだよ。面倒くせえ」



『ドリュー』の登場に意表を突かれ、襲撃者バーンスへの反撃に失敗したユウであったが、彼らが軽く言い争いをする間に、軽麻痺の効果が切れて身体が軽くなった。



「もう動けるはずだしニカさんは逃げて」


「ユーー」


火竜フレアドラ炎鱗スケイルコート!」



ニカに囁き掛けると、彼女の返事を待たずしてユウはスキルを発動させ、バーンスへの間合いを一気に詰める。


リンとの特訓で、最初から受け身にまわっても良い事がない(そもそも受け切れずに潰される)と散々叩き込まれたユウは先手必勝とばかりに、刀身が"黄色"に変色した剣で袈裟斬りを放つ。



「はっ!馬鹿が!」



対するバーンスは待ってましたとばかりに、ソードブレイカーでユウの剣を受け止めにいった。


奇襲として最高のタイミングであり、本来ならば反応できないはずだが、バーンスは自身のオンリーワンスキルである『毒爵ヴェノン領地テリトリー』の効果時間を完全に把握しており、ドリューとのやり取りの間も密かに身構えていたのだ。



先手必勝スタイルのユウに対して、彼の基本スタイルは迎撃。


攻撃を仕掛けてきた相手が領地スキルに入り、動きが鈍ったところをソードブレイカーで受け止め、武器を破壊するのが常であった。


そして、バーンスは今回もユウの剣が自分のソードブレイカーによって破壊される事を疑わなかった。



だが



ー ズシュゥウウウ! ー


「っ!」



袈裟斬りを受け止めたソードブレイカーは、バターのように熔け斬られ、ユウの剣はそのまま勢いを衰えさせる事なく、バーンスの首元から腰までを錆色の軽鎧ごと抉り裂く。



「なんーー」


疑問を口にする間もなく、HPバーを一瞬で散らしたバーンスは光の粒子となって消えた。



「スゥッ」


彼が消えた事を確認したユウは息を吸い込む。



ネット掲示板のおかげで範囲攻撃について少しだけ知識のあったユウは、焼け石に水かもしれないが無対策よりは良いと、間合いを詰める前から息を止めていたのだ。


結果としてユウの策は功を奏し、状態異常の範囲攻撃を突破してバーンスへと一太刀入れる事ができたのである。



また、バーンスは知らなかった。


竜鱗スキルの灼熱を剣の刀身に宿す武技をユウが身に付けた為、並大抵の武器や防具では歯が立たない事を。


更に、ユウの剣が魔石狼オルタナの素材で強化され、熱の伝導度が上がって強力になっていた事を。



バーンスを倒した後、ユウは息つく間もなく、今度はドリューへと攻撃を仕掛ける。


ニカが安全圏まで脱するには、もう少し時間稼ぎをする必要があり、また、竜鱗スキルの発動時間は有限なので、たとえ相手が強力なモンスターだとしても臆している暇などなかった。



フィールドを徘徊するモンスターなどとは比べものにならない威圧感に身が竦みかけるが、主人である火竜姫リングレットよりはマシだと腹を括る。


幸いにもドリューの全長は動物園などにいる一般的なライオンと同じくらいなので、戦う前から心が折れる程ではなかった。



「はっ!」


ー ヒュオッ! ー



ドリューを間合いに納めたユウは、その頭部目掛けて鋭く斬り上げる。



ー タンッ ー


ー ゴゥッ! ー



ドリューは体格に似合わない軽やかなステップで斬撃を避けると、尋常ではない速度で腹部に食らいつく。


一瞬の出来事だったので、ユウは反応する事もできず、強靭な顎で灼熱の赤鎧ごと噛み千切られた。



「む?」


手応えがない事に疑問をもったドリューだが、その瞬間にはもう、牙で砕かれたユウの身体は揺らめいて消え、変わりに、横から自身の首元へ刃を振り下ろす彼の姿を視界の端に捉えた。



