錆色の襲撃者
「チッ、黒騎士かよ。しかも2人とかカッタリィ」
ユウ達と対峙する契約者の第一声は悪態であった。
青年と思しき低い声音であり、明らかにローテンションである。
しかし、その言葉とは裏腹に武器は構え続けており、隙をみせれば瞬時に攻撃されそうな程、戦意に溢れていた。
「俺達の事を知っているのか!?」
「ああ?自覚ねえのかよ?お前らイベントにも出てただろ」
ユウの問い掛けを襲撃者は嘲笑で一蹴し、これ以上の会話は面倒だとでもいうように、ユウ達へ襲いかかるーー
事もなく、素早く横にステップすると民家と民家の間に入り込み姿を消した。
「えっ?」
迎撃体勢をとっていたユウは呆気に取られ、我に返った時には既に襲撃者を見失っており、追跡する事も叶わなかった。
「逃げたのかな?」
「いや・・・、逃げるなら最初から攻撃してこないはず。たぶん、また奇襲の機会を覗っているんだ」
ニカの希望的観測を否定し、ユウは頭上も含めて周囲を警戒する。
襲撃者は先日のイベントも含めて、ユウ達の事をよく観察していたらしい。
それは襲撃者の戦法にも表れていた。
ユウのスキルには時間制限があり、発動タイミングを見極めなければ無駄になってしまう。
ニカのスキルも正面切っての戦闘では強力だが、先程の森林内のように障害物が多い場所では十分に効果を発揮できず、強さが激減してしまう。
つまり、障害物が多い場所で奇襲を仕掛けてくる敵は、ユウやニカにとって鬼門なのである。
襲撃者の戦闘スタイルが元々そうであるかは分からないが、現戦闘について分が悪い事は違いない。
先ずは村から抜け出さないと。
ユウ達は襲撃を警戒しながら、村内からの脱出を試みる。
だが
(身体が・・・重い・・・?)
確認すると、視界の端に何故か『軽麻痺』が表示され、状態異常となっている。
『軽麻痺』は『重麻痺』や『麻痺』のように身体の自由を奪う事はできないが、身体能力を下げる効果をもっている。
(・・・攻撃を受けた時か)
奇襲で受けたダメージに状態異常効果が付与されていたのだろうとユウは推測する。
残念ながら、麻痺の解毒薬は手持ちにない。
村を抜けるまでは、まだもう少し距離がある為、一か八か次の奇襲時にスキルで迎え撃つ事を決めたユウは、ニカだけでも逃がそうと、この後村から全力で駆け抜けるよう彼女に指示した。
「ユウ君ごめん。身体が・・・重いの」
しかし、ニカの返答は否であった。
彼女もまた状態異常にかかっていたのだ。
「まさか」
ー ギィイイン! ー
ユウが驚くと同時に、襲撃者が民家の陰から躍り出て彼の右腕を斬りつける。
「このっ!」
ユウはダメージを負いながらも、左手の盾で殴り付けようと突き出すが、簡単に避けられてしまった。
「まだ!」
ニカもランスで突進するが、状態異常でいつもの速度が出ず、再び襲撃者を家の陰へと隠れる事を許してしまう。
「くっ!」
反撃に失敗したユウは歯噛みする。
そして、心做しか先程よりも身体が重い気がする。ニカにも確認を取ると、彼女も同じ状態らしかった。
「やっぱり・・・『範囲攻撃』か」
ユウは状態異常の原因を範囲攻撃によるものだと断定する。
通常、防具で守られている部位を攻撃された場合、防御力に応じたダメージは受けるが状態異常は防ぐ事ができる。
全身鎧なら尚更である。
しかし、それらの守りをすり抜けて状態異常を与える方法がある。
それが範囲攻撃である。
PAOにはゲームシステム上、『空気』と『呼吸』が存在している。
特にゲージや数値は設定されていないが、息を止められる時間は限られており、また、水中などの空気がない場所については、対策しない限り徐々に視界が暗くなり、最終的に死に戻りとなってしまう。
状態異常の範囲攻撃は、その空気と呼吸を利用して、範囲内にいる全員に状態異常を付与する。
全身鎧だろうと状態異常に罹るのだ。
唯一の救いは、一度に複数のプレイヤーを状態異常にかける事ができる分、付与する効果が弱いところであるが、それも重ね掛けされれば効果が強まってしまうので、効果が弱いうちに原因を潰す、効果範囲から抜け出すなど、早急な対応が必要となる。
(ここが勝負どころだな)
そう判断したユウはニカにも呼び掛け、壁を背にして再び迎撃の体勢をとる。
ニカもすぐ隣で同じように壁に背を向けて、突撃槍の槍先を頭上に向けて上からの奇襲に備えた。
これで上や背後からの奇襲はない。
それでも、襲撃者は必ず攻撃を仕掛けてくるとユウは踏んでいる。
ユウ達が軽麻痺に罹ったのは、いずれも襲撃者に接近を許し斬られたタイミングである事から、効果範囲はそう広くないはずである。
また、状態異常の範囲攻撃については、重ね掛けする事により効果が強くなる一方、効果の持続時間も短く、一定時間を過ぎると効果が切れてしまう。
その為、襲撃者は一定時間内に重ね掛けせねばならず、つまり、ユウ達に接近する必要があるのだ。
「チッ、小賢しい真似しやがって。面倒くせえから逃げんなよ」
果たしてユウの推測通り、ローテンションな声音と共に、錆色の軽鎧に身を包んだ襲撃者が、近くの民家の陰から姿を現す。
「満足に動けねえクセに最後の悪あがきとはご苦労なこった」
状態異常に罹っているユウ達の姿を見て、少し余裕ができたのか、襲撃者は無駄口を叩きながら距離を詰めてくる。
残り十数メートル。
ユウはスキルを発動させるタイミングを見計らい、ニカも攻撃のタイミングを窺う。
「それにしても、わざわざ俺達の狩場に寄ってくるなんて、お前ら暇人か?」
「狩場?」
「お前らも哀れな獲物って事だよ」
襲撃者は気になる単語を口にしたが、それ以上は何も言わずに更に接近し、残り10メートルを切った。
ソードブレイカーを構えた襲撃者は、1歩2歩と確実に距離を詰める。
9、8、あと少し。
7、6、5、そして。
残り4メートルを切るか否やのタイミングでユウはスキルを発動させる。
「火竜の炎ーー」
「待つのだ、『バーンス』。彼奴らは何かを狙っておる」
しかし、突如頭上から聞こえた何者かの声に、ユウはスキルの中断をせざるをえなかった。
「チッ、面倒くせーな」
ユウやニカの間合いからギリギリ逃れたバーンスと呼ばれた襲撃者は、悪態をつきながも素直にユウ達から距離を取る。
「いいのか?『ドリュー』。そろそろ状態異常の効果が切れんぞ?」
「よい、後は我輩がやる」
ー ズン ー
襲撃者の忠告をサラリと聞き流したソレは、民家の屋根から地面へと降り立つ。
「さあ、人間よ。我輩の血肉となれ」
ソレは大型のライオンの姿をしていた。
ソレの尻尾はサソリのように節があり、折れ曲がっている。
ソレの顔は、人間とライオンが融合したかのようだ。
ソレこと『ドリュー』は、『マンティコア』と呼ばれるモンスターであり、そして、ユウ達が初めて敵対する特別なモンスターであった。




