遊園地①
GWも残すところあと2日となった日の朝9時頃。
大和は大学近くの駅でとある人物を待っていた。
スマホをポケットから取り出し画面を確認する仕草を数十秒に一回行っており、心なしか少し緊張しているようである。
数分後、待ち人が小走りでやってきた。
「ご、ごめんなさいっ。寝坊しちゃって・・・待った?」
「俺も今来たところだし大丈夫だよ。それと、おはよう」
大和が優しい声でフォローすると、寝坊して遅れてきた彼女、西織花奈もホッとしたのか、泣きそうな顔からはにかんだ笑顔になる。
「あ、お、おはよう・・・えへへ、ありがとう。結崎君。今日はよろしくね」
「こちらこそ。それじゃ、行こうか。西織さん」
「うんっ」
今日はPAOの中で以前『ニカ』こと花奈と遊ぶ約束をしたその日であった。
青空の下、2人は駅構内へと入って行く。
目的地は隣の県にある遊園地。
VR技術の発達により、天候に左右されずにアトラクションを体験できる屋内型アミューズメントパークが主流となっている昨今、 屋外型の施設はその数を減らしており、入場者数も減少傾向にあった。
だが、皮肉にもそのおかげで長時間待たずにアトラクションに乗る事ができるので、ある種の穴場スポットとなっている。
開園時間近くに大和達が着いた時も、入場ゲート前にはそれなりに人が多いが、長時間待たされる程でもなかった。
大和達が訪れている遊園地は、プールや買い物ができる施設が隣接する複合型のアミューズメントパークである。
プールは現在季節外である為使用できないにしても、買い物エリアには百以上の専門店が並び、様々なジャンルの商品が売られているので人気が高い。
その為、ほとんどの者は入場後に買い物エリアへと舵を切る。
一方、遊園地エリアへ向かう者はそう多くなく、ほぼ貸切状態であった。
大和と花奈は急がずのんびり歩きながら、どのアトラクションに乗ろうか話し合う。
「最初は何が良いかな?」
「んー、コーヒーカップとかどうかな?」
「良いね。ウォーミングアップに丁度だ」
2人は雑談を交えて会話を弾ませながら目的のアトラクションへと向かった。
実は2人とも今まで一度も異性と遊びに行った事がない。
花奈の遅刻もそれが原因であり、自分から誘ったとはいえ、初めて異性と、それも気になる相手と遊びに行く事を意識してしまった為、なかなか寝る事ができず寝坊してしまったのだ。
一方の大和も、待ち合わせ時のちょっとしたハプニングでは落ち着いた態度を見せていたが、内心ではドキドキであった。
最初こそ、お互い緊張して遊園地までの移動中は会話がぎこちなかったが、電車の窓から遊園地が見え始めると、2人の心は一瞬でそれに奪われ、遊園地での思い出話や好きなアトラクションといった話題に花を咲かせるうちに緊張が解れ、いつもの落ち着きを取り戻す事ができた。
(せっかくの遊園地なんだから楽しんだ者勝ちだな)
大和はいつもの雰囲気に戻った事に内心ホッとしながら、昨日の夜にネットで少しだけ調べたデートの心得を思い出す。
『余計な事は考えず、全力で楽しもう』
もちろん、相手への気遣いは必要だが、それ以上のリードやエスコートといった気負いはNGであり、自然体でお互い楽しむ事が大切だという事なので、大和もそれに従い、今日は全力で遊ぶ事に集中する事にした。
コーヒーカップに始まり、子ども向けのジェットコースター、急流滑り、ちょっと激しいジェットコースターと、テンポ良くアトラクションを2人は堪能する。
大和は全てのアトラクションを心から楽しみ、無邪気な笑顔を弾けさせた。
また、それを見た花奈も笑顔の花を咲かせる。
ネットで見たデートの心得は正しく、傍から見た2人は、仲の良い幸せなカップルそのものであった。
「こ、怖いから手繋いでいいでしゅか?」
「みょちろん」
怖いと噂のお化け屋敷に入る前にお互い緊張で言葉を噛むといったハプニングも含めて、2人は終始良い雰囲気を漂わす。
だが、その時は唐突にやってきた。
「あれ?もしかして花奈?」
突然、聞き覚えのない女性の声がしたかと思うと、隣にいた花奈が表情を曇らせて固まった。
不思議に思った大和が声のした方を振り向くと、そこには同い年くらいの男女が立っていた。
そのうち、気の強そうな雰囲気を持った女性の方が、近付いて来て前方へと周り込み花奈の顔を確認する。
「やっぱり花奈じゃん!久しぶり〜!元気にしてた?」
「ん、うん・・・久しぶり、だね」
女性は軽薄な笑みを浮かべて、花奈へ話し掛ける。
対して、花奈は俯き加減に、消え入りそうな声で応えた。
「どうしたの〜?元気ないじゃん。あ、もしかして隣にいるのって彼氏?今度は誰のを奪ったの?」
彼女は見下した口調で花奈の心を抉り、大和を不躾に眺める。
「っ!ち、違っ。結崎君はまだ・・・それに榛原君とも別に何も!」
「あっそ。まあ別にもうどうでも良いけどね〜。あ、そいつ結崎っていうの?すっごく地味〜」
彼女の矛先は花奈のみでなく、大和にも向けられた。
攻撃的な彼女を冷静に見つめる大和は、直感的に、以前花奈から聞いた高校生時代に孤立した出来事に関与した人物であると感じた。
「ねえねえ、つっ君。あれダサやばだよね」
「ああ、マジだせーよな」
つっ君と呼ばれた男性も、彼女同様、軽薄な笑みを浮かべて、大和を不躾に眺めて嘲笑する。
その後も、鬱憤を晴らすかのように女性の嘲笑は続き、花奈は下を向いて時折震え、何かに耐えているようであった。
花奈の高校時代に何があったか、だいたい察した大和は、我慢する事を止めて行動に出る。
自分の信じる者の味方をする為に。