「ふっ!」


ー ヒュッ! ー



「陽炎」で隙を突かれて無防備となったドリューの首へとユウの必殺の一撃が迫る。



タイミングは完璧。


急所の為、大ダメージ必至。



ー ギィイイイン! ー



しかし、首を断ち斬るはずの剣は、ドリューのタテガミに阻まれ刃の勢いを止められてしまった。



「なっ!?」


ー ドゴォオオオ! ー



千載一遇のチャンスに失敗したユウは、動揺を突かれ、蠍尾の振り払い攻撃を受けて吹き飛ばされた。


ぶつかった民家の壁を破壊しながら隣道まで飛ばされたユウは、立ち上がって体勢を直すと共に自身のHPバーを確認すると、3分の1程が失われていた。



「火竜の熱が効かないのか?いや、もしかしてーー」


「火竜姫の騎士といえど所詮は人間。我輩の敵ではない」



先程の攻撃について少し考えていると、 大穴の空いた壁からドリューが姿を現す。



そのHPバーは僅かも減っていない。


それでもユウは再び剣を構える。



「無駄である事が分からぬか?」



ドリューは呆れた口調でユウへ問うが、彼は返事する間も惜しむように攻撃を仕掛けた。



ー ゴゥッ! ー


右前足の鋭い打ち払いを避け、その足を斬り落とさんと剣を振り上げる。



ー ギィン! ー



その攻撃は反対の前足の爪で防がれ、返しに蠍尾の先端に付いている毒針が突き出される。


ユウはすんでのところで避け、今度は伸び切って無防備となった尾を狙う。



「しっ!」


ー ジュオッ! ー



すると、剣に触れた尾の部分がたちまちバターのように熔け、毒針を含む尾の先端が断ち斬られた。



「ぐっ!?」


ドリューは苦悶の表情を浮かべると、ユウから距離をとる。



(やっぱり)



ユウは心の中で確信した。



剣で首を熔け斬れなかった時は驚いたが、なんてことは無い。今のユウの実力スキルでは通じない部位があるだけの事だった。


その証拠に、初撃は回避行動をとっている。


ユウの攻撃が全く効かないなら、避ける必要もなかったのだ。



尾の先端を失ったドリューのHPバーを確認すると、僅かであるが減少していたので、勢いに乗ったユウは追撃の為に距離を詰める。



「舐めるな小僧!」



格下相手ユウに傷を負わされた事でプライドを傷付けられたドリューは、激昂して飛びかかった。



ー ドンォッ ー



押し潰されたユウの身体は、再び揺らめいて消え、今度はドリューの斜め後ろに、武器を構えた状態で姿を現す。



相手が激昂している時こそ陽炎がよく効く。



無防備となった後ろ足に向けて、今度こそ断ち斬らんと剣を振るう。



ー ズシャアッ! ー



通常の斬撃音を伴い、剣はドリューの後ろ足を斬り裂く。



3分はとても短い。



剣が後ろ足へ到達する前にスキルが切れてしまったのだ。


おかげで、期待していた程のダメージを与える事ができず、ドリューの足を引きらせる事も叶わなかった。



「フ、ハハハハハ!命運尽きたな小僧!」


黒鎧姿に戻ったユウを見てドリューは嘲笑う。



(ここまでか。でも足止めは十分できたはず)


元々、強力なボスクラスのドリュー相手にユウ単独での勝ち目は皆無に等しかったが、頼みの綱の竜鱗スキルも尽きた今、もはや敗北確定となった。


しかし、本来の目的は達成できたので、ユウの顔に曇りは無い。


それにスキルを使用すれば通用する事も分かり、収穫は十分であった。



(後は本来の実力がどこまで通用するか試させてもらおう)


だからといってタダで敗けるつもりもなく、ユウは最後まで戦おうと剣を構える。



「勝ち目がないにも関わらず、まだ武器を手にするか」


ドリューの声は侮蔑を含んでいた。



「バーンスにせよお前にせよ、契約者は他の人間より少し強いだけで何の役にも立たぬ。それよりも無限に湧き出るここの村人エサどもの方が我輩の腹を満たす分、大いに役立っておるぞ」


「・・・もしかして、ここに人がいないのは」


「我輩が食した。味は下だが無限に湧き出るゆえ、妥協しておる」


「・・・」



ここに住人がいない理由は分かったが、ゲームとはいえ聞いていて気持ちの良い話ではなかった。


構わずドリューは、狩場むらにおける数々の暴食おこないを自慢げに話す。



「さあ、話は終わりだ。そういえば、契約者の血肉は美味だとの噂だ。何の役にも立たぬ貴様達だが、その身を以て我輩、『暴食公ドリュミラ』の役に立たせてやろう」


微かに震えるユウを見て、戦意が喪失したと認識したドリューは、話を切り上げ食事けっちゃくへ移る。



確かに剣を構えるユウの手は微かに震えていた。


しかし、それは恐怖からでなく武者震いであった。


分かりやすい悪者モンスターと戦う事に一種の高揚感に包まれたユウは、いざ斬り込まんと足に力を込める。



だがその時、ドリューの背中越しに村外へと続く道の先で光が煌めくのを、ユウは目撃した。

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